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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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貴族の背負い物

 居住地20番街【紙束】にある、通路の両脇を橋のように渡した門型の変わった建造物。その中に私達が情報収集に用いていた新聞の編集部が入っています。

 出向いた理由はひとつ。「センチュリー家に盗聴され不当な拘束をされそうになった」とタレコミするため。フーリエちゃんのいう通り物は言い様ってやつです。もちろん裏付けもありますが。



「クラウンロイツ家という強力な味方を得ているから私達がどう発言しようと庇ってくれるはず。それに世間ではセンチュリー家は悪のイメージで染め上げられつつある。多少強引でも策がまかり通ってしまう。印象って大事だね」



 フーリエちゃんが珍しく先陣を切って編集部の部屋へ入り、事の経緯を話すと後は早いものでした。

 特ダネの提供に、爆竹が打ち鳴らされたが如く部屋中は大騒ぎで記者や編集者から質問の嵐。人間に耳はふたつしかないことを承知の上で質問を浴びせてるんでしょうかこの人らは。

 もっともそれを見越して既に想定される質問への回答は用意してあります。伯爵令嬢から預かった仕事が残っているなどど適当を言ってその場を後にしました。私達は貴族令嬢に雇われている身。インタビューが無くても信憑性はあると考えてくれるでしょう。

 再び地下水道へ降りて店へ戻ることにしました。仮に兵が残っていたとしても私達には守る義務があります。

 そして「どんな理由であれ家具が充実したあの場所を明け渡す気には到底なれない」とフーリエちゃん。


「にしても、やっぱり簡単に国を動かしている気がしてなりません。コルテの時もそうですが。過激派集団になってません?」

「コルテも今回もほとんど不可抗力でしょ。そして仮に過激派集団と思われているのなら、その原因の十割はエリシアだと思うよ」

「全部わたしじゃないですか。わたしは自分と仲間を守るために引き金を引くのです。てかフーリエさんだってスタンレーに来てから結構なことをやってるじゃないですか。強引に店の鍵をポイする方法もあったでしょうに」

「強引に行ったらそれこそ拘束されるじゃん。姿を消す魔法を使ってもリスクは高いし」

「でもでもでも、貴族の屋敷の構造を一番把握してるのもフーリエさんですよね」

「把握しているからこそ、面倒で嫌な部分も把握してるし、そこを通る気はしない」



 足音とふたりの会話がどこまでも響き渡ります。私はというとダンジョン探索のようでもあり、内心かなりワクワクしています。正直、魔物出てきてほしい気持ちも無いと言えば嘘になります。



「罠とか仕掛けられてるんですか?」

「ある意味では罠。例えば影が広い場所に警備を配置したり、音が大きく反響するような空間になっていたりね。

 前者は光源が必要な姿を消す魔法を無効化し、後者は風の音すらも増幅するから床を踏まなくても効果が出てしまう。この国では社交パーティも少ないようで、変装して紛れ込むこともできない」

「で、選んだ手段が回りくどいこれですか? 面倒くさがりなのにらしくないですね」

「いくら最短でも拘束されるリスクを背負いたくはないよ。例えるなら【太く短く】と【細く長く】では総量は同じでしょ? 時間制限が無いならリスクが少ない方が良いのは明白でしょ?」



 ふたりの会話の間には入ることもできず、かと言って自分から他ふたりに会話を振ることもできず。フーリエちゃんとエリシアさん以外の3人の間には微妙な空気が漂っていました。

 で、でも、フーリエちゃんの考え方をしっかり理解しておくのも大事ですし、ね、ね?

 そんなことを思っていると、フーリエちゃんは後ろから覗く顔からでも見て取れるほどの神妙な表情で、吐くように言葉を紡ぎました。



「なんかでも、旅人でいたいのに貴族と絡んでばかり。ほとんど不可抗力とはいえ、今回は回避できた気がするよ。身分を明かしすぎたね。立場を有利にする為にある程度仄めかす必要はあるけど、上だと分からせたい欲が出てしまった。

 はぁ、私も貴族の変なプライドみたいなのを持っているってことか…………。実際センチュリー家とクラウンロイツ家を下に見てないかと言われたら嘘になる。嫌なところが出てしまってるね」



 自己嫌悪に陥っているのは明らかでした。フーリエちゃんと出会ってからまだ短い時間、されど見てきた何十もの表情とも違う、らしくない表情です。



「ただのんびりと過ごしたいのだけど、何だかなぁて気持ちだよ。やっぱり貴族とは徹底的に距離を置くべきかな……

 内心、元貴族というのも捨て去りたいんだよ。でも尊敬する母も貴族だったし、それを誇りとしてた。だから自分で貴族だった過去すら否定するのも違う。まぁ理解してくれる人は少数だろうから言っても仕方ないよね。店主姉妹だって結局は根からの貴族だった。抜け出せば楽になると思ってたけど甘かったみたいだ」



 曇った表情に胸が重くなります。こんなのはフーリエちゃんじゃない。解釈の押し付けかもしれないけど、私は強気で自信に溢れているフーリエちゃんに勇気を貰っているのです。

 どんな過去があろうと私はフーリエちゃんが好き。ずっと一緒に旅をしたい。初めてあった時から思いは変わりません。


 ……なのに、なぜ言葉が出ない。マイナス思考は頭にないはずなのに、どうして。

 励ましの言葉ひとつすら、いや、ひとつだから言葉選びに慎重になり過ぎてしまう。

 率直な思いなら簡単に出せる。でもそれが傷付けることも知ってた。

 ……また恐怖が込み上げる。自己嫌悪も込み上げる。こんな場合ではないのに。推しのために身を捧げる私はどこに行った。

 音が無機質に空間を反響する。足音、水音、金属が触れ合う音、駆け足で何かが迫ってきて……



「……何か来るっ!」



 エリシアさんが叫びました。はっと顔を上げると奥から人のシルエットが規則正しく並んでいます。やがてハッキリとその姿が視認できる距離まで近づきました。

 硬そうな装甲に身を包んだ兵士でした。カチャカチャと金属の擦る音が反響して鼓膜をつんざきます。



「第二師団。その名の通りセンチュリー家直属の騎士団のうち第二序列に位置する粒ぞろいの精鋭。一応数は少ないみたいだけど……」



 数はざっくり10人ほど。左側には壁、右側には汚水の流れる狭い空間の中に2つの隊列。私達5人の人数に対しては過剰すぎるほどです。

 更に運が悪いことに後方からも同じ隊列がやってきました。挟み撃ちかつ数の暴力。センチュリー家は本気で私達を始末したいのでしょう。



「リラ、エリシア、ルーテシア……大丈夫、案外やれる。小回りはこっちが上」



 思考を即座に切り替えます。余計なことを考える暇は無い。今はただ――



「勝つしかない」

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