第六十一話 屋上へ呼び出し
「校内で呼び出されるなら職員室か体育館裏だと思っていたが、まさか屋上とはね。西生さん、屋上が立ち入り禁止だって知らないのかい?」
十一月の寒空に屋上で待ち合わせとはなかなか辛いものがあるな、と斎藤は冷える身体を擦る。日が登って数時間とはいえまだまだ気温は上がりきっていない。
カウンセラーというイメージに沿って白衣を来ているものの防寒性は薄い。
季節による温暖、熱いだの寒いだの人間は面倒なものだなと季節ごとに思う。しかし、わざわざ擬態して人間社会に溶け込んでいるのだから、それを味わうのも悪い気はしなかった。
「立ち入り禁止の紙、破けてました」
斎藤を睨みつけ対峙する、西生奈菜。
巫女装束ではなく、学校指定の紺色の制服。斎藤と違い吹きつける冷たい風など気にもとめていない。
「注意書きがあることを知っているなら、立ち入り禁止だと認識してたんじゃないのかい? 良くないよ、そういう裏をつこうって考え方。ルールはルール、ちゃんと守らないとさ。ここ、タバコの灰だらけになっちゃうよ?」
赤信号、皆で渡れば怖くない。一人がルールを破ったなら、他の誰かが良しとして真似る。そして、悪化の道を辿るようになる。
「そんなに不良生徒が?」
「生徒だけじゃないよ、不良ってのはね」
斎藤はおどけて見せるが、奈菜は眉一つ動かすことなく睨み続けたままだった。
「そんなに睨むことないじゃないか? 僕のことを気に食わないというのなら、ほら、えっとアレどうしてたんだっけ?」
斎藤はそう言って合掌したり、手のひらをゆらゆらと動かしてみせる。
「西生家の力で消してしまえばいいじゃないか。いつものことだろ?」
「・・・・・・出来るならとっくにやってます。わかっているんでしょ? 力が使えないこと」
「はは、失礼失礼。こちらとしても予想外な出来事でね、嬉しくなっちゃってつい。彼女の力は凄いね。まさか西生の力を飲み込むとはね。効かないほど力が上回るという事例はあれど、今回は特別だ」
斎藤は両手を空に掲げ、歓喜に満ちて口元を歪ませる。
「まぁそれに西生さん、君の力じゃぁ、僕に傷一つつけれないよ。お姉さんでも難しいんじゃないかな。僕はそれなりに長い間、生き長らえてるからね、見た目より随分と頑丈になった」
この姿は気に入ってるんだ、と斎藤はお気に入りの服を披露するように奈菜に見せつける。ワイシャツがはち切れそうになった肥満体に頑丈かどうかのギャップは結びつかないのだが、斎藤はその揺れる脂肪を自慢気にしている。
「名のある鬼、貴方がそうであると言うんですか?」
「西生家ではそう呼ばれてるのかい? そう僕らを呼んで対峙された記憶が無いので知らなかったな。もちろん、こちらからそう名乗った覚えはないんだが、ネーミングセンスってのが無いもんだね。そのまんまじゃないか」
「茶化さないでください」
「おっと、失礼。仕事柄、人の話を聞くことが多くてね。茶化すつもりはないんだが、自由に話せるとなるとついつい色々とツッコんでしまうんだ。日頃の反動だね、鬱憤ってほどではないのだけど」
肩をすくめる斎藤。人に擬態した鬼は、人と同じくストレスを感じるのだろうか? それすらも擬態するのだろうか?
「それで、力が使えないとわかっていて、僕をわざわざ屋上にまで呼び出した理由はなんだい? 話があるならカウンセリング室でも良かったんだけど。あそこの方が、仕事してると思ってもらえて僕も楽だしね」
「貴方の領域で話をしようなんて思うわけないでしょう!」
「なるほど。なら、この屋上は君の領域、と言ったところか。思ってたより不良生徒なんだな、西生さんは」
「そんなことはどうでもいいんです。彼女は──和美は何処ですかっ!?」
全てを助けたいと願った、高城和美。助けたいと鬼にまで宣言した和美は、その願いを実現した。西生家の力が関わった全ての記憶、全ての被害を都合良く修正するように、和美の願いは全てを書き換えた。
矢附舞彩はいじめられていなかったことになり、笠原朋美のバイト先は笑顔の絶えない職場となり、笠沼正太は人を殺すことなく、祓われることなく、小学校に通っている。
「平日の朝に学校に登校してきていないとなるとそりゃ、家にいるんだろうね。久しぶりに会うお姉さんとの時間を大事にしたいんじゃないのかい? ほら、あの首吊って自殺しちゃったお姉さんと、さ」
《お手伝い》、高城和美。
誰かの助けになりたいと願うのは、最愛の家族を助けられなかった為。誰に咎められたわけでもなく、自身で定めた贖罪。
「お姉さんの死は鬼とは無関係なんだよ、お姉さんは自分勝手に絶望して自分勝手に死んだ。それを無かったことにするなんて、彼女はさ、鬼の力の範疇すら超えているんだ、凄いだろ!!」




