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焼きそばパン大戦争  作者: 清泪(せいな)
最終章 焼きそばパン大戦争

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第百一話 希望総合病院

 十一月の次第に下がってきた気温の中、和美は額から汗を流し市街地を走っていた。もう一、二週間もすれば私服、制服共に冬服も検討しなければと考えていた所だったのだけど、今は多めに着ていた服を暑くて脱ぎたくなっていた。一枚で暖かくなるという服を着ずに、重ね着で温度調整する派だったのでこういう時にはすぐ脱げるのだけど、今は外を走っているので脱いだ服が手荷物になるのが難儀であった。腰に巻いて走るのも邪魔くさい。


 《お手伝い》を始めて辞めた剣道部。しかし体力作りだけは継続して行いと、登校を徒歩にしていた事を今は悔やんでいる。乃木市を四方八方と走り回るのに乗り物無しとは、なるべく事を早く済ませようと思えば思うほど焦るばかりだ。誰かに自転車を借りようと声をかけたのだが、大抵の生徒達は混乱しっぱなしで話を聞いてくれなかったし、矢附も徒歩通学だった。安全確認も兼ねて笠原と秋原に声を掛けに行ったが、二人の自転車は残念ながら混乱した生徒の誰かに盗まれていた様だった。盗まれていた、という言い方になるのは学校の門から出たらすぐ様見つかったからで、誰かが逃走用に勝手に乗っていった挙句、坂道で小鬼に襲われたのか乗り捨てられていた。

 流石にその誰かの様に無断拝借という訳には行かないので、和美は諦めて走ることにした。矢附は担任の横宮に事情を説明して車で送ってもらう案を提案してくれたが、巻き込めない上に何と説明するかも整理つかなかった。


 そんなわけで、乃木市北側に位置する坂進高校からひたすら走って東にある希望のぞみ総合病院を目指していた。玄武の力を授かったミニチュア錫杖は、次の目的地の方角を光で指し示すのみかと和美は思っていたが、親切にも向かうべき場所が何処であるかと脳裏に浮かぶ仕様だった。普段は利用しない病院の全景が脳裏に浮かび、和美は最初何処か見当がついてなかったのだが、浮かんだイメージを矢附に話したところ、すぐに教えてくれた。母親が入院してた時期があるらしい。


「ほな、後はよろしゅう頼むで。そろそろ戻ったらな、小早志さん好き放題やりおるからな。あ、せや、高城さん――」


 玄武の試練の終了を見届けて花菜がそう言うと、ついでに頼みがあると続けた。


「途中にな、ライトガーデンちゅうパン屋があるねんけど、そこで焼きそばパン買うてくれへん?」


「なんか典型的なパシリみたいですけど?」


「昭和のヤンキードラマやないねんから、そないな頼みやないんよ。おかんが経営しとるパン屋やねんけど、奈菜が昔からおかんの作る焼きそばパン好きでな。それ買ってきて差し入れしてやって欲しいんよ」


 やっぱりパシリじゃないかと、和美はその気の抜けた頼みに戸惑ったが断る理由も特に無いので了承することにした。四方をミニチュア錫杖を持って周り、焼きそばパンと共に届ける。改めて考えると何をさせられてるのだろうか、と疑問が渦巻くがそれを問うかどうか悩んでる内に花菜はそそくさとその場を後にした。グラウンドに出て一瞬の踏み込みから高々と飛び上がり、空に消えていった。暫くその人間離れした業に呆けて見ていたのだが、気を取り戻して和美は依頼された《お手伝い》の実行を再開した。


 矢附は置いてきた。というのも、危険だからという理由はもちろんあるが、鬼が関わる事柄、特に和美が危険な目にあいそうであるとなると積極的に協力してくれる矢附だが、その気持ちに体力はついてこなかった。現状体力作り中の矢附は、足でまといになるからと同行を遠慮した。同様にここまで蚊帳の外になっていた笠原も、状況の説明を聞いた後、矢附と同じく体力面で移動の同行を断念した。

 その代わりと言ってはなんだが、何かしらの協力が出来ないか、鎮魂祭を調べた際に積み上げた資料の中から探すことを笠原が申し出てくれて、それだけで和美は嬉しかった。矢附も笠原も本当ならこの状況に怯え我関せずで済まされてもおかしくは無いのだけど、和美の為、奈菜の為と出来ることを探してくれている。


 例え何かが見つからなかったとしても、そうやって協力しようと考えてくれる気持ちが嬉しかった和美は、より一層張り切って走っていた。額に汗は流れ、呼吸は荒くなっていく。それでも足を止めようとは思わない。一歩でも前へ、一瞬でも早く。四神の試練を越えて、奈菜のもとへ。


 強く抱いた思いを胸に、その足は希望総合病院の前へと辿り着いていた。膝に手をつき前かがみになって、荒れた呼吸を整える和美。


 今は乃木市の中心で戦争中だから不在だ、そういう説明だったはずだが――


「齋藤さんって、実は適当に話してない?」


 見上げた総合病院。その窓から覗く小早志真理亜――の形をしたナニカ(・・・)


 ありとあらゆる窓という窓から、じっと無数の小早志真理亜の形をしたナニカが和美を睨んでいた。

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