第42話 王都の屋台
討伐対象を倒し、エルフの里から王都へと帰還する美味ら三人。殆ど無傷で戦いを終え、更には報酬として大量の食材を貰い、依頼は大成功に終わった。後は王都の冒険者ギルドへ向かい、依頼達成の報告をすれば良いだけだ。もちろん美味達は、王都に到着次第ギルドに向かう予定であり―――
「うええぇーーーん! お腹減ったよぉ~~~!」
「遠慮して昼食を断って出発しましたからね。ですが、まさかこんなにも空腹になるのが早いとは。行きの時よりも随分と酷くなってませんか? 泣くほどって」
「さ、里の朝食はあっさり目だったからな…… かくいう私も、そろそろ腹の音が酷い事になって来ているところで、うう……」
―――どうやらギルドへ向かう前に、何件か食事処をハシゴする必要があるようだ。甘露を背負う美味が泣き出し、その後を追うイータも腹に手を当て苦し気な様子だ。
「だ、だが、これは不幸中の幸いというやつだろう…… 王都に辿り着けば、夢にまで見た珍しい食事に、一杯ありつけるのだからな…… フフッ、昨晩の夢にも出た……」
「あ、それナイスアイデア! ハブア、ナイスアイデア!」
「美味ねえ、ご飯の話になって急に泣き止みましたね。英語の使い方が滅茶苦茶なのも含めて、流石です」
「えへへ、そんなに褒めないでよ~。照れてお腹がもっと減っちゃうよ~」
「全然褒めてないのでご安心を。それは兎も角として、昨日は王都でゆっくりしている暇がありませんでしたからね。イータさんの夢にご馳走が出てしまったのも、ある意味で仕方のない事かと。実のところ、私も久し振りに食べる王都の料理を楽しみにしていまして」
「おお、カンロもこの気持ち、分かってくれるのか!?」
「まあ、多少は。ですが、懸念すべきは私達の腹具合です。美味ねえが泣くほどに、イータさんが夢に見るほどに楽しみにしている食事が、私達換算でも普通の量で収まるとは、とてもそうは思えません。恐らく二割から三割増し、下手をすればそれ以上に食べる事になるでしょう」
「「そ、それは、確かに……!」」
走りながら声を揃える美味とイータ。二人としても、今の腹具合ならいくらでも食べられそうであったらしい。食事処の一軒二軒であれば、余裕で根絶やしにできそうである。
「今日は王都行きつけの店を予約している訳でもありませんし、さて、どこで食べるかは慎重に選ぶ必要がありそうですね」
いつもであれば、美味と甘露が王都で食事をする時は、事前に予約をしてから行く事にしている。そうしないと店側が人手的にも食材的にも、二人の食事にまるで対応できないからだ。予約なしに新規の店に飛び込み、何度か失敗と出禁を重ね、行き着いた先で編み出した方法が予約であった。ちなみにこの方法でも店によってはできる・できないがあり、どこでも対応が可能な訳ではない。その一店で食事を済ます場合は、それこそ大人数での宴ができそうな、その程度の規模は必須である。要は、王都内でも数はかなり限られる。
「で、でもでも、私は大丈夫だよ! これ以上王都で出禁の店を増やしたくないもん! 後腐れなく食べられるように、自戒しながら食べる!」
「そ、そうだ。私もこの前に、節度を守って食べると誓った身だ。決して店側に迷惑をかけるような事は―――」
―――ぐぅ~るるるるぅ~~~!
「「………」」
まるで腹を空かせた猛獣の唸り声ような音が、二人の腹から聞こえて来た。
「今の腹の音、どう聞いてもいつもより食べそうですよね?」
「はい、お姉ちゃんは食べちゃいそうです…… 腹ペコは背にも腹にも代えられないのです……」
「正直に言ってしまうと、私も私を抑えられる自信がないかもしれん……」
自白する腹ペコな二人。この様子では、突撃した一店目で大暴れしそうな予感が増し増しである。
「なるほど…… では、広く浅く回るのはどうでしょう?」
「「広く浅く?」」
腹を鳴らしながら、揃って首を傾げてみえる二人。ちなみに現在、走るのを止めて完全に停止中である。
「ええ、王都は外で食べ物を販売している場所、所謂屋台も多いんです。屋台なら散歩感覚で気軽く回る事ができますし、そこに留まる必要もないので食い尽くす心配はありません。また食べ物の種類も豊富で、そういった食べ歩きなら観光も楽しめますよ」
「わっ、ナイスアイデア、ハブア、ナイスアイデアだよ、甘露ちゃん! イータさん、王都はとっても広いので、一日歩いただけじゃ全部は回り切れないんです! つまりつまり!」
「い、一日中食べ歩いても制覇には至らない。そういう事か!? なるほど、食のパラダイスの名に恥じぬ規模だ……!」
二人はすっかりと元気を取り戻し、腹を鳴らしながらも食のパラダイスに夢を見ている。これで王都に辿り着く事なく行き倒れになる、なんて惨事は回避できそうだ。
「マストはヘラクレス焼きでしょ? 爆裂炭酸も驚き桃の木要素だし、イータさんには絶対飲んでみてほしいし…… うーん、おすすめしたいものが沢山ッ!」
「ふむ? ヘラクレス焼きというものは、以前にもチラッと聞いた覚えがあるな?」
「よくぞ聞いてくれました、説明しましょう! ヘラクレス焼きとは王都名物の串焼き料理! 冒険者が討伐して持ち帰ったお肉をギルドが買い取り、それを各屋台に卸しているんです! お肉の種類は日替わりで、ヘラクレス焼きとして販売している以上、固定の種類で売る屋台は一切なし! よって、どこで買っても何のお肉に当たるかは運次第になります! 見た目が同じ風に加工しているので、口に入れるまで何のお肉かも分かりません! 未知に挑む勇気ある者のみが食す事ができる、正に勇者の為の串焼き料理と言えるでしょう! ちなみに運が問われる分、結構なお値打ち価格でもあります! ぶっちゃけ、何に当たってもオールデリシャス&ジューシーなので問題なし!」
ここぞとばかりに早口で説明を捲し立てる美味。熱意が凄まじい。
「まあ、やろうと思えば私は鑑定眼(食)で見破れるんですけどね。無粋なので絶対にやりませんが」
「なるほど、私は何でも美味しく頂ける自信があるぞ! 当然それは買いとして…… では、爆裂炭酸とは?」
「またまたよくぞ聞いてくれました! 爆裂炭酸とはその名の通り、飲むと喉で爆発する炭酸水です! 強炭酸どころでない強力な刺激を喉にお届けしてくれるこの炭酸水は、他の飲料では想像できないほどに刺激的です! というか、並の耐久値では普通に怪我をしてしまうほど! 販売店前にはデカデカな看板がありまして、この耐久値以下の方はご遠慮ください、もしくは自己責任で飲むように、という注意書きがあるくらいです! 度胸試しに使う人もいるようですが、本当に危ないのでレベルを上げてから挑戦しましょう! 肝心の味についてですが、刺激の奥底に柑橘系のほのかな甘みが隠されています! 爽やかかつ強力な喉越しは、本当に堪りません! お姉ちゃん、とってもおすすめ!」
美味の熱意は止まるところを知らず、早口説明もまた勢い付いていく。
「イータさんのステータスなら問題なく飲めますよ。喉元で弱い魔法が爆発するような感じで、案外癖になります」
「さ、流石は食のパラダイス、発想が狂気のそれだな……! だが、聞けば聞くほど興味が湧く……!」
「フフッ、イータさんも好きですね! あ、ところでイータさん、昆虫食って大丈夫です?」
「無論だ。里で食料を得る際に重宝したからな」
「本当ですか!? 良かった! こっち方面って苦手な方が大半なんで、美味しいお店を見つけても教えられない場面ばっかりで! ええと、デザートに最適なものなんですけど―――」
結局、それからも三人の話は止まらず、小一時間ほどその場で王都の屋台について語り合うのであった。




