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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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一時帰還っ!

「戻りました〜」

「おかえりなさいませ。お疲れ様でした」

「先に帰ってたよ」



【クラウンの掲示板】に戻ると、フィルトネさんが水とタオルを持って出迎えてくれました。高級ホテルでしたっけ、ここ。

 それからチーズの焼ける匂いがキッチンから漂います。高級感をまとった匂いで、初めての感覚に私の脳みそでは情報を処理しきれなくなりそうです。



「成果はどうでしたか?」

「何もありません。抜け毛も、足跡も、何ひとつありません」

「ふふっ、良くあることですわ。猫は気分に任せて放浪する生き物。活動に必要な行為にのみ縛られ、あとは自由に赴くまま。人間が渇望する自由とは、もしかしたら猫のような自由なのかもしれませんわね」



 知的で上品さに溢れた話し方と所作で紅茶を注ぎ、私達が座った席にカップを置きました。爽やかな落ち着きのある香りが広がります。



「クラウンロイツ家のオリジナルハーブティーですわ。配合は秘密です」



 唇に人差し指を当てて軽くウィンク。あざとくも清純で気高く。なるほど、これが貴族の社交術なんですね。

 口にすればレモンの抜けるような爽やかさに、ハーブの風味が絡み合います。どんな種類のハーブを使っているか私には分かりませんが、体がすっと軽くなって張り詰めた気持ちが解けていくようでした。



「そういえばメフィさんは?」

「依頼主様へ経過報告に行っておりますわ。依頼主様は11番街にお住みの方で、今頃アフタヌーンティーを嗜んでいる頃合でしょうか。ちょうど、今のわたくし達のように」

「口ぶりからするど、この国は数字が小さい番地ほど高級みたいだね」

「その通りですわ」



 曰く、中心から外側に向かって番地の数字は大きくなり、小さい数字になるほど富裕層になるのだとか。

 地形が中心に向かって標高が増すウェディングケーキ形なのもそのためで、要は貴族層は下々の民を見下ろせるという、階級制度の名残りだそうです。クラウンロイツ家の邸宅は5番地から10番地にあり、センチュリー家はもちろん1番地から4番地。

 工業化が進めば平等になると思い込んでいましたが、全然そのようなことはないようです。技術の近代化は必ずしも平等や民主主義と結びつかない……メモメモ。



「工業区は貴族お抱えの工場が、行政区は軍部が最上層に位置しておりますわ。もっとも、軍部に関しては有事の際の地理的条件から最上層になっているのです。中心の塔は国のシンボルであると共に、周辺の監視塔でもありますわ」


 

 ハーブティーを飲みながらだと、不思議とフィルトネさんの話がすぅっと頭に入ってきます。やはり緊張感が解れているからでしょうか。貴族のもてなし凄い……

 しばらくしてメフィさんも帰ってきました。



「おかえりなさい。どうだったお話は?」

「推理できそうな手掛かりは得られたよ。ローラちゃんは日陰を好むらしく、日向へは絶対に行かないらしい。そして滅多に鳴かない。そして何より輝く宝石のように目立つ」



 目立つのに見つからないとなれば物理的に遠くに行っているのか、人間が気付けないような場所に行っているかの可能性に絞られそうです。要はしらみつぶしに捜索するしかないと。

 メフィさんはどっかりとソファに腰を下ろすと足を組んでハーブティーを飲みました。貴族の面影が皆無。



「ただ気掛かりな証言があった。曰く、姿が見えないのに鳴き声が聞こえるときがあると。しかも聞こえる方向は決まって日が差している場所から。飼い主はローラしか猫を飼っていないから他の猫である可能性は排除される。そして日向との関係性は……」

「まぁまぁ、考えるのはご飯を食べてからにしましょう? ちょうど焼きあがったところですわ」



 フィルトネさんがミトンをはめた手でオーブン皿を持ってきました。見た目はただのパイですが、中にグラタンが包まれたグラタンパイだそうです。そんなオシャレ料理初めて聞いた。

 切り分けられて断面がとろ~り、ということはなく、意外にもマカロニの比率が多め。しかしチーズとホワイトソースはしっかりと絡まっており、恐らく一般家庭では嗅ぐことはないであろう類のチーズの匂いが漂います。



「いただきます」



 まず口に入れての第一印象ですが、食感が新しいと感じました。ソースの粘度の高いグラタンとパイのサクサク感が交互にやってきて、食べたことのない私としては非常に新鮮です。

 味はもちろん最上級ですが、要素としてはグラタンにパンの味が合わさったような感じで馴染みのある味です。しかし食感により全く別の料理として脳に伝えてくるので、総合的に“馴染みはあるけど未体験の料理”というヘンテコな感想になってしまいます。人間の脳って面白い。



「それで明日は何をすればいいの」

「明日は35番街を回ってもらおうかな。あそこはずっと日が当たらない場所だから、日陰を好むならピタッリの場所さ」

「そう」



 フーリエちゃんは非常にそっけない相槌を返しました。もう頭の中は寝ることでいっぱいなのかもしれません。かわいい。

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