第百二話 阿鼻叫喚する受付フロア
希望総合病院。
消化器内科、循環器内科、糖尿病・内分泌内科、腎臓内科、血液内科、呼吸器内科、小児科、消化器外科、乳腺外科、整形外科、脳神経外科、形成外科、心臓血管外科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、放射線科、リハビリテーション科 、麻酔科、精神科・神経科と多くの医療体制を整えていて近隣住民はここに頼る者が多く、同級生と顔を合わせるなんてこともよくある話だと聞く。
和美は家の近くにある個人医院に家族共々昔から世話になってるので、希望総合病院に訪れるのは片手で数えれるほどしかなかった。
正面入り口から病院敷地内へと足を踏み入れると、和美の脳裏に病院内の一室らしき場所が浮かび上がる。そこが青龍の試練場所ということだろうか。親切な案内だとも思うが、しかし訪れた回数の少ない和美にとっては何回の何の部屋かわからないので一種のなぞなぞに近い。もしくは、流行りの脱出ゲームの様な感じだ。ゲームだとするならワクワクとするところだが、待ち受けるは小早志真理亜が作り出した分体だ。それを相手しながら探し物というのは難儀に思えた。
しかしながらやれることは、やみくもでも探し当てる事なので、脳裏に浮かぶヒントを頼りに和美は病院内へと入っていった。
正面玄関の自動ドアを開き、一階受付フロアに辿り着く。怯え逃げ惑う患者、誰にも届かない避難指示を大声で張り続ける病院関係者、ケタケタと笑い追いかけ回す小鬼達、人々の側に現れては呪詛の様に言葉を繰り返す小早志真理亜の分体。正に阿鼻叫喚の事態になっている一階受付フロア。
「これは……どうしようか……」
襲われる人々を目の前にして助けようという気持ちが前に出てくる。しかし、和美一人でこの状況をどうにか出来るとは考えられないのは確かだ。相手は無数に現れる小鬼と分体。光の刀で斬っていったところで効果は薄いだろう。
避難誘導も考えたが、外に出たところで状況に変わりが無いことはここまで走ってきて実感している。光の刀という対抗手段があるから和美はここまで来れたが、道中も小鬼でビッシリと埋められていた。いつも見慣れた街並みが、おぞましい光景に変わっていたことに驚きと吐き気を覚えた。
もしかしたら、希望総合病院にも誰か西生家縁の人が配置されてるのかもしれない。そう思って辺りを見回すも、誰かが小鬼達と戦っている素振りは見当たらず、和美はその希望を一旦置いておくことにした。
何もしない、というわけにもいかない。和美は、とにかく目の前にいる小鬼達は切り払っていこうと決める。何もしない、なんて事を選んでこのまま進めるわけがなかった。
一階受付フロア、そこにいる赤青緑の小鬼を次々と和美は切り払っていった。逃げ惑う人々は、感謝の言葉を並べる余裕すらなく怯えて病院から出ていく。外も危険だから用心しろ、と忠告する間もなかった。用心しろと伝えて、その用心の仕方を問われても何も答えを持っていなかった。
赤青緑の小鬼に比べ、小早志真理亜の分体に刀を振るには躊躇いがあった。緑色に染った人の形をしたナニカ、小早志真理亜本人では無いと理解しやすい姿形であったが、やはり罪悪感は生まれる。自分の願いを守りたいと奈菜の事を斬ったというのに、今さら何を躊躇ってるんだろうか。和美は自問するが、わかりやすい答えは持ち合わせていなかった。
躊躇いは小早志真理亜の分体からの攻撃を許すだけでしかなかった。人の形をしたナニカは、人ではありえない腕の伸ばし方をして和美を殴りつけてくる。刀の距離からは程遠い、三メートル四メートルといった離れたところから幾つもの腕が伸びてくる。和美は待合フロアの椅子を蹴って、伸びてくる腕から逃れるように跳ねた。小鬼の頭を踏みつけて、ぴょんぴょんと宙を進んでいく。
躊躇いは直ぐに払拭は出来ないと判断した和美は、受付フロアでの退治を諦め分体から逃げる様に奥へと進んで行った。とにかく何処かの部屋だ。まずは病室から当たっていくか。入院施設は三階以上の上の階だ。エレベーターは待ち時間だ、狭い空間だと不利でしか無いので、和美は上へと登る為の階段を探した。不馴れな病院、まだ院内地図もろくに頭に入っていなかった。




