番外編 リラから矢印を向けられた/ 推しの過剰摂取は危険です。用法容量を守って(ry
キスの日特別編です!!!!!!!!!
紺色の空に紫の満月が輝き、星々が瞬く夜。次の目的地へ向かう道中で、いつものように木々の間にテントを吊るして私とリラとエリシアの3人で野宿をしていた。
夕食も済ませ、各々が個人の時間を過ごしていた。なお花粉症のせいで味が薄かったことを付け加えておく。
私はたまたま出会った商人から買った魔術書を読み、リラはほのかに顔を赤らめながら杖を磨いてはうっとりと眺め、エリシアは愛銃の整備。武器を手入れするのは大変結構だが、なぜ私の両脇で密着して行う必要があるのか、これが分からない。
2人は口を揃えて『フーリエちゃん(さん)が好きだからです!!』と答えるが、この“好き”は好みや恋愛感情とも違う好きなのだろう。が、一方で何の“好き”なのかは未だに不明であった。理解したところで得になりそうでもないが。
「黄帝ゲームやりましょう!」
「3人でやるとかバカなの?」
突然エリシアが叫んだ。エリシアは積極的で好戦的で戦闘においては心強いが、酒飲みだし常にテンションが高いので唐突な言動に振り回されそうになる。
エリシアが提案した黄帝ゲームとは、ランダムに配られた人数分のカードのうち指定のカードを引いた者が“黄帝”になり、指定した“家来”に指示が可能というゲーム。ただし指定はランダムで選ばれた非公開の数字で行う為、例えば「3番がパンを奢る」と指示しても誰からパンを奢られるかは分からない。
そんな面白おかしな緊張感が売りなのだが、ルールの通り最低でも4人いなければ面白味が無い。だって黄帝が決まった瞬間に家来は2人になり、さらに指示は2人まで可能な為、誰と誰がどんな指示を受けるかというワクワクドキドキってのが発生しない。2人でする老婆抜きみたいなものだ。
「黄帝ゲームって、あ、なるほど。いいですね!! フーリエちゃんに指示されたり弄ばれたりしちゃうんですね!?」
「私が黄帝で固定なの??」
リラは普段は大人しくて超絶人見知りであり、他人とは会話がまともにできないのに、私が絡むと途端に饒舌になる。エリシアが絡むと人が変わったように積極的になるので微妙に掴みどころが無い。
私はこの【不変の魔力均衡における古典的視点からの曲解と新天地】を読み込んで新たな魔法のヒントを得たいのに、これではまともに読めない。もっとも、これまでの旅でそういった事は何回もあったからもう慣れてきた。不思議と嫌悪感とか激しい不快感も湧かない。
「それじゃカード配るので、各々でよく混ぜてから一番上のカードを取ってください。今回の黄帝の数字は5です。あと引いたら職業と好きな飴の味を言ってください。ではリラさんからどうぞ」
「なんか別のゲーム混ざってない?」
「引きました! 職業は魔術師、好きな飴の味はミルクです!」
「そんなに目を輝かせるものなのこれ? んじゃあほいっと……えーとじゃあ好きな飴の味はハチミツ。職業は無職でいいよ何も思いつかないし」
「お前むーしょく!」
「酒飲みには言われたくない」
「最後はわたしですね! 飴の味はコショウ、職業は無職!」
「お前むーしょく」
「では愉快な仲間たちの黄帝ゲーム、はーじまーるよー」
棒読みなエリシアの開始宣言で面白味のカケラも無さそうな黄帝ゲームが始まった。まぁ適当に切り上げておくとしよう。少し強引に押し通せばサックリと諦めてくれるのだこの2人は。私を上に据えたゆるい上下関係が構築されている気がしないでもない。それで上手くいくならそれで良いけど。
「では、わたしが1番でリラさんが2番、フーリエさんが3番ということで。さぁ黄帝だーれだ!」
合図で引いたカードを表面にする。数字は5、私が黄帝だった。
「私が黄帝」
「指示くださいフーリエちゃん!」
「ならお望み通り。2番がそこにある本を持って私に読ませる」
「喜んで!」
リラが飛び掛かるようにして私の脇にある本を掴んだ。そのせいでテントが揺れてバランスを崩しかけた。
普段は4本のロープで吊るが、今回は2本のロープで吊ってるだけなので余計に不安定。生地が破れることはないが、普通に危ない。
「危ないってば……」
「えへへ……ごめんなさい」
「口ではそう言うけど顔は申し訳なさを感じないよ?」
「つまり、リラさんがフーリエさんに然るべき方法で謝罪の意を示せと」
「フーリエちゃんなら、全然、大丈夫ですっ! 満足するまで何時間でもどうぞ!」
「読み終わる頃には朝になってるかもだけど」
「なんと激しい……っ! ぐうたら系なのにそういう時は積極的なの、定番のギャップ……! はぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「いつも以上にリラが変なんだけど、何か変なの食べた?」
「夕飯の時に間違ってわたしのウォッカを飲んじゃったみたいです」
「どうりで顔が赤いと思ったよ!!」
いつも以上に顔がとろけて恍惚とした表情になっている。一応未成年飲酒にはならないものの、こんな様子で放っておくのは多分ロクなことにならない。エリシアを見れば明らかだ。
「フーリエちゃんにご奉仕、幸せです~!………………ヒナ姉………………」
「急に重くなるな!!」
「情緒不安定になるタイプでしたか」
途端に目が虚ろで生気を失ったように項垂れる。まぁ気持ちは分かるが、それにしても情緒の乱高下が激しすぎる。とりあえず酔いを醒ました方が良さそう。
近くにあった水筒を開けてリラの口に流し込んだ。
「あ、それわたしのジンです」
「はぁ!?!? え、冗談だよね???」
「マジです」
「吐いてリラ今すぐ吐いて!」
柄でも無く取り乱してしまった。いや取り乱さない方がおかしいよ!?
とりあえずテントから顔を出させて、申し訳ないが腹部を強く押し込ませてもらった。幸いにも少量だからアルコール中毒にはならないと思うけど……
激しく嗚咽しながら吐瀉物が下へ落ちていく。不快な音が伝ってきて気分が悪い。
「なんで分かりにくいのを置くのさ! 普通に危ないでしょ!」
「で、でもそれ判別できるように匂いをキツめにしてるんですよ……? 開けた瞬間に匂いませんでしたか……?」
「…………私、花粉症で鼻詰まってた」
「あとちゃんと酒と書いてますし……」
「………………」
水筒を改めて見る。確かにしっかりとお酒であると書かれていた。匂いも、微かにではあるがアルコール臭がする。
「……確認しなかった私が悪かったね」
「…………………………………………」
とても気まずい沈黙が流れた。リラの気持ちがほんの少し理解できた気がした。
「フーリエちゃぁ~ん……うぇへへ」
「え、今度は何なの」
「大好きですぅ~」
四つん這いになって顔を真っ赤にしたリラが這い寄ってきた。明らかにさっきより酔ってる! 吐かせたのにダメだったか……!
あまりの変貌ぶりに思わず後ずさりする。しかしすぐ後ろは壁面だった。すぐ目の前にはリラ、横に逃げようとしたが腕を掴まれた。そして動揺している間に――抱きしめられた。
「うわぁお」
「うわぁおじゃないよどうにかして」
「ふわふわで良い匂い……なぜだか安心します……かわいくて、天才で、なんやかんや仲間思いなフーリエちゃん、大好きです……」
「はいはい散々聞いてるよありがとね」
またいつものかとやんわり引きはがそうとしたが、これが謎に力が強くて離せない。リラってこんなに力強かったの??
そしてリラはぽつりぽつりと、先程までの興奮具合とは程遠い声色で言葉を漏らし始めた。
「本当は怖かったんですよ……この世界が…………魔法はあってもヒナ姉はいないし、私1人でなんて、生きていけるのかなって…………私、ほら、すっごくコミュ障だし、臆病だし…………」
「……うん」
「あの日、フーリエちゃんが話し掛けてくれなきゃ、旅は終わってました……ビックリしたし、あんなこと言っちゃったじゃないですか」
あんなこと、とは見ず知らずの人間と一緒の部屋にして下さいと頼んだことだろう。正直、あの時の事はイマイチ覚えていない。眠くて何も考えてなかった気がする。
「それなのに受け入れてくれて、何でこんな私なんかって思ってたら今度はヒナ姉を知ってるとか言われて…………訳分かんなくなりましたよ」
「まぁ、だろうね」
「でも、きっと運命なんですよね。フーリエちゃんと出会ってなければ、何も始まらなかった。ただただ悲愴に浸かって、時間を潰して、そのまま死んで、何も進めないままに…………それを変えてくれたんです」
「そこまで言う?」
リラは抱きしめる力を更に強めた。苦しくもなく、しかし逃げられない絶妙な圧力が掛かる。
そして上目遣いで潤んだ瞳で見つめてきた。
「嬉しかったんですよ。私を受け入れてくれたのが……社会不適合な私が唯一、生きる意味としてた魔法で受け入れてくれた。夢見て焦がれた同志って言葉がどれだけ嬉しかったか……一生忘れません。大好き、です。ヒナ姉に向ける好きとは違う、フーリエちゃんだけに向ける好き、です」
そう言うと急に体を寄せられ――――頬に柔らかい感触を覚えた。
これって、まさか。
「あら〜…………」
「え、もしかして、リラ?」
困惑しながらリラに目線を向けるが、既に寝息を立てていた。幸せに満ちた安らかな笑顔で、涎を垂らしながら。
本当にリラはイマイチ掴みどころが無い。でもリラの言葉はいつでも素直で本音なのだろう。超絶人見知りが故に、誤魔化すのも下手なのかもしれない。
私はゆっくりとリラを寝袋の上に寝せた。今夜は比較的暖かいから、体は冷えないだろう。
妙な視線を感じて振り向くと、案の定エリシアがニヤけた薄ら笑いを浮かべていた。
「もしかして、初ですか?」
「そんなこと聞いてどうするの」
「フーリエさんはどうなんですか。リラさんへの気持ち」
「リラには話したけど、魔法が心から好きなんだと知ったら一緒に旅するのも悪くないなって思った。魔法を見た時の輝く目が、かつての私と重なった気がして、それは私が追い求める魔法の理想のひとつだった」
それにしても、なぜリラは魔法使いの素質がありながらも、あの日まで魔法を使ったことがなかったのだろう。あんなにも魔法が好きで素質もあるなら、もっと前から魔法使いになっていてもおかしくないのに。
家庭の事情か、住んでいた地域が魔法嫌いだったのか。本人が今幸せなら何だって良いけど。
「いいモノ見せてもらったので、わたしは寝ますね」
「見せ物じゃないんだけど。まぁいいよ、おやすみ。わたしもとキスされたら堪んないから」
「そう言われたらしたくなります」
「しないで頼むから。エリシアは勢いだけで突っ込むから疲れるんだよ……」
異議を唱えたそうに口を尖らしたが事実なので仕方ない。戦闘要員としては腕が立つが、如何せんノリと勢いだけで進む様は私には合わない。
合わないけど、時にはそれが役立つから憎めない。見た目だけはまともな人なんだけど。
「ん、そろそろ飲まないと……そして寝る」
魔力が少ないと体の内側から注意報が発せられた。補給しないと色が抜けてしまう。魔力補給剤を水と一緒に口に流し、そのまま就寝した。
魔術本は…………明日でいいか。
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「…………んんっ、あれ、寝てた……? ううっ頭痛っ…………」
気付いたら朝になっていました。テントのカーテンの隙間から光が差し込み、鳥たちがさえずりであいさつを交わしています。そんな爽やかさとは対照的に、私の頭はズキズキと頭痛を引き起こしていました。
昨夜ゲームをしてからの記憶も無いし、それからほのかに唇に残る柔らかな感触は一体……
「ふわぁぁ~っ、おはようございます。昨夜はお楽しみでしたね?」
「お、お楽しみ?」
なんですかその薄い本みたいな言い回しは。ちょっと怖いですよ……
「エリシアが黄帝ゲームで勝手に盛り上がってただけでしょ……ふあぁぁあ」
「あ、フーリエちゃんおはようございます」
挨拶するといつも通り「ん、おはよ」と返してくれるフーリエちゃん今日も朝からかわいい。しかし綺麗なオッドアイの目はどこか気まずそうでした。
「あ、あの、私、何かやっちゃいましたか……?」
恐る恐る尋ねると、2人は互いの目を合わせ神妙な顔。やっぱりやらかしてるじゃん! その反応は絶対調子乗ってやらかしたパターン! やっぱり私は集団行動に向いてない……
「記憶無いんですね……いやそれが、リラさんがフーリエさんに愛の告白をですね」
「告白?」
「『ヒナ姉に向ける好きとは違う、フーリエちゃんだけに向ける好きです』とか言ってました」
「と、当然じゃないですか! だってフーリエちゃんは推しなんですよ!比奈姉への“好き”は、尊敬とか親愛とか、いや気持ちはもっと大きいですけどそういう類の“好き”で、フーリエちゃんへの“好き”とは別なんです! すっごくかわいくて優しくて頼りになるけどぐうたら系の見た目に違わぬ属性! 推しにならなくてどうするんですか!」
フンスと鼻を鳴らす私。推しは推せるうちに推しとけです。好きと叫べるうちは叫んでいかないとなんです。
「…………釈然としないけど、まぁいいや。好意を向けてくれることに悪い気はしないし、私もいつか恋愛の意味で好意を抱く相手が現れるかもしれない。興味は無いけど、絶対とは言えないじゃん」
「わたし! わたし!」
「エリシアには無いと思う」
「マジぴえんなんですけど~」
異世界にもギャル語みたいなのあるんですね……
「えと、なら、私は」
「私は同性愛者ではないんだけど……かと言って異性に興味は無いけど、まぁリラだったらそういう好意を抱いたとしても、そのことを否定はしないかも」
「アッ………………」
「ああリラさんが気絶した!」
「ええ……?」
こうして私は、人生で初めての、推しからの過剰摂取による尊死を迎えたのでした。
比奈姉、私は、とても幸せです。
この後ちゃんと生き返りました。
特別編とはいえ今日で週2回投稿したんで、次回は来週の月曜日にしていいですか……? いいですよね……? そうしますね(決定)




