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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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さ、殺人鬼…………っ!?!?

 翌朝。階下へ降りると既にフェルトネさんが朝食の用意をしていました。



「おはようございます。よくお休みできましたか?」

「それはもう存分に」

「ご満足頂けたようで何よりですわ。さぁ、冷めないうちに召しあがって下さい」



 メニューはベーコンにスクランブルエッグ、ロールパンにミルクという洋食の朝食の定番。



「あれ、メフィさんは?」

「まだ寝ておりますわ。夜遅くまで調査報告等々のまとめに追われていましたから」

「そんなに依頼来てるんだ」

「ええ。クラウンロイツ家の名前を掲げておりますから。それを否定する方々もいますが、肯定する方々もいらっしゃいます。最終的な評価は民衆の方々次第。ですがわたくしとメフィが持つ、広い世界をこの目で見てみたいという願望は変わりませんわ」



 身を置いてきた環境を変えることは簡単なことではありません。例えそれが逃避行だったとしてもです。

 日本でも生きていくのには苦労が絶えないのに、ましてや異世界ではもっと厳しいでしょう。常に危険と隣り合わせ、社会保障や生活保護などもちろん無し。

 私は運良く魔法の適正があり、運良く仲間ができたからいいものの、どちらか欠けていたら今の私はいないでしょう。人生は運ゲーという言葉も一理あるように思えます。



「このベーコンってミュンヘン豚?」

「その通りで御座いますわ。巷で人気のブランド豚ですわ」



 異世界にもそんな概念があったんですね。A5肉とかもあるんでしょうか。

 朝食も食べ終わってメフィさんの指示通り、35番街へ向かいました。フーリエちゃんは空から、私とエリシアさんで地上を捜索する昨日と同じ構図です。



「昨日のと同じくらい暗いですね。()()()だけに」

「見上げると空じゃなくて洗濯物なのは初めてです」

「わたしのボケはスルーですかそうですか」



 35番街はメフィさんの言っていたように全ての道に影が落ちています。昨日の30番街は日の差している場所もありましたし、時間帯によっては明るいようですが、この街は地形もあって1日中、日の光が入らないそうです。

 そしてそれは、街全体の雰囲気にも陰を落としていました。



「ミッチミチに建物を建てたら、当たる日も当たらないですよ」

「窓も小さいし、ゴミのポイ捨てもあって治安は悪そうですね……」



 その言葉がフラグとなってしまったのか、瞬間、目の前で風切り音が耳をかすめました。見渡すと建物の屋上にグレーのシルエットが佇んでいます。そして鈍く光る物をこちらに向かって投擲してきたのです。



Gilaemf(追従せよ)!」



 放った魔力弾はソレの動きに追従して真正面から弾き返しましたが、その間にグレーのシルエットは5メートルほど前の距離まで移動していました。近接してきたことにより、シルクハットとマントが視認できました。



「撃ちますか?」



 エリシアさんが耳元で囁きます。



「さすがにこの街中ではマズイと思います。でも万が一のときはお願いします」



 シルエットしか見えないのは分が悪いと判断し魔法で明かりを点けました。シルクハットを目深にかぶっていて依然として顔は見えません。しかし体躯は思いの外小さいように見えます。フーリエちゃんと同じくらいです。



「あなたは……誰ですか!」

「クラウンロイツの知り合いか?」

「質問に質問で返さないでください!」



 相手はこちらの問いに返答しないまま、ジリジリと近付いてきます。こちらの声が聞こえないのか、あるいは聞くつもりがないのか、少なくとも話が通じる相手ではなさそう。

 正直、心臓は激しく脈打っていて今にでも逃げ出したい気分です。足はすくんで少しでも気を抜けば腰が抜けてしまいそう。フーリエちゃんに大声で助けを求めたい。しかしここで逃げて何になる。私は魔法という武器がある。憧れ焦がれてきたものを使わないでどうする……!



「応じないのなら、こちらも容赦しませんよ……!」

「……お前らは【クラウンの掲示板】の、なんだ」

「下宿人、宿泊客、金で雇われた労働力、お好きなのでどうぞ」



 エリシアさんはネタを仕込みながら返答します。その鋼メンタルはどこから来るんでしょうか。

 しかし相手は「そうか」と納得したような一言を残し、マントを翻して一瞬のうちにどこかへ去って行きました。



「一体、何だったのでしょうか」

「メフィさんと関りが……?」

「元カノの可能性は」

「クラウンロイツ家と敵対している貴族からの刺客? とりあえすフーリエちゃん呼びましょう」

「わたしのボケはスルーですかせっかく緊張を解いてあげようと」

「呼んだ?」

「ウベェア!?」

「相変わらず奇声をあげるねリラは……」



 だから後ろから声掛けるの止めてください! フーリエちゃんだと色々な意味で危ないんですから!



「あのですね、カクカクシカジカチデヂカでして……」

「そんなことがね……」

「フーリエちゃんは見てないですか?」

「見てない。寝てたから」



 キッパリとサボりを告白するフーリエちゃん。寝たいときに寝るという確固たる意志を痛感します。



「何か言ってた?」

「【クラウンの掲示板】の何だ、と聞かれました。エリシアさんが下宿人とかと答えたら、納得した様子で去りました」

「そうか……なら標的はメフィとフィルトネだろうね。私達とクラウンロイツ家に繋がりは無い。私達を脅迫材料に何かしらの干渉を試みている可能性はある。スパイか恨みのある人間か」

「じゃあ早く帰らないと!」

「その必要は無い。クラウンロイツ姉妹も理解しているはずさ、貴族の名を看板に掲げることへの危険をね」



 フーリエちゃん空を見上げながら、またもキッパリと言い放ちました。やはり洗濯物だらけで、青いはずの空の色は見えません。



「こっちはこっちで捜索を続けよう。ここもしらみつぶしで探すしかなさそうだよ」



 ふわぁあ、とあくびしてフーリエちゃんは空へ舞い上がっていきました。

 私とエリシアさんは一抹の不安を抱えながら、捜索を再開しました。

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