表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第3章 魔法使いの聖地に来ましたが、大大大事件の予感です!
30/120

爆走!激走!箒で直線タイマン勝負! 加速がヤベェです

ちょっと長めです。区切れる丁度いい箇所がありませんでした……

 夜がいっそうの深みを帯びてきた頃。月明りが煌々と照らす埠頭で、魔鉱石発動機(エンジン)の唸りが満月に吠えます。

 参加者は12人。この中にエリシアさんに箒を譲ってくれたアサクラさんもいます。

 改造を施した自慢の(マシン)での直線勝負。ただシンプルに誰が一番速いのか。プライドと腕を賭けた戦いが始まろうとしています。



「シラフで聞くとこの低い音もカッコよくて良いですね!」

「そ、そうですね」

「魔法使いの間でもレースをやったりするんですか?」

「え!? えと、自分はやったことないです……」

「いいな~わたしも参加してみたかったです」



 前夜祭の催しとはいえ、時間が時間なので観客はポツポツと5、6人程度。観客の少なさが、エリシアさんと二人でお出かけなのを意識させられて緊張します。

 いつもはフーリエちゃんが一緒だから大丈夫なものの、一対一で話すとなると、返答とか話題の振り方が分からず沈黙してしまうのが申し訳なくなります……。

 思えば、転生してからフーリエちゃんの側を離れたのは初めてです。ここにきて今いる世界が異世界だという事実が、緊張を増幅させてきました。フーリエちゃんの実家のような安心感が身に染みます……


 と、アサクラさんがこちらに気づいたようで手を振っています。こっちも振り返したほうがいいですか??



「来てくれたのね。嬉しいわ」

「ええ来ちゃいました。今日は頑張ってください!」

「ありがと。言われなくても優勝するわ。今日のために持てる技術を全て注ぎ込んだ。この前とは比べ物にならないほど高出力に仕上がったわ」



 アサクラさんは気合十分です。ところでなぜ私をチラっと見てすぐ目を逸らしたんですか? コミュ障だからって変な気遣いでもされたんですかね??

 アサクラさんは気を良くしているのか、ご丁寧にライバル紹介までしてくれました。まあ私に向けられたものではないと思いますが。



「今日の目玉はトックリおじさんと、スイーピーさんね。トックリおじさんはレースの発起人で、あそこのちんちくりんがスイーピーさん。大人しい容姿だけど、何食わぬ顔で最高速試験を繰り返してる変人よ。空が飛べるのに道路上でやりたいとか言ってるの。でも真の強敵はコルテでも機械屋として最年長のアメさんね」

「やっぱり職人ってヘンなところありますよね。ヘンだからこそ高い技術があるんでしょうけど」

「わたしは真っ当な職人になりたいわね」



 言葉にも詰まらず、間が長くなく話せる2人の話術に脱帽です。これが出会って1日と経ってない者同士の会話とは信じられません。コミュ強はすごいなぁ……

 って私もコミュ障を軽くするために来てるはずなのに、羨ましがってる場合じゃないです。何か話題を振らなければ……えっと、うーんと……



「あっ、他の皆さんが使ってる…………」

「じゃあそろそろ行くわね。ちゃんと見ててよ」

「はい! 」



 言いかけたところでアサクラさんが去ってしまいました。考えすぎて相手の発言と被って会話できず終了。コミュ障あるあるですね。引き出しが少なすぎるっ……

 ま、まぁ今回はエリシアさんとの会話に慣れるのが目的なので、今のは問題外です。まだ慌てる場面じゃなわわわわわわ………………



「大丈夫ですかリラさん? 挙動不審ですが」

「え!? いや、別に……」

「お、そろそろ始まりますよ」

「あ、え、本当ですね」

「1組目からアサクラさんとスイーピーさん、最初から強敵と当たる展開は熱いですね! 最後にして最高傑作と言わしめる26型と、旧型でクセは強いけど使いこなせば唯一無二の性能を誇る12型の新旧対決。盛り上がる要素しかありません!」



 いつの間にかエリシアさんが魔鉱石発動機(エンジン)について詳しくなっていました。練習の時にアサクラさんから教わったのでしょうか。


 2本の箒がレーンに並びました。中央に設置されたランプが赤に点灯すると同時に魔鉱石発動機(エンジン)の音が大きく高鳴り、黄色点滅の後に青色へ。2本の箒は影も音も置き去りにするスピードでゴールを駆け抜けて行きます。勝者はアサクラさんでした。


 暴力的でけたたましくも官能的な音が、夜の帳を貫く一瞬の直線勝負。なるほど、確かにこれは魅力に憑りつかれる人が出てくるのも納得です。私も思わず見入って胸が高鳴ってしまいます。



「アサクラさん勝ちましたね! たった数十秒の競争に、本能を掻き立てられる何かがあるような……そんな気がします!」

「単純で分かりやすいルールだからこそ、性能差が顕著に表れるけど、それは旧式でも工夫次第で最新式を凌駕できるということなんですね。この勝負は、1回戦目からそれを見せつけた結果だと思います」

「おお……! リラさんも分かるんですねこの高揚が!」

「あっ! ええと、なんか変なこと言ってました……?」

「そんなことないです! むしろ感想をちゃんと言葉にできるのはすごいです。わたしって語彙力ないから薄っぺらい感想しか出てこなくて……」

「そ、それは私も同じです! 感極まってしまうと、変な声出ちゃったり、こう、うわあああってなっちゃいます……」

「あははは、フーリエさんと話してるときのリラさんは確かにそうですね。意外と似てるところあったりして?」



 うぅ……エリシアさんの人柄の良さが滲み出てて泣きそうです。そして人差し指を顎に当てて首をかしげるポーズ……エリシアさんもあざといですね。見た目が清楚系なだけに余計にそう感じます。




 1回戦が終わり2回戦が始まりました。12人が6人に減り、これが準決勝になります。

 アサクラさんはここで圧倒的な大差をつけ、決勝へ駒を進めました。エリシアさんは前傾姿勢で大興奮です。


 決勝前に再びアサクラさんが私達の元へ寄ってきてくれました。



「どうわたしの(マシン)は?」

「速すぎて彗星のようです! 優勝確実ですよ!」

「自分でも満足のいく仕上がりよ。でも決勝の相手は機械を触らせたら世界一のアメさんにトックリさん。簡単にはいかないわ」



 エリシアさんとアサクラさんは和気あいあいと会話が膨らんでます。

 エリシアさんと緊張せずに話すのが目標とはいえ、やっぱり赤の他人とも、仲間を挟んで少しくらい話せるようになりたいです……!



「――――でなんとか勝てたのよ」

「奇跡みたいですね!」

「あ、あのっ!」



 タイミングを伺って割り込むのに成功しました。2人の視線を浴びますが怯えてはいけません。用意した話題を出すのですリラ!



「ア、アサクラさんは、どんな、改造をしたんですか……?」


 恐る恐る表情を伺うとアサクラさんは少し驚いた表情でした。しかしすぐに笑顔を見せて口を開いてくれました。



「……ペリフェラル加工にポート研磨、タービン装着に排気側の段付き加工をして――」

「??????」



 話の内容は一切理解できませんでしたが、アサクラさんが楽しそうに話してくれてほっとしました。私、ひとつ成長できましたよね?



「そろそろ時間ね。行ってくるわ」

「頑張ってください!」

「ご、ご無事で!」



 今度はちゃんとアサクラさんに手を振り返すことができました。満月に向かう後ろ姿、カッコいいです。


 さぁ、いよいよ最後のレースが始まります。決勝戦は3人同時のスタート。泣いても笑っても、この数十秒で決着がつくのです。

 観客数も十数人に増え、ボルテージは最高潮。シグナルランプが赤に点灯し魔鉱石発動機(エンジン)が低く不規則に唸り、黄色点滅に連なって高く吠えあがって青点灯を合図に射出!



「「いっけええええぇぇぇぇ!!!!」」



 満月の夜を切り裂き、最速でフィニッシュラインという獲物に辿り着いたのは、アサクラさんでした。

 その差、わずか数センチ。それも相手は最速と名高い主催のトックリさん。旧式が最強の最終式を打ち破ったのです。



「やったあ! アサクラさんが勝ちましたよ!」

「瞬きする間の一瞬に詰まった情熱とロマン……月明かりに照らされて彗星のように輝く箒……動力は魔法でなくとも、その姿は間違いなく魔法でした……!!」



 意識するまでもなく、自然とエリシアさんと抱き合って喜びを分かち合いました。

 ……あれ、私ちゃんと話せてる。フーリエちゃんがいなくても感情を共有できてる。自分の感情が正直に出せているような。



「お疲れ様ですアサクラさん! そしておめでとうございます!」

「ありがとう。2人の声援、聞こえていたわ」

「え、っと、2人ですか?」

「そうだけど。貴女の声もしっかり届いてた」

「全然気づかなかった……」



 おかしい。無意識に声がでるなんて限界オタクしたとき以外では出ないのに。え、もしかして限界オタクしてたの? 記憶に無い限界化? ちょっと怖いですよそれは本当にやべーやつになってしまいますよ!

 アッ……! コミュ障が芽を出してきた……っ! 緊張する……でも少しは軽くなってる、かも?



 最後は表彰式で締め括りです。アサクラさんが表彰台で記者のインタビューに答えています。

 今宵は、開発者の願いがその娘の手によって、魔法と遜色ない軌跡を描いて叶った日となりました。



「アサクラさんともう少し話をしたいですが、忙しそうなので先に帰りましょうか」

「そうですね。私も終わったら急に眠気が……ふああぁぁ」

「リラさんのあくび、フーリエちゃんみたいです」

「え!? そんなこと、絶対ないです! フーリエちゃんが一番かわいいです!」

「確かにそれはそうですね。でも、フーリエさんへの好きが溢れてるリラさんも素敵です!」

「それを言うならエリシアさんだって……やっぱり趣味趣向が似ていると話しやすいです。やっとエリシアさんと面向かって話せたと思います。誘ってくれてありがとうございました」

「こちらこそ! 同担は語り合ってナンボですから!」



 ……なんだか、らしくなく照れてしまいます。

 でもエリシアさんの言う通り同担は語り合ってナンボ。信頼できる仲間なのですから、難しいことは考えずに自分の思ったことを口に出せばいい。それができました。後でフーリエちゃんに褒めてもらいましょう。



「帰ったら最後のお楽しみが待ってます。行きましょう!」

「何が待ってるんです?」

「フーリエちゃんの寝顔ですよ」

「やったぁ! 金髪魔女っ娘バンザーイ!」



 アサクラさんにさよならと手を振って、ふわりと上空に舞い上がります。


 満月の星空に箒が2本。正真正銘の魔法の箒と、夢とロマンを載せて飛ぶ魔法のような箒。それぞれは和気あいあいと、今夜の熱狂の感想と推し語りをしながら宿へ帰ったのでした。

火曜日更新をすっかり忘れてましたスイマセン!

とはいえ週の中日はサイトへのアクセス数自体が少なそうなので、月、水、金、土、日で試そうと思います。

ということで次回更新は来週金曜日になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ