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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第3章 魔法使いの聖地に来ましたが、大大大事件の予感です!
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よりみち4 セレーネ神話

 のどかな田舎道の端で私達3人は休憩をしていました。

 かわいいかわいい天才ロリ系ぐうたら魔法使いのフーリエちゃんは、ぼんやりと空を眺めていて、エリシアさんは愛用の銃のメンテナンス中です。

 比奈姉が向かった蒸気都市スタンレーまでは、途中でいくつかの村と街を経由しながら1週間かかるそうで、なかなかに長い道のりです。

 長いゆえに早く行きたい気持ちはありますが焦りは禁物。確実に一歩一歩進むことが肝心だとフーリエちゃんが言ってました。……まぁ本人は1歩も歩かずに私の箒の後ろに座ってただけなんですけど。でも、私が幸せなのでオッケーです。


 そんなマターリした時間が流れていく中、ふとあることを思い出しました。



「そういえば、始祖の神話ってあの後はどうなるんですか?」



 始祖の神話とは、世界で初めて魔法を使い危機を救ったとされるセレーネ・ゴドルフィン・ダイムラーの物語です。先日訪れたコルテで行われた始祖の生誕祭にて、その神話演武という神話をなぞった演劇が披露されるはずだったのですが、テロ事件により中断されてしまったのです。



「そっか途中までしか見れなかったもんね。ええと確か子供向けのがあったはず……あったあった。“ある村に1人の農家の娘がいた。名はベルタ。彼女はまだ収穫を任される程の歳と背丈ではなく、毎晩の畑の見回りを任されていた――”」



 フーリエちゃんは丁寧に神話を語っていきます。



 〇〇〇〇〇〇〇〇



 ある星の晩。ベルタが空を見上げると、一筋の奇妙な星を見つけた。それは彼女の方へ一直線に落ちていく。ベルタが豪速で落下する星を右手で受け止めると、両手で包んでそうと見守った。

 すると星は段々と大きくなり、人の形と成っていく。輝きが消えたとき、星は幼い子供の姿を見せた。幼い子供は少し辺りを見回すと、畑に興味を示した。ベルタが声を掛けるより先に、子供が指を振ると畑の作物が一斉に実った。

 月夜の晩である。日の光を浴びなければ育たない作物がみずみずしく、月明かりに輝いて収穫を待っていた。


 ベルタは子供を連れて帰った。ベルタの父は、神から授かった子供だと喜んで、セレーネと名付け世話を娘に命じた。

 セレーネは成長が早く、3日で娘と同じ背丈に、10日で少女となった。セレーネは不思議な力を使い、千の魔物を払い嵐を沈め、不治の病から人々を救い名声を轟かせた。

 ベルタが少女となり、セレーネが大人になった頃、2人に王都から招集が掛かる。セレーネを次期王妃としたい王の意向だったが、王の前に謁見したセレーネは拒否する。そして隕石の飛来を予言し、対策を講じるよう王に要求する。

 それを聞いた王は激怒し、セレーネを追放した。ベルタには教育者としての責任を追及し、処刑を命じた。

 ベルタは監獄へ収監され最期の時を待つこととなった。その時セレーネは初めて、怒りに感情を染めた。生まれ持った力を使い、王都の門を破り、たった1人で数百の兵士を散らして監獄の襲撃しベルタを救出した。


 その瞬間である。地表に大きな影に襲われた。世界で最も大きいとされる王城が、蟻地獄に落ちた蟻のように飲み込まれていく。

 隕石、とセレーネは呟いた。

 世界は闇に包まれ、人々は混乱し、それは例えでもなく世界の終わりだった。

 ベルタは恐怖でセレーネにしがみついて体を震わせた。それをベルタは優しく包み、大丈夫、と優しく囁く。

 セレーネは左手で地面に落ちていた木の枝を拾う。残った右腕でベルタを抱えながら、木の枝を天へ向ける。

 そして覚悟のこもった目で隕石と対峙し、唱えた。


Rgussaqac(砕け散れ)!』


 世界を覆う隕石は小さな砂粒のように散ると星屑となり、星座となった。

 人々は安堵し、歓喜の渦を起こし、そしてセレーネを称えた。

 世界はセレーネによって救われたのである。


 後日、セレーネとベルタは国王の招集を再び受ける。

 国王は自らの行いを謝罪し、2人に豪華な家と多額の富を与え、セレーネには皇太子を結婚相手として差し出した。

 しかしセレーネは謝罪を受け入れたものの、それ以外は全て拒否した。


『私は産まれ落ちた地にて、ベルタと共に終世を迎える所存であります』


 セレーネは国王にそう告げると、村へ帰りベルタと暮らす家を建て、最後の日まで共に住んだ。

 セレーネの死後、セレーネの力は魔法として受け継がれている。


 〇〇〇〇〇〇〇〇


 フーリエちゃんはパタンと本を閉じて、ふぅと一息つきました。ああその一息すらも愛おしくかわいいですよフーリエちゃん……!



「とまぁこんな感じかな。子供向けだから所々省略されてるけど、省略しないと2日は掛かるから、全容を理解する程度ならこれくらいで十分でしょ」

「とても勉強になりました! そしてフーリエちゃんのかわいさも学べました!」

「私を教材みたいに言うな」



 推しの朗読なんていくらあってもいいですからね!

 特別な体験ができて、我が生涯に一片の悔い無し……ではないですがっ! それくらいに幸せを享受させて頂来ました。ありがたやありがたや…………



「休憩もできただろうし、そろそろ出発しようか」

「わたしは準備できてます!」

「フーリエちゃんのご指示のままに!」



 3人は目的地へ向けて再び箒を飛ばしていきます。

 まだ見ぬ世界から吹く風が頬を撫で、風が流れる景色に期待を膨らませるのでした。 

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