第34話 念話
その後も野菜集団による何度かの襲撃を受けた美味達であったが、例の如く戦闘らしい戦闘にはならず、カット&キャッチで食材を大量ゲットするだけに留まる。疲れるどころか、三人ともホクホク顔だ。
「いやあ、まさかまだまだお野菜モンスターがいただなんて、朗報が続くね~」
「私達の消費量を考えても、これは暫く食材が持つ量ですよ。討伐対象、実は良いモンスターなのではないかと、そんな疑いを持ってしまうくらいです。まあ良い悪い関係なく、これから食材になってもらう訳ですが」
「森の畑で作った野菜は良いぞ、瑞々しくて栄養満点なんだ。唯一の欠点だった収穫量が少ないという点も、野菜の巨大化現象で解決した! 後は油断する事なく、奴を倒すだけだ!」
この通り、三人の士気は上々だ。そんな形で敵と遭遇する度にテンションを上げていった美味達は、遂に討伐対象の巣へと到達する。
「おお~…… 大きい!」
木の陰に隠れながら、美味達は討伐対象を見上げていた。畑に根を下ろし、森の木々よりも不自然なほどに太い茎を持つ、謎の植物。幾重にも重なった紫色の細い花弁を備えた大輪は、太陽光を独占しようとするかのように、高々と森の頭上で咲き誇っていた。畑からは他にも細い触手のような植物が無数に蠢いており、かなり不気味な光景と化している。一方で、道中で遭遇した野菜の類は一切見当たらなかった。
「「「ハァ……」」」
野菜が品切れである事に落胆する三人。ただ幸いな事に、まだ敵に気付かれてはいないようだ。というか音には反応しないのか、美味達が結構な大声で喋っても、全く反応を示さない。
「むう。それにしてもだ、以前私が戦った時よりも、確実に大きくなっているな。野菜巨大化装置として飼えないか、少しだけそんな事を考えもしたんだが…… 流石に危険か。周りの不気味な植物も、前にはなかった種類だ」
「大きさだけなら、グランソルドラゴンと良い勝負ですね。問題は可食部がどれだけあるか、ですが…… うーん、視界に入る部分で食べられそうなところはないですね。めっちゃ毒に塗れてます。どこもかしこも触手も毒々です」
「ええっ! そ、それじゃあ、倒しても食べられないの!? 倒し損!?」
「いや、それで一応里の平和が保たれるから、倒し損ではないと思うが…… まあ、どうせなら食べられた方がお得なのは確かだな」
「私としても、毒だらけだからと言って諦めたくは――― ん? ちょっと待ってください。気になる部分を発見しました」
鑑定眼(食)でモンスターを観察していた甘露が、ある場所を凝視する。
「……あの植物の茎、よく見ると螺旋状に巻かれています。恐らく畑から出ている触手の一部が、モンスターの茎に巻き付いて保護しているのでしょう」
「むっ、確かに言われてみれば…… 肉壁のようなものだろうか?」
「まあ、本体を守る為にやっているんでしょうね。で、その触手に隠された茎の部分に、何かがある予感がするんです」
「つまり、そこが食べられるって事なのかな!? ノー、無駄骨!?」
「多分ですけどね。直接目にできれば一発なのですが、今の段階ではそこまでしか分かりません。なので剣で斬るにしても、そこを攻撃する際は慎重になる必要があるかもです。どこかに毒袋があって、そこが破裂して可食部までもが汚染されてしまった、なんて事態は避けたいですし」
「なるほど、肉壁の内部がどうなっているのか、まだ分からないからな。しかし、前にも言ったがあのモンスターは強固だぞ? 手加減しながら倒すだなんて、そんな事ができるのか?」
「まあ、そこは美味ねえの地力と剣の切れ味次第ですよ。上手く斬れないようなら食材の入手を諦めて、全力で倒してもらうしかありません」
「きっと大丈夫だよ~。今の私、結構空腹で食に貪欲な状態だって、自分でも思うし!」
「その言葉は頼もしいが、決して無理はしないでくれよ?」
「了解、むふん!」
そう言って、鼻息荒くピースサインを作る美味。率直な感想として、食材の為に限界を超えて無理をしそうである。
「微力ながら、私もできる限りの援護をしよう。 ―――『氷姫の神弓』」
イータが詠唱を行い、その手に荘厳な氷の弓を作り出す。
「おおっ、魔法ですか!? 格好良いッ!」
「フッ、その通り。これはA級青魔法【氷姫の神弓】と言ってな、私が一番得意とする魔法なんだ」
誇らし気に弓を構えてみせるイータ。ずば抜けた容姿をしているだけあって、その構える姿は実に絵になっていた。黙っていれば美人、なんて言葉を体現しているかのようである。
「魔法で弓を作り出すなんて、凄く珍しいですね。そう言えば、イータさんは『弓術』のスキルを持っているのに、いつも弓を携帯していないようでしたが…… 何か拘りでもあるんですか?」
「こ、拘りか? ええと、その~…… じ、実は、小さい頃から弓を水浸しにしてしまう癖があってだな、いくつかの弓を立て続けに駄目にしてしまって…… それで、自力で弓を生み出せる方法を模索していったら、こんな風に至ったと言うか、うん……」
「あー……」
先ほどまでの様子とは打って変わって、気まずそうに魔法の誕生秘話を語るイータ。どうやら彼女は幼い頃から大自然主義であり、頻繁に水中で眠っていたようだ。彼女の氷弓の荘厳さが薄れているような、どことなくそんな雰囲気である。
「ま、まあ、オンリーワンである事には変わりませんよ。弓が魔法という事は、矢も魔法で放つのでしょうか? 威力と射程はどれほどで?」
「ああ、それは―――」
イータ、自身の魔法について説明中。
「―――とまあ、スペックはそんな感じだ。ここからの距離であれば、外す事はまずないだろう。ただ前回の戦いでもそうであったように、私の矢では火力が足りない。可能な限りの支援はするが、奴を倒せるほどのダメージを与えられるかどうかは、やはりミミ次第だ」
「わお、何だか責任重大だね、お姉ちゃん!」
「攻撃の肝は美味ねえ、支援の肝はイータさんになりますね。私は戦闘では何もできませんので、見る事に徹したいと思います。追加の食材情報が分かり次第、美味ねえとイータさんに伝えるという事で」
「オーライ!」
「了解だ。しかし、戦闘中は前線に立つ美味と後衛の私達では、それなりに距離がひらくのではないか? 情報伝達をするには、なかなかに難しいと思うのだが」
「その点は大丈夫です。んっ……」
甘露はポーチから小型のナイフを取り出し、何を思ったのか、それで自身の指先を浅く切った。当然、イータは突然のこの行動に驚く。
「お、おい、一体何を?」
「好き好んで自傷している訳ではありませんよ。通信のアンテナを立てる為に必要な儀式と言いますか、まあそんなところです。これから美味ねえとイータさんに、私の血を一滴ほど垂らします。手でもどこでも良いので、自分の体にそれを馴染ませてください」
甘露曰く、そうする事で『吸血(食)』のスキルが発動し、疑似的に甘露の眷属になる事ができるのだという。もちろん、本当に吸血鬼の配下になる訳ではなく、その疑似的効果も一時間ほどで解けてしまうらしい。
「私が眷属に対して使える力の一つに、『念話』というものがあります。まあ、言ってしまえば脳内に直接話し掛ける事ができるんです。しかもタイムラグなし、一瞬で会話内容を理解する事が可能です。デメリットとしては、念話は私からの一方通行、また使う度に私の魔力が消費されてしまい、正直疲れるのであまり使いたくないと言いますか―――」
「―――う、うむ……? すまない、情報量が多くてよく分からないのだが……」
「そうですか? では、習うより慣れよ、実際にやってみましょう。はい、手を出して」
「馴染ませ馴染ませ、ふふんふ~ん♪」
鼻歌交じりに甘露の血を手に馴染ませる美味。続いてイータも、恐る恐る馴染ませていった。




