some parts of the world(2)
まっすぐと言ってもそもそも一本道、そして目的地は現在地から時計を逆周りに半周したところにあったときては、もう少し道案内にコメントがあってもよかったのではないかと考えてしまう。
らしい。黒猫が「いつまで行くんだい」とぶつくさ文句を言ってるあたりから連想した。ちなみに、相変わらず肩の上に居座っている。
非常灯の青い光を頼りに通路の奥へと進んだ結果、一つの自動扉の前にたどり着いた。叩いても鈍い音としかせず、厚みの想像を拒絶するような重厚な鉄のドアが部屋を塞いでいる。ここがコントロールルームのようだった。
「何やってるの?」
そして横穴から姿を現すプラント管理者。背の低い少年だ。緑色の瞳がちかちかと点滅している。
「ああいや。ドアから入ろうかと」
「壊れてるから開かないよ」
「うーん」
黒猫に白い目で見られるのもどうかと思うのでたまには正面口から……と思ったけど、意味はなかったようだ。しかも黒猫の顔つきが微妙になった気がする。ままならない。
「ここはどこですか?」
少年に続いてコントロールルームに入っていく。少年は手近のコンソール手前に備え付けられたいすに座った。
「プラント。再生工場だよ」
少年は僕を見た。
僕は少年を見たまま反応しない。
「……竜の腹って言えばわかる?」
「竜のブロックなの?」
「たぶん。元々、竜のパーツとして作られたんじゃないかな。今は、島の再処理工場だけど」
「ふむ……」
また、竜。
「まあそれはいいか」
「何の事?」
「アルタールって知ってる?」
「最後の人類」少年は言った。「口に出す奴は珍しい」
「そう?」
「思い出は胸のうちに秘めるものだよ」
しかしそれを許容していては困らないだろうか。腹黒い相手とかに。
……腹の底とは違うのかな。
「アルタールとはあった事は?」
「…………」
少年は長いこと沈黙していた。コンソールの、第三工場区画のアラートに気づいて体をそちらに向ける。コマンドを何度か叩くと、アラートは消えた。つづいて、プラント中を震わせる振動。
地響きに足をもたつかせていると、少年は口を開いた。
「あるはず。けど、覚えてない」
「あんたも漂流したのかい?」黒猫が聞いた。
「さあ。覚えはないよ」少年は顎をあげる。「気づいたときにはここにいたし、仕事は明確だ」
「いつ生まれたの?」
「……」
「覚えてないなら、それでもいいよ」
「知っているはずだ」
案外意固地だな。どこをつついてもはじけそうな風船にみたいだ。
「百六十年前だ」
「誰に作られたの?」
「覚えていない」
「なぜ作られたの?」
「僕はここの管理者だ」
「元々の管理者はいなかったの? こういうのって、ペアで作られるものじゃない?」
「……いや」
少年はかぶりを振った。
「ここは竜の腹、竜の器官の一つだ。誰でもできるし、いざとなれば、誰もいらない。竜が一頭、いればいい」
「なるほど」
僕は軽く頷いた。
「ねえ、外に出てみない?」
「……今は仕事がある」
「出れば、もっと忙しくなれるよ」
「え?」
目を丸くする少年。手を伸ばして、僕は笑う。
まるで以前の僕だ。
あまりに何も知らず、何よりも、そうであるという事実を知らない。
けど。
「彼女に会った?」
「……あの、変なドール?」
「そう。どう思った?」
「わけがわからない」
それは問題じゃない。そこからでも始まれるという事を、僕はすでに証明済みだ。
……きっと、そんな奴がこの島にはたくさんいる。
それなら竜を作る手だって足りるはずだ。僕が手の一つになれるのだから。
「こっちにこない? 少しはわかるかもしれないよ」




