第77話 パーティ結成
その後、美味ら一同はブルジョンに用事があると言われ、二階のギルド長室へ移動する事に。朝食の途中と言う事もあって、前回と同様にブルジョンの手料理が振る舞われ、美味達はこれに舌鼓を打っていた。
「トレビアン! おかわり!」
「美味しいですね。おかわりをお願いします」
「クッ、美味い……! もう一杯!」
「うめぇですわー! おかわりを所望しますわー!」
……それはもう、全力で舌鼓を打つのであった。ブルジョンがどれだけ早く、どれだけスピーディーに調理しても、四人の食欲魔人の前に、料理は瞬く間に消えていってしまう。まるでこの場所に亜空間が発生しているかのような、壮絶な光景がそこにはあった。
「……前に見た時もちょっと思っちゃったけど、デリシャさんの食欲も凄いよね。ミミさん達に匹敵するんじゃないかな?」
一方のセシルは、その光景を見るだけでお腹が一杯。エボンと並んで、ブルジョンが淹れてくれたゴブ茶をしばくだけに留まる。
「先ほどデリシャ様からお伺いしたのですが、ギルドを訪れる前に、既に朝食はとり終えていたらしいですよ?」
「ええっ!? それでこの勢いなの!? ま、ますます凄いね……」
「ちょっとちょっと、もう満足してくれないかしらん!? 食材的にも私の懐事情的にも、そろそろギブアップしたいのだけれどぉ!?」
そんなブルジョンの悲痛な叫びを受けて、食欲魔人達は漸く欲望を抑えるのであった。
「ふう、腹八分目…… には全然至っていませんが、まあ許容範囲です。ブルジョンさん、ご馳走様でした」
「ご馳走様でした~! ブルジョンさんの毒料理、ここでしか味わえないので、とってもラッキーです! あ、でも腹八分目にもなってないから、幸運も八分目未満? ううん?」
「幸運は幸運だろう。うむ、悔しいくらいに美味であった。改めてブルジョン殿に感謝だな」
「んん~! 我が故郷が誇るゴブ茶、相も変わらずウマウマですわ~! カップでなく、リッターで欲しいですわね!」
「お、お粗末様ん…… 何だか緊急の依頼を受けた時よりも、大分疲れちゃったわん……」
漸く席に着く事ができたブルジョンは、すっかり疲れ果てた様子である。
「ところで、私様達に何か要件がありやがるという事でしたが、この素敵な会食がそれでして?」
「まあ、半分はそうねぇ。デリシャちゃんのちょっとした歓迎会、ってところかしらん? で・もぉ、本題は別なのぉ」
「本題…… ハッ! まさか、デザートですか!?」
「「「ッ!?」」」
美味の閃きに食欲魔人達が超反応し、口元から欲望の証を流し始める。期待に満ちた目はキラキラと輝いており―――
「―――違うわよん! デザートもないからねん!」
「「「「何だぁ(ですのぉ)……」」」」
一転して、テンション駄々下がりとなる四人。予想通りの展開だなぁと、セシルは茶をしばき続ける。
「もん! そんなにがっかりしないでよん! ……本題ってのはぁ、貴女達に提案したい事があるのよぉん。ミミちゃん、カンロちゃん、イータちゃん――― そして、デリシャちゃん。貴女達、四人でパーティを組んでみない?」
「……おおっ!? これは予想外のご提案! うん、予想の大分外側だった!」
「はえー、ゴブ茶が五臓六腑に染み渡って来やがりますのー」
「デリシャさん、一応当事者なので、お茶の感想は今は我慢しましょう。ええと、ちなみにその提案の意図は何なんです?」
「これって結構な偶然なんだけどねぇ、ミミちゃん達とデリシャちゃん、A級冒険者になった時期が殆ど同じなのよぉ。A級になってからクリアした依頼の数も同じぃ、それでいて実力も拮抗しているのぉ」
四人それぞれに視線を送りながら、ブルジョンは話を続ける。
「で、これは少し先の話になるのだけれどぉ…… 貴女達、このまま順調に成長していけば、恐らくはS級冒険者に昇格するでしょう」
「S級!」
「私様達が目指す、天辺の地位ですわね!」
「それ自体はギルドとして歓迎すべき事でぇ、もちろん、私も大歓迎しちゃうんだけどぉ…… S級になったら、昇格式っていう儀式――― ううん、お祭りみたいなものがあるのよぉ。それこそ、開催国が盛大にお祝いする、とっても大きなお祭りがねん」
「ほう、祭りか! 祭りは私も好きだぞ! 出店もあるのか!?」
「たこ焼き! お好み焼き!! イカ焼き!!! 焼きそば!!!!」
「な、何ですの!? その名前も聞いた事のない、パネェ料理達は!? 詳しく聞きてぇですわ!」
「見事に焼き物ばかりですね。まあ、美味ねえ達はさて置くとして…… その昇格式と私達のパーティ云々の話に、何の繋がりが?」
甘露は真面目な表情で話しているが、口元から微妙に欲望の証が流れていた。どうやら出店という単語を耳にして、抑制し切れなくなってしまったようだ。
「こう、何て言えば良いのかしらぁ…… 四人がS級冒険者になったら、昇格式も四回分でしょん? ぶっちゃけ、昇格式がそんなに立て続けに起こっちゃうと、ギルドのお金がやばいのよぉ!」
ブルジョンはぶっちゃけた。前述の通り、昇格式は国を挙げてのお祭り騒ぎだ。ギルドと開催国の協賛とは言え、経費的にそう何度も行えるものではないのである。
「S級冒険者が生まれるのって、数年に一度あるかどうかって頻度なのぉ! だからこそ、昇格式も大々的にやるものなのぉぉ! 四人の昇格式を別々に開催する余裕、どこにもないのぉぉぉ!」
ブルジョンは泣いた。上に立つ者として、若手の成長は大変に喜ばしい。だが、上に立つ者だからこそ、予算やその他諸々の雑事にも気を配り、裏側の事情も調整しなければならない。言ってしまえば、ブルジョンは大変に複雑な立場に居たのだ。
「なるほど、それでですか。私達がパーティを組んで共にS級へ昇格すれば、昇格式もまとめて一度で済むと…… そう考えたのですね?」
「ううっ、流石はカンロちゃん、理解が早くて助かるわん…… けど、この提案は貴女達にとっても良い事だと思うのん。ほら、美味ちゃん達のパーティって、魔法での回復役が居ないじゃない? 僧侶であるデリシャちゃんがパーティに入れば、構成でのバランスが丁度良くなるわん。前衛、後衛的な意味でもねん」
「ええっと? ……おお、本当だ! 私とデリシャさんが前線に立ち、甘露ちゃんとイータさんに後方支援をしてもらえれば、見事な黄金比に!」
「でしょん? デリシャちゃんはこれまでソロの冒険者として活躍して来たけどぉ、これからの事を考えると、パーティとして活動してみるのも悪くないと思うのぉ。どうかしらん?」
お願い(はぁと)! と、ポージングを決めて懇願するブルジョン。
「本来は数年に一度…… オリンピックのような祭典と考えるべきでしょうか? 確かにそれだと、一国で立て続けに行うのは難しいでしょうね。私は良いと思いますよ。特に反対する要素がないです」
「お姉ちゃんも大賛成! 仲間が増えるとご飯も美味しくなると思うし! 思って思って、思いまくり!」
「うむ、私も歓迎したいと思う。もちろん、デリシャ殿が良ければの話だが」
美味ら一行は全会一致で歓迎ムードのようだ。一方で、デリシャはと言うと。
「すまねぇですけど、その提案はお断りさせて頂きますわ!」
まさかの拒否の姿勢を見せていた。
「ええっ、何でぇ!?」
「皆様が良い方だと言う事は、いてぇほど理解しております。ですが、命を預けられるほどの信頼関係は、未だ築けておらず! このデリシャ・ビスケット、他人の一存のみで流されるほど、素直な女ではねぇです事よ!」
デリシャが高らかにそう宣言する。彼女は彼女で、冒険者としての美学と誇りを持っていたようだ。その遺志は固く、簡単には崩せそうにない。
「そう、残念だわん…… 流石に無理強いはできないわねん……」
「お誘い自体はクッソ嬉しかったですわ。ですが、この件はなかった事に―――」
「ちなみにこちらのカンロちゃん、王宮の厨房が喉から手が出るほど、料理が上手なのよねぇ。私の腕じゃ、とても太刀打ちできないほどにぃ」
「!?」
デリシャ、ブルジョンの言葉にピクリと、否、ビクリと反応する。
「同意します。カンロ様の調理技術は次元が異なっており、私も師として尊敬しているところです」
「ッ!!??」
昨日デリシャに手料理を振る舞ったエボンも、手放しに甘露を褒め称え始める。デリシャ、今度は開いた口が塞がらない。欲望の証も止まらない。
「私も初めてカンロさんの料理を食べた時、無我夢中になっちゃったよ。いつも食べる量の倍、ううん、三倍以上は食べちゃったっけ」
「―――」
止めの一言はセシルからだった。これにデリシャは完全陥落、先ほどまでの毅然とした様子はどこに吹き飛んでしまったのか、今の彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「……私様、最初から分かったおりましたの。貴女方が私様の真の仲間、ソウルメイトである事に! この提案、謹んでお受けしちまいますわ! よろしくお願いしますわね、ダチ公!」




