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黒鵜姉妹の異世界キャンプ飯 ~腹ペコ転生姉妹~  作者: 迷井豆腐
第四章 煉獄フェニックス鍋
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第52話 タイムリミット

「―――理武リブ


 空腹を犠牲にする事で集中力が増し、通常では扱えない剣技の使用を可能とする美味のオリジナル技、『理武リブ』。敵を下手に負傷させ、結果として飛んで逃げられてしまう、なんてにならないよう、美味はこの戦いを短期決戦で終わらせるつもりのようだ。背水の陣で臨む事で、一発当たりの破壊力を重視――― 確実にフラムマガッルスの肉を入手する為、腹を空かせて腹も決める。


「コッコッコ……!」

「さあ、やりましょうか」


 空中にて姿勢を整え、美味をロックオンするフラムマガッルス。対峙する美味は大剣の刃先を突き刺すように敵に向け、独自の構えを取っていた。


「「……ッ!」」


 そして次の瞬間、双方の姿がその場から消え去った。実際のところは消えた訳ではないのだが、少なくとも遠くで戦場を見ていたイータの目には、そのように映っていた。


「ああ、違う違う。視線を向けるならあっちだよ」

「あうっ!」


 エスタにぐいっと顔の向きを変えられ、変な声を出してしまうイータ。だが、その視線の先には、先ほど見失った美味の姿が確かにあった。


「と、とんだロデオ、だよぉ!」

「コォケェコォォー!」


 ―――より詳しく言い表せば、フラムマガッルスの首に跨り、その首に大剣を突き刺す美味の姿があった。どういう訳なのか、美味はロデオの如くフラムマガッルスに乗っていた。正確には必死にしがみ付いている、という言葉が相応しいのかもしれないが、兎も角乗っていたのだ。フラムマガッルスは何とか美味を振り下ろそうと、暴れるように辺りを飛び回っている。


「あ、あれは一体どういう状況なんだ!?」


 一度双方を見失ったイータからすれば、全く意味の分からない状況だろう。今の彼女はただただ驚くばかりである。


「互いに最高速度で正面衝突、その後にミミがフラムマガッルスの背に乗り込んで、今に至るって感じだ」

「エ、エスタ殿には見えていたのか!?」

「当然だ。何なら、更に詳細を教えてやろうか? 最初の見合った状態を思い出しな。まず、背後の炎を爆発させたフラムマガッルスが、その推進力を利用してミミに突貫したんだよ。あの鋭利な嘴で、ミミを貫くつもりだったんだろうねぇ。だがその一方で、ミミも空中に向かって突撃を仕掛けていた。全速力のフラムマガッルスと、殆ど同じくらいのスピードを出して、だ。いやはや、あの若さであんな思い切った事ができるとは、全く大したもんだよ。覚悟もそれを可能とする身体能力も、冒険者として並外れているねぇ。ククッ」


 ―――『鬼流キル』、補足した対象に向かって一歩の踏込みのみで突貫する、美味にとっての最速の技。今回の突貫にて美味は、正にこの技を使用していた。すれ違い様に両断する、剣先で相手を穿つなど、攻撃用途は多岐に渡る。また、『理武リブ』状態であると速度と威力は更に乗り、イータが見失ってしまうほどの技へと昇華するのも特徴の一つだ。


 美味はこの『鬼流キル』を使い、バッファローの如く得物を突き刺す、純然なる突貫を敢行。フラムマガッルスにも威力負けしない破壊力で前へと突き進み、空中にて衝突――― 互いの運動エネルギーの相殺に成功する。また、美味自身もフラムマガッルスの嘴を回避していた為、ダメージらしいダメージも正面衝突した際に発生した最小限のものに抑え込んでいた。エスタの笑い声の原因は、この辺りが関係しているのだろう。


「ぬぅぅ~~~ん!」

「コォケェェコッコッコ、コォケェェェ!」


 フラムマガッルスの首元に差し込んだ大剣の刃先を、更に奥へ奥へと捻じ込もうとする美味。その度にフラムマガッルスの暴れっぷりが酷くなるが、美味は突き刺した大剣を手綱代わりにして、必死に落下しないように堪えている。


(ほう、持ち堪えるか)


 自身の攻撃が減速しない適正距離を見極め、ここでしかないタイミングで攻撃したセンス。そして、暴れ鶏を乗りこなす体幹バランスの良さに、エスタは更に感心していた。しかし、当の美味は少し納得がいっていないようで。


(急所を一突きするつもりだったのに、寸前のところで外された……! それにこのお肉さん、想像以上にかったい! イワカムに力を入れても、逆に押し返されてる感覚がある……!)


 美味が望むは短期決戦、そう、彼女は『鬼流キル』を使用した時点で、勝負を決するつもりであったのだ。だが、突貫での一撃はフラムマガッルスを仕留めるには至らなかった。フラムマガッルスに騎乗したのは、あくまでも仕方がなくの行動で、美味にとっては想定外かつ不本意な結果でしかない。


(何よりも――― ここ、滅茶苦茶にあっづい!)


 更に最悪だったのが、フラムマガッルスが纏う炎だ。考えてみれば当然の事なのだが、炎を纏う鳥に密着すれば、その接触者に炎は燃え移るし、ダメージだって受ける。如何に美味が尋常でなく頑丈だったとしても、熱いものは熱いのだ。身に着けている装備品だって、やがて焼け焦げてしまうだろう。そうなってしまえば、美味もあられもない姿になってしまう訳で。


「体勢的には有利なようだが、あのままで大丈夫だろうか? ミミの表情がかなり苦し気のようだが……」

「大丈夫じゃないだろうねぇ。首元に得物を突き立ててはいるが、致命傷に至っていない。炎の鎧と皮膚の硬さに苦戦しているみたいだ。逆にミミはフラムマガッルスに触れているだけで、炎によるダメージを受けてしまう。このままだとジリ貧なのは間違いない」

「だ、だが、生物の急所である首に、剣先が突き刺さっているんだ。ミミの怪力があれば、時間を掛ければ押し切れそうなものだが……」

「うん、アンタが言っている事も間違いではない。けどねぇ、面倒な事にフラムマガッルスには、HPの再生能力が備わっているんだよ。大怪我も一瞬で治癒してしまうような、途轍もない再生能力がねぇ」

「な、何だと!?」


 エスタの指摘は全て正解していた。美味がいくら力を籠めて大剣を突き立てようとしても、フラムマガッルスは傷口から超速再生した肉で、イワカムの剣先を逆に押し返そうとしていたのだ。ここでも美味の力とフラムマガッルスの再生力は拮抗し、互いに一歩も引かない状態が継続。しかし、だからこそフラムマガッルスがこれ以上傷付く事はないし、現状維持は美味にとってのジリ貧に繋がっていた。


「落下する事も炎に焼かれる事も恐れず、フラムマガッルスを相手によく渡り合っている。ああ、どれもこれもが一級品のものを、確かにミミは持っている。 ……だけど、それだけじゃ足りないんだ。私が見せてほしいのは、その先にある景色なのさ。ミミ、急がないと、そろそろタイムリミットだよ?」


 炎の空を見上げ、そんな呟きを漏らすエスタ。機械的な声は、どことなく心配そうだ。


(やっぱりこのお肉、凄い早さで再生してる……! でも、それもそうだよね。こんな炎にいっつも囲まれていたら、凄い再生力がないと火傷しちゃうもん)


 一方で苦境に立たされている美味もまた、フラムマガッルスの再生力の高さに気付き始めていた。たとえ炎に対する耐性を有していたとしても、その威力が強くなればなるほどに、炎は自らをも害する諸刃の剣となってしまう。炎で構成された羽毛を全身に纏うとなれば、それは尚更の事だろう。だからこそ、高レベルの再生能力は種族フラムマガッルスとして必須なのだ。現にこうしている間にも、フラムマガッルスの全身は炎に焼かれては再生し、また焼かれては再生する事を繰り返していた。


 ……それはもうジュウジュウと、肉が焼ける香ばしい匂いを漂わせてしまうくらいに、繰り返していたのだ。


「……じゅるりら」

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