幕間. ポンッ!
──夜の宰相執務室。
部屋の明かりはすでに落としてあり、机の上の明かりだけが灯っていた。
宰相スノーヴォルフ。
机の上の書類はこの日あった事故の報告書だった。
技術棟廊下で起きた爆発事故。
原因はなんてことない人為的ミスだった。
技術課の新人が、誤って一緒にしてはいけない薬品を一緒に入れて運んだことによる爆発事故。
きちんと指導されていたにも関わらず、新人はそれを疎かにしたようだ。
タヌキ様への態度も指導されていたにも関わらず変わらなかったという。
二人は厳しい処分を受けた。
しかし、タヌキ様がいなければ少なくとも一人は死んでいた。人的被害がなく済んだのはタヌキ様のお陰だ。
いつもその手腕には感服させられる。
タヌキ様を思い出すと、目元が少し緩む。
同じ新人だが、お世話係の新人は怪我をしてでもタヌキ様を守るために動いた。自分の職務を理解し、咄嗟の時に動ける人材。
彼女を選んだのはタヌキ様だ。
相変わらずの審美眼というか千里眼というか。
あの日もこんな夜だった。
机の上に官吏試験合格者名簿を広げて書き物をしていた。
ふと視線を上げると机の隅にタヌキ様が座っていた。
「いつからそこに?」
答えがないと分かっていても聞いてしまうのは仕方ないことだろう。
タヌキ様はトテトテと名簿の上を歩くと小さな手を差し出してきた。
その手の先にインクを付ける。
すると、トンッと広げた紙の上に足跡をつけた。
足のインクを拭きながら見ると、そこには一人の新人の名前があった。
タシタシと腕を叩くタヌキ様に、承知したことを伝え、タヌキ様を屋敷まで送って行った。
いつもタヌキ様の選択は確かだ。
そして、今回のこの選択も確かだった。
騎士でもないただの子爵家令嬢が我が身を顧みず、身を挺してタヌキ様を守る。
スノーヴォルフは思わず笑い声を上げた。
これから、タヌキ様の周囲は騒がしくなりそうな、そんな予感がした。
ここで一話終了の区切りです。第二話は近日中に投稿いたします。少々お待ちください。




