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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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猫は自由奔放、六法全書にもそう書かれています

 時は少し流れ、場所はスタンレーの南南東に位置する30番街。ここで私とエリシアさんで猫探しをしているのでした。フーリエちゃんは上空から探すと言ってましたが、多分サボるつもりです。私には分かる。

 宿代タダの条件としての、便利屋の仕事手伝い。その最初が猫探しです。



「猫の特徴だけど、珍しい銀色の毛並みをしている。名前はローラ。よく失踪するそうだけど、必ず夜には戻ってきた。しかし今回は3日経っても戻ってこないとのことで相談を受けた。煙を嫌がるそうだから工業区には入ってないと思う。キミ達には30番街を探してほしい」



 スタンレーでは、南を下にしてYの字に3等分したような形で地区が別けられています。北西から北東に跨るのが共用区。北東から南に跨る地区が居住区。南から北西に跨るのが工業区。その3つの区域の中で、さらに1から50までの細分化された番街があります。

 私達が入ってきたのは南門からで、つまり居住区と工業区の間です。【クラウンの掲示板】は居住区のうち20番街に位置し、地区の真ん中より少し上くらいの場所にあります。


 30番街は同じような形の集合住宅が続き、店も無く活気はあまり感じられません。道幅は狭く圧迫感があって息苦しさがあります。逆に猫が隠れるなら丁度いい場所ではありそうです。



「ローラ! ローラ!」

「にゃーん、にゃーん」



 呼びかけてみても反応は無し。さぞ近隣住民からは私達の姿が珍妙に見えるでしょう。



「特徴を聞く限りじゃすぐに見つかりそうなものですけどねぇ」

「銀色の猫ですもんね。派手に目立つはずなのに」

「聞き込みしますか」

「き、聞き込み!? 私には、ちょっと…………」

「わたしに任せください!」



 胸を叩いて自信満々のエリシアさん。確かにコミュ力は強いですが、どこか不安があるのも事実。私が言えた立場でもないでしょうが…………



「リラさんはゴミ箱の荒れ具合などから猫がいた形跡を探してください。必ずしも見つけろって言われたわけじゃないですから、ひとつでも手がかりが得られればいいでしょう」

「では、お願いします」



 ウインクしてサムズアップを向けるエリシアさんは、なんやかんやで心強く感じました。常に期待と不安が天秤で揺れ続ける存在。

 とはいえ猫は縦横無尽に駆け回る生き物。どこに痕跡が残されているか予想が付きにくいです。おまけに液体と例えられるほどの柔軟性を持つので、どんな小さな穴でも見逃せません。

 腰を眺めて地面スレスレを凝視して、立ち上がって遠くにフォーカスを当て、また地面を凝視……腰と目がやられる作業です。

 まだ若いから、なんて言いますけど若くても疲れるものは疲れるんです!



「ゴミ箱が荒らされた形跡ならいくらでも見つかるけど、猫と断定できるものが無い……ゴミ箱荒らしなんて他にもいるし。ダメ元で探知魔法使ってみよ。|casabseim:bus《探知:猫》」



 予想通り、無数の反応があってとてもひとつひとつ区別できる量ではありません。猫なんてどこにでもいる生き物。例えるなら、イベント会場で同人誌という情報だけで頼まれた本を入手するのと同じです。



「ぬぁぁあ何も、ない……ないないないナイスダンサー。何言ってるんだろ私」



 かれこれ2時間弱が経過し、そろそろ頭が虚無になりそうな頃。聞き込みを終えたエリシアさんと合流しました。時刻は夕方、狭くて住宅が密集しているために昼間も日光が入りづらいこの地区では、夕焼けもちょこっとしか見えません。



「成果はありましたか」

「何も無いです……魔法で探そうにも猫の魔力なんていくらでもあるわけで」

「こちらも収穫は無しです。ま、そんな簡単に見つかるわけないですよね……」



 さすがのエリシアさんもお疲れの様子。振り返れば、スタンレーに到着して宿探しして、そのまま調査に繰り出されたのですから当然です。

 そしてフーリエちゃんも降りてきました。足を投げ出したままベンチで横になる人と同じ体制で箒に乗り、今すぐ寝かせろとでも言いたげなジト目です。カワイイカワイイネ……



「おかえりなさいフーリエちゃん」

「ただいま。この国の空は相変わらず空気が澄んでないね」

「なーんにも収穫ありませんでしたよ。最初から見つかるとは思ってませんけど」

「こっちもナシ。黒猫は結構な数がいるのにねぇ」

「え、ちゃんと見てたんですか!?」

「ざっとだけ見て、いないと分かったら寝たけど」



 やっぱり寝てたらしいです。箒で飛びながら寝るなんて、なんと器用な……

 しかし大雑把とはいえ、ちゃんと探してくれていたのは事実。思い込みで決めつけた事に少し罪悪感を持ちました。



「ひとまず帰りましょう。なんでも、夕暮れは殺し屋が出没してるとか噂があるそうです」

「どうせ子供を躾ける為の嘘でしょ。いつの間にか都市伝説になってるってのは良くある話だよ。んじゃ先行ってるから」

「あ、ちょっと! ……行ってしまいました」



 フーリエちゃんは私とエリシアさんを置いて、一足先に帰ってしまいました。むぅ。

 まぁ仕方ありません。私がエリシアさんを乗せて帰るとしましょう。手首を振れば勝手に箒が手に握られている、やはり魔法って便利。

 そういえばエリシアさんを後ろに乗せたのは地味に初めて? 2人きりの時は何回かありましたが。



「そういえば」



 ふとエリシアさんが後ろから話しかけてきました。



「リラさんってフーリエさんには"ちゃん"付けなのに、わたしには"さん"付けですよね」

「へ、いやそれは年上ですから……」

「別に嫌ではないですけど、もっと親しい感じで呼んでくれていいんですよ」

「確かにそうですけど……」



 エリシアさんとは、もう短くない時間を一緒に過ごしています、普通に会話できる数少ない相手であり、フーリエちゃんの同担であり、多少難はありますが心をオープンにできる仲間です。

 エリシアさんの言う通り、へりくだらなくてもいいのでしょうが……



「そもそもエリシアさんがそうしてるじゃないですか。私は年下なのに」

「癖になってるからです。親にはそこらへん厳しく言われましたからね」



 酒癖は悪いのに……とは言いませんでしたが、癖だとするなら私も癖になります。だって日本では年上には基本"さん"付けですもの。

 エリシアちゃん……エリシアちゃん……あるいは、エリシア?



「やっぱ違和感あります!」

「……リラちゃん」

「ウヴェェェ!?!?!?」

「ちょちょちょちょ危ないですって!」



 エリシアさんに急に耳元で"ちゃん"付け、しかもめっちゃ甘い声!! ええ!? 何なんですか!? ASMR!?!?



「あ、あ、あの、急にそんなことされると、頭が……」



 ズレたメガネを直しながら箒の姿勢を立て直しました。



「ね、いいでしょう?」

「やっぱりナシです、無理です! 呼ばれるのが恥ずかしいのに、呼ぶのなんて余計に……!」

「え、じゃあフーリエさんは何でですか」

「フーリエちゃんは特別だからです!!」

「じゃあわたしは?」

「2番目の特別です」

「なんですかそれは」



 だってフーリエちゃんが1番なのは変わりないですもん。特別な出会い方をしちゃったんですもん。思い出の重さに差がありすぎる。愛ですよ、愛。

 うーむでもなんかこう、やられたらやり返したい気持ちがありますね。



「エリシアさんだって“好き”ですよ?」

「うぇへへえ~まぁ仲間ですしぃ?」

「……私の口調マネてます?」

「はい」



 なんか人にマネられるとこう、羞恥心に苛まれますね。逆に倍返しされた気分です。うぅ……

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