竜の形骸
「あんたは何してたのよ」
「スカウト」
シグレは微妙な顔でプラント管理者の少年を見た。少年は眉間にしわを作ってシグレをにらむ。
にらみあったまま硬直した二人を放置して、僕は竜の側に立っている仙人達に近づいて行った。片手をあげると、男の方がこちらに向かってくる。
「無事これたんだね」
「わざとだったのかい?」
「うっかりした事でも、あとからそういうとそれっぽく聞こえるよね」
仙人は苦笑した。
「どうです、あれ」
「エーギルですね」
「なんです、それ」
「大竜の大まかな分類ですよ。エーギル、ネプトゥヌス、ティアマト、シュクラケン、リヴァイアサン。地上で活動できるのはネプトゥヌスでも小規模なものまでに限られています」
「どういう区分なの?」
「大きさですよ」
「へぇ」
僕は竜をみた。銀光りする細面の彼女は、今は眠りについている。
海辺で停泊し、二度と動かなくなった船の事を思い出した。
「もう動かないんですよね」
「あたらしい仮想人格をいれないと」
「動かします?」
「「え」」
女仙人がこちらを見ていた。彼女は口を開く。
「爪は仮想人格のトランスレートが可能です。一時的なものですが、動かすだけなら」
「「そうだったんだ」」
僕は仙人を見た。仙人は僕を見ていたが、目をそらす。
「まあそれは、後でお願いすると思うよ」
「そうですか」
「うん……ああ、いや。やっぱり今すぐ、やってもらおうかな。シグレー」
「なによ」じろりと睨まれた。「女ばかりひっかけてきた奴が何を」
「は?」
「……」
プラント管理者を見る。プラント管理者はそっぽを向いた。
「まあそれは、いいや。ちょっと空を飛んでみない?」
「何それ」
「お願いします」
爪はこくりとうなずくとその場に横になった。二秒して、竜が動き出す。首を伸ばして腹這いになり、コクピットハッチをこちらに向けてくる。
「シグレも乗って」
「え、ちょ、嘘。なんで」
「乗らないの?」
「質問に答えろーっ」
してないじゃない、という文句はおいといて、僕は竜に乗り込んだ。シグレも慌てて後部座席につく。コックピットハッチを閉めようとする竜に声をかけた。
「ハッチはあけたままでいいよ」
「外を見たいなら、内部に投影されますが」
「風も再現できる?」
「できませんね。わかりました」
左右を見回す。あれ、黒猫が地面に。
手招き。尻尾がぴんとたった。
黒猫はゆっくりとやってきた。膝の上に乗る。片腕をまわして支えた。
「じゃ、お願いします」
ぐんと視界が跳ね上がる。竜が空を見た。翼のフレームが角度を変える。
風が吹いた。そう思った。
垂直に竜が浮上したのだった。
そのまま竜は緩やかに旋回しながら上昇していく。顔の右側から後ろの方へ抜けていく風の感触は、塩辛くて、氷が混じったように冷たい。
とはいえ。幸いにして快晴の空。その光景は凍えるほどに気持ちがよかった。
「島全体を見渡せるくらいの高さまでお願い」
「了解」
そういえばベルトを付け忘れていた。のんびりとシートに体を固定したところで、竜が傾いだ。
故障?
違った。傾いて、景色を見やすくしてくれたのだった。
「ふむ……」
島は周囲から寄せ集めた資材を強引につなぎ合わせたような歪な形をしていた。いろいろなパズルを混ぜてたまたまくっつくピースをつなぎ合わせたみたいに色も混ざり合っている。緑生い茂るのは島の南東部分の一部と、北西部の全体だ。それ以外は全部が何らかの施設に見える。
再生プラントと、港……マザーフレームの位置は、あそこか。位置関係はあまり意味がなさそうだ。
他にあるのは……廃材置き場。北部は森に隣接しての工場区画のようだ。そのあたりにあるのは、
「……ずいぶん整った環境だったのね」
「うん。発電施設はもちろん、植生プラント、水源プラントまである」
プラント系は全て工場区画に面しているかその中にあった。まあかつては人間が暮らしていたのだからそのくらいの施設があってもおかしくはないが。
ああそうか。そういう事か。
「なるほど。わかった。竜は作れそうだね」
「どういう事?」
「この島、竜もどきなんだよ」




