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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第3章 魔法使いの聖地に来ましたが、大大大事件の予感です!
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魔法がある世界ならではの発明、ワクワクしちゃいます!

 昼寝を終え、アサクラさんに頼まれた魔鉱石を届けるために再びウインマリン地区へ戻ってきました。

 家の扉をノックすると、いらっしゃいとアサクラさんが顔を出しました。昨日、いや日付が変わってたから今日の午前中ですね。その時はツナギでしたが、今は普通のシャツとズボンです。

 そしてエリシアさんを一目見るなり、驚きの表情を見せました。



「えっと、酔っぱらってた人?」

「はい。エリシアと申します。先刻は醜態を晒してしまい。申し訳ございませんでした……」

「うわめっちゃ清楚……」



 エリシアさんの変わり様に戸惑いつつも、中へ通してくれました。

 扉の先では、作業部屋の真ん中にアサクラさんの箒が鎮座してあり、周辺に工具や部品が散らばっています。

 そしてアサクラさんは、早々に陳謝の言葉を述べました。



「まず、来てもらって悪いけど謝らないといけない。渡すはずだった魔鉱石発動機(エンジン)、試運転したら壊れちゃって……。本当にごめんなさい!」

「えぇ、じゃあどうするの」

「知り合いに代わりを手配してもらってるわ。程度が良くて値段が張らないやつ……はぁ、また借金が増える……」

「借金って、そんなに深刻なの?」



 フーリエちゃんが聞くと、アサクラさんは困った表情で自身の身の上を明かしました。



「私はこの魔鉱石発動機(エンジン)の開発者の娘なの。お父さんは試作品をいくつか作って、完成する前に病気で他界した。開発のために借りたお金を、私が返しているの」

「その為に、夜な夜なあんなことを?」

「ええ。今夜に前夜祭の催しとして大会が開かれるの。優勝すれば賞金が出て、借金は一ケタ万まで減る。それにわたしは開発者の娘よ。魔法使いでなくても空が飛べるようにと願って生み出した夢の跡で、誰よりも速いと証明したいの。もっとも、貴女達には関係無い話ね」

「関係あるよ」



 フーリエちゃんは真剣な眼差しで、ぴしゃりと断言しました。

 見たことのない表情で、思わず心臓が軽く跳ね上がりました。あぁでもそのフーリエちゃんも良き…………

 魔鉱石を手のひらで転がしながら、フーリエちゃんは続けます。



「その機械が普及して、誰もが自由に空を飛べるようになったら他人事ではなくなるでしょ?」

「そうね。魔法使いと非魔法使いの垣根を取り払えるか革命的な発明よ」

「革命、か………………。まぁいいや、それでいつ手配できそう?」

「今日中には用意できそうと連絡は貰ってるわ。せっかくだし一緒にどう? 詳しく見たいと言ってたし」

「なら遠慮なく。やっぱり知的好奇心には勝てないね」



 普段はめんどくさがりだけど、魔法に関わると急に研究熱心になる人なのだと、アサクラさんとの会話で改めて思い知らされました。

 自由人で、天才で、魔法というロマンを追い求め続けた比奈姉とそっくりです。やっぱりフーリエちゃんとの出会いは、紛れもなく運命だったのかもしれません。



「ほら、ぼーっとしてないで行くよ」

「行きましょうリラさん。わたしも遂に箒で飛べるんですね……!」

「は、はい!」



 アサクラさんに案内され、エリシアさんの箒の待つ場所へ移動しました。



 ウインマリン地区の表通りに面し、海が映るショーケースの中には様々な箒が飾られている店。そこがアサクラさんに案内された場所でした。



「ここが知り合いの店。マーさんいるー? 入るよー」

「やぁ、いらっしゃい。ちょうど今届いたところだよ。そちらの方々は納品先のお客様かな」



 マーさんと呼ばれた人物は、店の中央でピカピカに磨き上げられた箒の横で、ニコニコと立っていました。私達に顔を向けると軽く一礼をしたので、私もつられて礼を返しました。



「僕はマクヴェイル。箒の製作を専門にやってる。アサクラのお父さんとは古い付き合いなんだ」

「マクヴェイルって、ベルサイド劇団でも使用されている箒を製作している方ですか!?」

「そうだよ。フォートンブランドも僕」

「有名な小説で主人公が乗ってる箒ですね!?」



 エリシアさんの興奮ぶりから、その手の界隈では有名人のようです。

 相変わらずのコミュ障が発動したせいでよく見えてませんでしたが、確かに独創的かつ奇抜で知的な造形の箒が並んでいます。マクヴェイルさんの世界観が、1本の箒に宿っていました。


 「耐久性に優れる型を選んだから、ほったらかしでも壊れることはない。百聞は一見に如かず、早速アサクラに操作を教えてもらってくるといいよ」

「難しいことはないわよ。飛んでみましょ」

「はい!」



 エリシアさんとアサクラさんは店の外へ出て行きました。

 残った私とフーリエちゃんにマクヴェイルさんが話しかけてきます。



「君らは魔法使いだね。魔法が使えないお友達のために、同じ景色を見せてあげようなんて、素晴らしいね」

「別にそういう意図じゃないよ。効率の問題」

「それでもだよ。アサクラの父は誰もが魔法を使える世界を夢見ていた。その足掛かりとして、この魔鉱石発動機(エンジン)を開発したんだよ。より高く速く飛べるようにと改良を施していったが、最終的な完成を迎える前に他界した。今は町工場の人が改造を加えながら、夜な夜なレースをしている。アサクラの言う通り、あれは夢の跡なんだ」

「………………」



 フーリエちゃんは珍しく黙りこくっていました。何かを考えているようでもなく、上の空で視線が浮いています。

 単に興味がないのか、それとも眠いのか、私には判別できません。

 ……そんなフーリエちゃんを少し不安に感じてしまうのは、私の過剰な心配でしょうか。ここではない別の世界を見ているような、その世界に吸い込まれてしまいそうな。私の思い違いならばいいのですが……


 外からは「右足がスロットルで左足がブレーキで……」 とアサクラさんの説明が窓越しに聞こえてきます。クールな印象のアサクラさんですが、その声は弾んでいました。



「引っ込み思案のアサクラが、ああやって活発になれたのも魔鉱石発動機(エンジン)のおかげ。周囲が揃って高出力な26型を使う中で、彼女は古くて構造が全く違う12型を使い続けてる。無謀でも夢のある話だと思わないかい? いつか世界中に渡って、皆が同じ空とスピードの世界を見られるようになったら本望だね」

「………………ねえ、魔鉱石はどのくらいの頻度で補充しないといけないの?」

「普通に飛ばす分には半永久的かな。ただレースみたいな、瞬間的に最高速度を出す使い方をすると減っていくね」



 ただ突っ立ているだけでは間が悪いので、私もフーリエちゃんと同じように観察するフリをしました。フリなのは、見ても分からないからです。工業系の高校ではなかったので。

 ちらりと横を見ると、フーリエちゃんの目は真剣そのものでした。目つきは変わりませんが、その瞳はキラキラしたものではなく、ただ目の前の一点にだけに集中されています。カッコかわいい……?



「ど、どうですか、フーリエちゃん」

「興味深いよ。魔力は自然に存在するものだから、動物や植物に最も適合するというのが一般的だけど、これは機械なのに高効率で魔力を動力に変換できている。よく見ると魔力は箒の本体を経由して送られていて、更に魔鉱石発動機(エンジン)の一部が箒と貫通するように合体している。箒を経由させて直接内部に魔力を注ぎ込むことで、高効率な変換を実現しているんだね」

「なるほど。凄いってことが分かりました」



 私には理解の及ばない世界の話です。特に理系科目は毎回赤点ギリギリだったので……ええ…………




 しばらくしてエリシアさんとアサクラさんが戻ってきました。2人ともホクホク顔で満足した様子。



「すごく、すごいです!! 空を飛ぶってすごいんですね! 景色が違くて特別って感じで……良かったです!」

「でしょう? お父さんの発明は偉大なのよ!」

「これは大発明です! 素晴らしいです!」



 エリシアさんは語彙力が崩壊するほどに興奮していました。それに乗せられてアサクラさんも興奮ぎみ。

 輝く表情が眩しくて日除けがほしくなります。フーリエちゃん日陰になってくれませんか……っ。


 ともかく、これでエリシアさんの移動手段は確保できました。

 箒を乗りこなせれば、戦闘の幅も広がるんじゃないでしょうか。空を飛びながら銃をぶっぱなす、まるで戦闘機みたいでカッコよくなるのでは。



「じゃあ、そろそろ行くよ」

「こちらこそ助かったわ。良ければ今夜のレース見ていって」

「気が向いたらね」

「アサクラさん、マクヴェイルさん、ありがとうございました!」


 エリシアさんが手をブンブン振り回すのを横目に、店を出ました。

次回は3/10更新予定です

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