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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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アサクラさんからの手紙

それから大きな事件が発生することはなく、便利屋として依頼をこなしていきました。

便利屋というだけあって舞い込んでくる依頼は多種多様ですが、中にはしょうもない依頼もあります。彼女の勝負下着を調査してくれとか代わりにギャンブルで稼いでくれだのカヌーに羽を付けてくれ等々……まぁそんな依頼書は破り捨てて、マトモな依頼には精を出して仕事をするのです。

もちろん比奈姉の情報収集も並行して行いましたが、確信の持てる情報は得られないまま。第一、私はこの世界にいる比奈姉について名前と容姿しか伝えられません。迷子のように行方不明になった場所と時間も分かりませんし、名前だって偽名を使っている可能性もあります。時の運も味方に付けなければいけないのが、何とも辛いところです……

効率の良い探し方ができないかと頭をひねくり回し、静寂従順な死神についても進展が無く存在を忘れかけていた頃に封筒が届きました。収納印にはコルテの文字。中を開けるとメモ用紙が入っていました。



『クラウンの掲示板様。エリシア・ラーダ、モトヤマ・リラ、フーリエ・マセラティという名の3人組の旅人へ、この封筒を渡してください。彼女らはスタンレーへ向かったと聞いています。特徴は――』



と3人の容姿について事細かに書かれ、最後に『アサクラ・ベリーサ』と署名があります。



「アサクラさん、手紙を送ってくれたんですね」



エリシアさんが声をうわずらせた手紙の主は、魔法使いの聖地コルテで出会った技術者のアサクラさんでした。

魔法が使えなくても箒で空を飛べる機械を開発し、普及に向けて尽力していました。しかし、魔法が使える人々とそうでない人々の間にある溝や機械に向けられた関心の数、アサクラさんの父が自殺したキッカケなどが絡まった結果、大勢の人が集まる祭りのメイン会場で爆発事件を起こしました。

理想と現実、世間の非情さ、魔法による隔絶に苦しんだ彼女は、今は獄中にいます。「ごめんなさい」と最後に言い残したアサクラさんの心情が詰まった便箋には、コルテの現状と己が犯した罪への後悔と私達への感謝が綴られていました。



『久しぶりね。そちらは楽しくやっているのかしら。私は普通に過ごしているわ。食事は普通だし、独房だから気楽だし、弄る機械が無い以外は不便してないわね。

逮捕されてから、世間の風向きは大きく変わったらしいわ。新聞が私の生い立ちから経歴、犯行動機まで事細かに記事にしてくれたお陰で、主に非魔法使いから同情や擁護の声が挙がっているみたい。中には武力行使に出る者も現れて国内はちょっとした混乱状態。しばらくはコルテに来ない方が安全よ。

そんなことがあって、最初の判決だった死刑は世論に揺さぶられたのか、後になって取り下げられた。取り下げられたから何ってことはないけど、謝らなければならない人達に謝罪する時間が増えたのは、正直ありがたいわ。

……本当に、貴女達には申し訳ないと思っている。父から受け継いで私が改良を重ねた魔鉱石発動機(エンジン)に興味を持ってくれて、輝かしい目で見てくれて、称賛してくれたのに。それを信じることができずに裏切ることをした。歪んでいたのは私の心だった。

貴女の言う通り、ちゃんと信じてくれる人がいると気付いていれば、それを私が信じることができていれば、なんて今更ムダなのに四六時中その後悔で頭がいっぱいなの。本当に愚かだった。

貴女達は自由を謳歌する旅人、私は大罪を犯した罪人。もう会うことはないでしょうけど、それでも、もしいつか再会できたら、顔を合わせてきちんと謝りたい。赦されようなんて思ってないけど、これが私にできる唯一の贖罪だから。

出会って言葉を交わした時間は短いけど、大切な思い出になったし教訓にもなった。ありがとう。

貴女達の旅路に幸多からんことを。

追伸

トックリさんがスタンレーに用があるらしくて、この手紙を出す3日後に到着するそうよ。もしエリシアの魔鉱石発動機(エンジン)に不調とかあれば彼を当たってみて。とても良い人だし、腕も一流だから』



あの日、私には何ができたのでしょうか。もっとアサクラさんの背景を知っていたら、魔法の聖地の負の歴史を知っていたら、手を差し伸べられたら……

未だに脳裏に焼き付いています。魔法とは対極的な機械が搭載された箒が、闇夜を切り裂いて駆け抜け抜けていく。決して魔法ではない、でも確かに魔法そのものだったあの光景が。アサクラさんも同じく魔法に憧れていた。だからこそ、もしこうすればなどと、過去を変えられないと理解していながらタラレバを頭の中で放流し続けてしまうのです。

……幸か不幸か、非魔法使いからは彼女に理解が向けられているようですが、それもまたベクトルの違うもの。既に多くの人の命を奪っている以上、罪人であることには変わりないのですから。犯した後に理解されても意味が無いのです。



「自分のことも上手く伝えられない私が、こんなこと思っても滑稽なだけだけど」



と、【クラウンの掲示板】の扉を叩く音が鼓膜を震わせました。

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