第82話 ミルフィーユの如く
依頼達成後の宴は、多くの冒険者にとって格別なものだ。命を懸けて仕事を成し遂げ、その報酬金で仲間達と酒を呷り、ご馳走にかぶりつく。達成感と酒に酔い痴れる事で、今日を生き延びた事に喜びを感じる――― それは何ものにも代え難い、生き甲斐とも呼べるものなのだ。そして、これらの事柄は美味達にも当て嵌まっていた。
「んん~~~……! やっぱり狩りたては格別だね! このぷりっぷりのヘカトンスコルピウス、大きくて食べ応えバッチリ! それでいて、噛むと身からエキスが染み出て爆発するよ~~~! 美味しさは爆発だぁ! エスプロジオーネ!」
「うむ、うむっ、うむッ! 殻を付けたままでもバリバリいけるし、その殻の下に身がぱんぱんに詰まっている! 調理後だと言うのに、全く身が縮んでいないぞ! このガーリックオイルとの相性も抜群だ! なるほど、これが砂漠の幸か! 噛めば噛むほど味わい深い!」
「それだけじゃありませんわ! オイルにもヘカトンスコルピウスのエキスがやべぇ染み出て、こいつにバゲッドを浸すと更にやべぇ事になりますの! いくらでも口にできますわ! ほどよくオイルを吸い、サクサクカリカリを絶妙に維持していますの! ぱねぇですわ!」
「うん、想像以上に美味しく仕上がりましたね。やはり、二つのイワカムによるダブルアタックが効いたのでしょう。今後も食材の止め、それでいきたいです」
……但し、この場に酒の類は当然なく、喜びが食事に一点集中してしまってはいるのだが。まあ、生き甲斐は生き甲斐なので、間違いではないだろう。
ヘカトンアヒージョの他にも、甘露が用意した料理は沢山ある。そのどれもがグルメを唸らせ、そのまま土下座させる出来のものばかりだ。だが、それでも本日の主役はヘカトンアヒージョ、美味達はメインのこの料理に夢中であった。気が付けば、あれだけあったアヒージョも残り少なくなっている。
「んんっ、やはりこのヘカトンアヒージョがひと際美味いな。なあ、もう何匹かヘカトンスコルピウスを狩っていかないか? この砂漠の自然がもたらした美食を、エボン達にも味わわせてやりたいんだ」
「まあ、それは粋な考えですわね! 私様も賛同致しますわ! それでいて、また私様も食いてぇですわ!」
「お姉ちゃんも食べたーい! よーし、私の『察知(食)』で探し当てちゃうよ! 食欲を掻き立てられた私に、探せない食材はなしッ!」
「頑張ってくれ、甘露! こんなに広い砂漠なんだ、まだ何匹かは居るだろう!」
「フレッ、フレッ、ですわ!」
「待って待って、待ってください。A級討伐対象はそんなにポンポン現れませんから。現れたら人類の危機ですから」
甘露がセンサーを全開にする美味を止め、応援するイータ達を落ち着かせる。メインが残り少なくなった現実が、三人を若干暴走状態にさせてしまったようだ。
「まあ、そうですわよね。ですが、希少かつでら美味い、そんなものが大量発見されたら、夢のような展開でしのに…… ああ、うめぇですわ……」
ちょびちょびとバゲットにオイルをつけながら、残念そうに嘆くデリシャ。余程この料理が気に入ったのか、本当に悲しそうだ。
「本当に残念! けど、それだけ私達の想いが強くなるって事は、良い食体験ができた証拠でもありますよ! ガリク村で貰ったアースガーリック、エルフ族の皆さんから頂いた森々お野菜、ヒートウッズで摘んだ火炎唐辛子、そしてデリシャさんと初めて達成した、ヘカトンスコルピウスの討伐――― このアヒージョは、これまで積み重ねの総決算なんです! 美味しくなければ嘘ってもんですよ!」
「おお、美味ねえが珍しくまともな事を…… と言いますか、アヒージョの材料を覚えていたんですね。驚きです」
「もうっ! その言い草は酷いよ、甘露ちゃん!」
「ハッハッハ! これまでの積み重ね、か。なるほど、素敵な表現だな。なら、これから更に積み重ねを続けていけば、更に更に料理が美味しくなっていくのではないか?」
「まあまあまあ! それは素敵な事ですわね! 僭越ながら、いえ、ド派手に私様も手を貸しますわ! ミルフィーユの如く、ゴージャスデリシャスな日々を積み重ねていきましょう! ああ、未来がピッカピカで、クッソ眩しいですわ!」
「うむ、私達の頭上にある太陽のように、なッ!」
「今、夜ですけど……」
甘露の鋭過ぎる突っ込みに、一斉に笑い声が溢れ出す。その後も宴は暫く続き、四人は交流と絆を深めていくのであった。
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食事を終えた美味達は、片付けなどの諸々を終わらせて、サーカスの中で就寝する事に。途中、イータが砂を布団代わりにして眠るなどと言い出した事もあったが、甘露がこれを何とか説得して、四人仲良く眠る流れとなったようだ。
ラマカン砂漠まで一日で移動した後、A級討伐対象を探索及び駆除。そんな重労働をした状態で食欲が満たされたとなれば、人は心地よく眠ってしまうものだ。しかし、年頃の女の子が四人揃ったとなれば、彼女達がそのまま素直に眠る筈がない。お泊り会や修学旅行の夜のように、花を咲かせる話が幾らでもあるものなのだ。そう、例えば恋愛話などは定番中の定番だろう。
「ここだけの話、ミミさんはどうなんですの? 誰にもバラしませんから、ここでぶっちゃけてくださいまし」
「ええっ、いきなりそんな、恥ずかしいですよ~」
「ほほう? その反応は怪しいなぁ。ミミ、観念して言ってしまえ。その感情は生物として正常なものなのだ。何も恥ずかしがる事はない!」
「……本当に誰にも言いません?」
「エルフの誇りにかけて、誰にも言わん」
「ぜってぇ言いませんわ! ビスケット家の誇りにかけて!」
「……なら、分かりました。じ、実は私――― 牛肉豚肉よりも鶏肉の方が、好きだったりするんです!」
「「おおー!」」
「何やってんですか……」
尤も、だからと言って美味達がそんな一般的な定番話をするとは限らない。彼女達の定番話とは、ぶっちゃけ好物トークの方なのだから。
「でもでも、やっぱり牛肉豚肉竜肉も好きなんです! 大好きなんです! 一つを選べだなんて、私にそんな事はできません……!」
腹が満たされ清楚モードになっているのもあって、見た目だけはそれっぽく恥ずかしがる美味。しかし、やはり頭の中は食い物の事で一杯であった。
「フッ、ミミは相当の好き者だな。だが、私もその考えに賛同しよう! 好物がいくらあろうとも、困る事なし! 嫌いなものがある訳じゃないからな!」
「全くですわね! と言う訳でミミさん、貴女は自由にお食べなさい! では、次にカンロさん、貴女はどうですの? 一番お好きな食べ物、ここでぶっちゃけてくださいまし!」
「ハァ、私ですか? 強いて言うとすれば、やはり納豆でしょうか」
「な、なっとう、ですか? これまた聞いた事のねぇ名前が出て来やがりましたの」
「まあ、この王国内にはないものですからね。今はまだ研究中なので、私が納得できるような出来になったら、その時にご馳走しますよ」
「甘露ちゃん、納豆にはちょっとうるさいもんね。一体何年後になる事やら」
「ええっ、そんなに待つ事に!?」
「カンロの力を以ってしても、それほどまでの労力が必要なのか? 一体どんな難解な料理なんだ、なっとうとは……」
「めちゃくそ気になりますわ!」
サーカスから漏れ出す彼女達の声は終始賑やかで、夜が更けてもなかなか止む事はなかった。しかし、この時はまだ誰も知らなかったのだ。 ……翌日、四人全員が体調不良で苦しむ事になるとは。




