24 二章プロローグ
全く状況が理解出来ない。
川沿いの土手で日食を見ていたはずだ。
何百年に一度の金環日食は、とても綺麗だった。
それが突然真っ赤になって、体が光りだして、次に消えていって、気づいたらギリシャにあるような神殿にいた。
さらに、私達を取り囲む人達は皆外国人のようで、服装もおかしい。全身鎧の騎士みたいな人までいる。
おかしいのは格好だけじゃない。王子みたいな人が言った言葉。
「聖女様」
私が聖女? セラヴィスが何なのか知らないが、救ってくれ?
訳がわからない。
不安と恐怖が胸に広がって、首から下げたチョーカーのヘッドを握りしめる。
こうすると落ち着くのだ。
兄がいつも着けていた、薔薇の模様が刻まれた十字架のチョーカー。私には言わなかったが、宗一郎さんには何故薔薇のデザインを買ったか、ポツリとこぼしていたらしい。
――薔薇は花言葉が愛だからさ、愛を守るっていう信念を肌身離さず着けておこうってね――
このチョーカーを着けている限り、兄は近くにいるのだ。守ってくれているのだ。そんな気がして、いつも身につけている。
隣には宗一郎さんの姿。
驚きの表情は消えて、私を守る様に一歩踏み出して警戒の目を周囲に向けている。
一人じゃなくて良かった。宗一郎さんが手を握ってくれなかったら、私はパニックになっていただろう。
「突然の事で驚いてらっしゃるかと思いますが、こちらに敵意などは全くありません。どうか警戒を解いて頂くようお願いします」
王子みたいな人がそう言うが、いきなりこんな所に連れてこられて警戒しない訳がない。だって、彼は自分達が召喚したと言ったのだ。敵意はなくとも、私達に何かをやらせるつもりなのだ。そこに選択権はないだろう。
「信用出来るはずがないだろう。問答無用で拉致されたんだぞこっちは」
「仰る通りです。先ず自己紹介からさせてください。アーガルム王国第一王子、ジークムンド・エルドレッド・アーガルムです。僕もですね、聖女様をお迎えするにあたり、どうやって信用してもらおうか悩んでいたんですよ。三日前まで」
どうやら本当に王子らしい。あの宝塚みたいな格好で王子以外だったら逆におかしいか。
三日前まで悩んでいた、という事は今は悩んでいないという事。
「私が信用出来る要素があるとでも?」
「はい御座います。と言っても、我々もまだ半信半疑なんですが、聖女様。失礼ですが、フジサワアイ様でお間違いないでしょうか?」
「――! どうして私の名前を……」
私が驚くと、ワッと歓声があがった。
「おおっ! やはり本当だったのか!」
「まさしく聖女の使いなのだ!」
「三日前、聖女の使いを名乗る方が現れまして、アイ様のお名前をお告げくださったのです」
聖女の使い? 私はそんなの知らないのに?
スッと、一人の女性が歩み出る。
栗色の長い髪で、年は私と同じくらいだろうか。綺麗な人だった。
気になるのはその手に持っている杖の先端。セーラー服を着た女性の像があしらわれていた。今着ているものと同じセーラー服だ。
そしてその女性の自己紹介は、確かに私達の警戒心を粉々にするのに十分過ぎるほどの破壊力があった。
「はじめましてアイさん。私はアンジェリーク、聖女の使いです。そして、フジサワレンの恋人です(ドヤァ)」
聖女の使いを名乗る女性は、ドヤ顔で兄の恋人だと言ったのだった。




