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第96話 罪過の地底湖

 どこまでも続く暗闇を掻き分け、美味達はいずれ行き着くであろう地の底を目指す。


「ホントにすっごくふっかいね~! まだまだ下がある!」

「なるほど、常人であれば死は免れないと言う事か。恐ろしい処刑法だな」

「なーに、有り余る根性があれば、この程度の激突は耐えられるものですわ! そう、全ては根性で解決できますの!」

「その精神論が通用するのは、デリシャさんのみな気がしますが…… っと、そろそろゴール、いえ、スタート地点に着きそうですよ」


 吸血鬼の目は暗闇をも見通し、まるで昼間であるかのように視界を確保する事ができる。だが、それができるのは甘露だけで、他三人には無理な芸当だ。


「皆さん、お渡ししたランタンの用意はオーケーですか?」

「もち!」

「ろん!」

「ですわ!」


 その事を見越していた甘露は、落下の最中に皆にランタンを手渡していた。そのランタンはキャンプで使うような、至って普通の見た目だ。但しこのランタン、実はとても頑丈な造りとなっている。それもその筈、これは夜間、それも危険な野外での食事の供として、『錬金術(食)』で甘露が作り出した特別製なのだ。それこそ象が踏んでも大丈夫! という、古き良きキャッチコピーをそのまま引用しても問題ないくらいの強度を誇っており、戦闘はもちろん、このような落下状況下でも問題なく使用できるようになっている。


「ほっ!」

「あばぁっ! いてぇですわ!」


 ランタンの光を頼りに地面の位置を確認し、華麗に着地する美味達。一部、地面にダイレクトアタックを仕掛ける形で激突した者も居るが、元気に声を発しているので無事ではあるのだろう。


「ああっ、デリシャさんが頭から地面にッ! 漫画みたいになってますけど、大丈夫ですか!?」

「ぺっ、ぺっ! 口の中に砂利が入っちまいましたの! 流石に砂利は食えねぇですわ!」


 やはり無事であった。


「しかし、このランタンは本当に頑丈に出来ているのだな。もろに地面と激突したデリシャ殿もそうだが、手に持っていたランタンも傷ひとつないぞ」

「美味ねえが多少無理な動きをしても大丈夫なように、念入りに設計しましたから。夜のキャンプ飯は灯りも大切ですので」

「そう、雰囲気でご飯がもっと美味しくなる! それがキャンプ飯なのです!」


 そう力説する美味と甘露。以前に何か失敗した事があったのか、並々ならぬ熱意が垣間見える。が、今は熱意についてはさて置こう。


 美味達が降り立った場所は『罪過の地底湖』の玄関口に当たる場所で、ランタンがなければ全く周りが見えないほどの暗闇で覆われている。しかもだ、既にこの場所から分かれ道が全方向に広がっており、どちらが最奥に繋がっているのか、全く予想できない構造となっていた。暗闇の中での洞窟迷路、と言えば分かりやすいだろうか。


「雰囲気も大事ですが、まずは食材が第一ですわ。第一の目標、ムーンキャロット! そして第二の目標、幽霊モンスターの何か食べられそうな部位、ですの!」

「うむ、酷く曖昧だな」

「まだ見ぬ強敵だから、仕方ないですよね! っと、そうこう言っている間に、お姉ちゃんレーダーが食材の気配をキャッチ。むむ~…… こっちの道が一番近いみたいです! 何やらおどろおどろしい気配がッ!」


 そんな状況で活躍したのが、美味の固有スキル『察知(食)』であった。食材(美味基準)を見つける事にかけて、美味の右に出る者はこの世に存在しない。空腹時であれば、それは尚更だろう。


「おどろおどろしい、ですか。それは…… なかなかに期待が持てそうですね、フフッ」

「でしょでしょ!」

「ミミの勘を頼りに進む、それも悪くないな。どうせ正解の道なんて分からないんだ。道中の食材を集めながら探索を進め、食材になり得ない人型から話を聞き出す、という作戦が良いんじゃないか?」

「おおっ、グッドアイディ~~~ア! それで行きましょう! 食材情報を聞き出すという名目があれば、人型が相手でも力が出せそうです!」

「ミミさんに任せてばかりでは居られませんわ! 尋問なら私様にお任せください! 聖食者として、それっぽい術は心得ておりますの!」

「それっぽい術とは?」

「もちろん、肉体言語ですわ!」


 エスタという優秀ながらも嫌々やってくれるツッコミ役が不在な為、少々会話のカロリーが高めである。ただ、探索の方針は無事に決まったようだ。


「取り合えず、地底湖の囚人さんとやらを拝見しましょうか。まずはそこからです」


 察知役の美味を先頭に、デリシャ、甘露、イータがそれに続く。ランタンの光を強設定にする事で、視界の確保は十分、また洞窟内の通路の道幅は広く、剣や槌を振り回しても問題はなさそうだ。通路中で敵と出くわしてしまったとしても、通常通り戦う事ができるだろう。


「隊長、第一食材を発見しました……!」

「でかしましたわ、ミミ隊員……!」

「む、デリシャ殿が隊長なのか……?」


 気配が間近な道を進んだ甲斐あって、食材候補となるモンスターは直ぐに発見する事ができた。岩陰に隠れながら、小声で確認し合う一同。


「モンスターの姿を確認、食材判定をします」

「「「隊長、お願いします(わ)……!」」」


 甘露、満場一致で隊長に就任。それだけ『鑑定眼(食)』の力は、彼女らにとって偉大であったのだ。兎も角、モンスターを視認する。


「……ん、んん?」

「どうしたの、甘露ちゃん?」

「いえ、それがちょっと……」


 そこに居たのは半透明な肉体を有し、ほのかに青白い光を発する幽霊――― ではなく、スライムであった。体の中心に琥珀色のコアを持っているようだが、それ以上の外見的特徴は見当たらない。本当にスライムである。あっちに行ったりこっちに行ったり、決まった形を持たない体で、ゆっくりと地面を這いずり回っている。


「……幽霊ではなく、スライムのモンスターですね」

「なっ!? そ、それでは幽霊を食べるという、我々の壮大なる計画は……!?」

「破綻します」

「「「な、なんだってぇ!?」」」


 三人の驚き声が洞窟内に轟く。当然、そんな事をしてしまえば、自分達も居場所もバレてしまう訳で。スライムはピクリと反応し、進行方向を美味達の方へと転換。ジリジリと、だが着実に迫って来ていた。


「しょ、しょんな、幽霊食がぁ……」

「がっかりしている場合じゃないですって。それに、これは美味しい誤算ですよ」

「「「へ?」」」


 しょぼくれる三人が、僅かに甘露の方へ顔を向ける。


「確認したところ、あの『アンバースライム』…… 素晴らしい、実に素晴らしい食材なんです。お陰でムーンキャロットの調理法も決まりました」

「……わお、マジかよ甘露ちゃん! そいつは朗報だよ! グッドニュースだよ!」

「あのスライムとニンジンを使った料理か。ククッ、興味深いにもほどがあるぞ……!」

「私様、華麗なる復活ッ! 私様の専門から外れたのは残念ですが、肉体言語は誰にだって平等! つまり、効かねぇ敵は居ねぇですの!」


 甘露の言葉は三人の活力となり、一気に士気が向上。あんなに残念に見えたスライムも、今となっては極上の食材にしか見えないようだ。


「特にあの琥珀色のコア部分、絶対に傷付けないでください。調理の肝となる場所ですから」

「「「了解(ですの)!」」」


 次の瞬間、アンバースライムは美味達に襲い掛かり、美味達もまたアンバースライムに襲い掛かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] スライムと美味一行、互いに食料にしようと襲いかかるw スライムの本能と一緒じゃん。
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