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焼きそばパン大戦争  作者: 清泪(せいな)
最終章 焼きそばパン大戦争

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第百四話 ベッドの上の少年

 頭に叩き込んだ三階の案内図からすると、フロア半分程進んだところでそのドアはガタッと音を立てた。あ、開く、と嬉しさとやっとかという思いが和美に過ぎる。小鬼も小早志真里亜の分体も襲ってこない平穏さは助かったが、そんな何も起こらない空間でひたすら開くドアを探し続ける作業は、焦っている身としては苦痛であった。

 少し開くとあとは自動でスライドしていく仕組みであった。力を入れずとも開いていくドアから手を離し、中に何が待ち受けているのかと和美は身構える。


 331号室。部屋のドアを開ける前に確認した番号。名前入れのところには誰の名前も差し込まれていなかった。

 中は四隅に配置されたベッドがある何の異様なところもない病室だった。窓のカーテンも、ベッドを仕切るカーテンも開けられていて、太陽の光が差し込み白いベッドが眩しく見えた。


 ベッドが四つという事に何か意味でも込めてるのかと、中の様子を窺いながら一歩一歩と病室の中へと入っていく和美。とりあえず真ん中に立ってみるかと、歩みを進めていく。


 何かが起こることも無く、辿り着いた病室の真ん中で、和美はミニチュア錫杖を掲げることにした。

 正中を通るだとかの段取りをちゃんとこなせてきた実感が全く無いので、とにかく自分は試練を受けに来た者だとアピールするように、ミニチュア錫杖を見やすく掲げる。

 こういうのって何処から見てるものなんだろう?、と自分でも変だと思う疑問が生じたので、何処からでも見てもらえるようにミニチュア錫杖を掲げながらその場でグルグルと回ってみた。


「ハハハ、何してんのさ、お姉さん」


 突然かけられた声に和美は驚いて、ミニチュア錫杖を落としそうになった。確かについさっきまで無人であったはずなのに、いつの間にか四隅にあるベッドのひとつに幼い男の子が座っていた。方角とすれば、東に当たる。


 ベッドに座る幼い男の子。見覚えのあるその顔に、和美はハッと息を飲んだ。

 笠沼正太。あの夜、自分の腹を刺した少年がそこに座っていた。

 あの日と違い、黒いレインコートではなく薄緑色のパジャマ姿であった。


「なんで、こんな所にいるの?」


 何故いるのか。何故現れたのか。生きてはいるのか。甦らされたのか。無かったことにされたのか。

 ぐるぐると和美の頭に疑問が浮かぶ。問われる笠沼正太は何故だか恥ずかしそうに俯くと、ベッドの上で伸ばした足をぽんぽんと叩いた。


「骨折しちゃったんだ。ジャングルジムからジャンプしたらさ、上手く着地出来なくて。なんか凄い音が鳴ったな、と思ったら立てなくなっちゃってた」


 軽い失敗談のように話す笠沼正太。その叩いた足にはギブスなど巻かれていなく、骨折してるようにも見えない。


「もうさ、完治はしてるんだよね。完治してるんだけど、退院はダメなんだって。部屋から出して貰えないんだ」


 何の話をしてるのか。どういう状況なのか。これも試練なのか。それとも、小早志真里亜が作り出した幻覚か。

 ぐるぐるぐるぐると和美の頭に疑問がとめどなく浮かんでくる。


「僕はいつも着地を失敗するんだ。ジャングルジムのことも、動物を殺したことも、人を殺したことも、鬼になろうとしたことも――」


 笑い話のように語る笠沼正太の様子に、和美は警戒の構えを取った。ミニチュア錫杖を構えていた手を降ろし、代わりに手に白鬼の力を集める。

 この笠沼正太は、和美の知らない昔の思い出から作られた幻覚なのではない。自分が祓われたその瞬間までを記憶している、殺人鬼だった笠沼正太本人だ。ならば、警戒しておいて間違いは無い。何せ一度、刺されたのだから。


「――あなた(お姉さん)に無かったことにされて、呼び戻された時も着地を失敗したみたいでさ。したいこと何も出来ないまま、消されちゃったみたいなんだ」


 駄菓子についてるハズレくじを引いた、それぐらいの残念さで語る笠沼正太。


「待って。あなた、あの時のことまで覚えてるの?」


 白鬼の力を使った《無かったこと》は、白鬼の力を解除した時に無効となったはずだ。矢附をいじめていた佐村達は一時でも友好的な関係性になったことなど忘れているだろう。《無かったこと》が《無かったこと》になってるはずだった。


「覚えてるって言われるとちょっと違うんだよね。けど、ほら、僕を見てくれる? この姿は保育園の頃の姿なんだけど、僕の感覚としては、僕は小学生だったはずなんだよね。変だろ? だからね、僕は《《僕》》じゃないんじゃないかと思うんだ。あらゆる僕の集合体みたいな感じ? ってこれも何だかぼんやり頭に浮かんでくる言葉を話してるだけなんだけど」

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