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第22話 ジャーキースープ

 二人が存分に平伏した後、出来立てのドラゴンジャーキーを味見する事に。仲良くテーブルを囲む美味達の表情は明るい。非常に明るい。ピッカピカである。


「ジャーキー、ドラゴンジャーキー…… じゅるりら!」

「肉は良いぞ、とても良い。私は肉の為に生きていると言っても、決して過言ではない」

「イータさん、そこはエルフ的に過言にしておいた方が良いのでは……?」

「何、これからドラゴンジャーキーを試食する事に比べれば、私の精神的基盤など些細なものさ。というか、早く食べよう。私の唾液と胃液が凄い事になっているからな」

「あっ、私も私もっ! お姉ちゃんも凄い事になってるよ!」

「はいはい、些細で凄いですね」


 ついさっき食したホイル焼きは既に消化済みなのか、食欲が留まるところを知らない美味達。もちろん、それはツッコミを入れる甘露も同様であった。


「では、本日二度目のラブ&ピースを実行しましょうか」

「私は準備オッケーだよ! いつでも平和の為に出撃できるよ!」

「私なんてドラゴンジャーキーの両手持ちだ。勇者だけが持つとされるスキル、『二刀流』の真似っこでいかせてもらう」


 様々な形でビーフジャーキーを構える各々。そして、その時はやって来た。


 ―――パクリ。


 視線を交わし、ほぼ同時にドラゴンジャーキーを頬張る三人。丁度良いサイズに噛みちぎり、目を瞑り舌に全神経を集中させながら、モグモグと咀嚼する。


「……うみゃい! モグばモグほど味がモグ発して、まるモグ旨味モグをモグモグモグモグッ!」

「美味ねえ、口をモグモグさせながら喋らないでください。全然意味が分かりませんから」

「し、しかしカンロ、この肉は本当にうみゃいぞ……! 干し肉のように外側は乾燥して水気がないかと思えば、ひと噛みして驚き! 内部はしっとりしているどころか、ジューシーそのものの質感に仕上がっている! 噛めば噛むほどに肉汁が溢れ出て、どこで噛み終えれば良いのか分からないほどだ! これ単体で食べられるくらいに旨味もたっぷり! 留まるところを知らない肉汁の快進撃と相まって、気を抜けば私の意識が旨味に取り込まれてしまいそうになる! シンプルだがシンプルではないこの味わい、私は他で体験した事がないぞッ! つまるところ、私ももっとモグモグしたいモグモグモグッ!」

「……味の解説、ありがとうございます」


 美味の代わりに解説してくれたイータも、今ではすっかりドラゴンジャーキーの虜(とりこ)となっていた。熟成工程を飛ばした試食品であるが、二人を夢中にさせるには十分な出来であったようだ。


(ふむ、確かにこれは美味しいですね。納得の出来です。 ……ですが、もうひと手間かけられそうでもあります)


 ドラゴンジャーキーの欠片を銜え、モグモグしながら不意に立ち上がる甘露。


「モグモグんろひゃん?」

「急にモグ上がってモグした?」


 まな板や包丁、鍋などの調理道具を取り出し始める甘露に、モグモグしながらも美味達が気付く。


「このドラゴンジャーキー、このままでも素晴らしい出来ですが、私的にはまだまだ素材の域を出ません。なので、これから軽く調理してみようかなと」

「「………」」


 甘露の言葉を耳にした途端、モグモグが止まる美味&イータ。そして次の瞬間、彼女達の目が見開かれる。


「そ、それはこのジャーキーが更に美味しくなるって意味ですか、甘露パイセン!」

「誰がパイセンですか」

「だだだだ、だがだが、調理するとはこれつまり、更にランクをアップさせるという意味なんだろう、カンロ大帝!」

「誰が大帝ですか」


 このまま問答を続けていても、美味達の興奮が収まる事はないだろう。それを察してか、甘露はそれ以上質問に答える事なく、さっさと調理に入ってしまう。


「ホイル焼きでも使った極彩玉ねぎを薄切りに、ジャーキーも食べやすいように包丁で刻みます。私達の場合、粗くが良いですかね」

「「モグモグ」」


 恐らくは、「ほうほう」と頷いている二人。口も一緒に動いているのはご愛敬だろうか。


「鍋に暴れ鬼牛のバターを入れて熱し、伸ばします。そこへ先ほど切った極彩玉ねぎを加え、炒めて――― ここでドラゴンジャーキー、水と魔海の塩を投入。煮だったら蓋をします」

「「ゴクリ!」」


 恐らくは、ドラゴンジャーキーの新たな姿に期待して唾を飲み込んだであろう二人。ついでに口に入れていたジャーキーも飲み込んだが、やはりこれもご愛敬なのである。


「適時煮たら蓋を取り、器に盛りつけて」

「もう食べて良いの!?」

「もう食べて良いのか!?」

「何でそこだけしっかり言葉になっているんですか…… まだです。最後に闇胡椒をふりかけます。パラパラパラっと――― はい、これで簡単ドラゴンジャーキースープの完成です」


 コトリと、二人の前に置かれる出来立てのスープ。ジャーキーは熟成を必要とするが、こちらのスープは間違いなく今が食べ頃の飲み頃だ。黄金(こがね)色のスープの中に、ゴロっとしたジャーキーと、トロトロになった極彩玉ねぎが浮かんでいるのを見て、二人はもう堪らん状態を一点突破。しかし、料理を司る甘露の許可は絶対なので、待ての状態で辛うじて堪えていた。歯を食いしばりながら堪えていた。早く「良し!」の号令を出さないと、このままでは二人の歯が砕けてしまうかもしれない。


「そ、そこまで我慢しなくても、もう食べて良いですよ。私も食べますから」

「「いただきゃす!」」


 スプーンを手に、マイペースにスープを口に運ぶ甘露。一方で、大急ぎで口にする腹ペコ魔人達。双方の食べ方が正反対であるが、その後の反応は―――


「「「……うまぁ」」」


 ―――仲良く一緒だった。


「ドラゴンジャーキーの塩気や肉汁が、スープ全体に広がってうまぁな感じだよぉ…… 飲めば飲むほど体全体に栄養が行き渡る、何から何までもが潤う……」

「ジャーキーもそうだが、一緒に煮込んだ玉ねぎも実に良い仕事をしている…… 肉も大事だが、人(エルフ)生には野菜も必須…… そんな基本を思い出させてくれる、優しい味わいだ……」

「頭に思い描くは一見穏やかな海、しかしその中は、うまぁがひしめき合う可能性の宝庫だった…… 今日も私の鑑定眼(食)の導きは正しかった訳ですね……」


 燻製チーズに卵、プラチナサーモンのボイル焼きに、ドラゴンジャーキー、そして締めのスープが胃に注ぎ込まれ、美味達は幸福感に満たされた。傍を流れる川の音、その辺の小鳥のさえずりさえも、自分達の明るい未来を祝福しているかのように聞こえてしまう。


「……あ、もう夕暮れだ」


 いつの間にか仰向けに寝転がっていた美味、空を見上げながらそう呟いた。気が付けば地平線に太陽が沈みかけ、辺りも暗くなり始めている。


「本当ですね。 ……今日はもう寝てしまいますか? イータさんが王都に急いでいますし、明日の早朝に出発するという事で」

「賛成~。お姉ちゃん、今日はこの幸せな気持ちのまま、もう寝ちゃいた~い」

「ならば、私が火の番を―――」

「―――いえ、私がやりますので。ゲストにそんな事なんて、させられませんよ。いつも美味ねえと交代でやっている事ですし。片付けもついでに私がやっておきますから、もう休んで問題ないですよ」

「だが…… いや、ならば今日は甘えさせてもらおうか。正直、この状態でまともに火の番ができるかどうか、微妙そうだ」


 腹を満たして体が満足したのか、ここでイータが欠伸をひとつ。美味と同じく、かなりの眠気に襲われているようである。


「ではイータさん、私と一緒に寝袋のあるテントへって、何で川の方に行くんです!?」

「むっ? え、あ、いや…… 寝床と言えば水の中じゃないのか? 間近で大自然なララバイが聞き放題だぞ?」

「「………」」


 そういえば、このエルフは変なエルフだった。今更ながらにその事を思い出した黒鵜姉妹は顔を合わせ、次いで大笑い。幸せな時間の締めは、いつの時も笑顔である。

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