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最終話 ずっとシャナラさまの侍女だから。

 ルルタは、出会ったころの、自分に何の関心も払わない、シャナラの冷たくとても寂しげな横顔を見つめながら思った。

 どうしたら。

 どうしたら、シャナラと一緒の場所にいられるだろう。

 あの頃の自分は、シャナラと出会うことで初めて心の中に芽生えた考えや感情が不思議でもどかしく、だがとてもまばゆく感じられて、毎日そのことばかりを考えていた。


「シャナラさまと仲良くなりたくて……でもその方法がわからなくて……私がお話しても何かしても、シャナラさまには届かない。だから凄く考えたんです。どうしたら、シャナラさまが私がいる場所にいて下さるか。東方のことを調べたらシャナラさまのことがわかるんじゃないか、パタ茶を飲んでいる時だけは私がいることを思い出してくれるんじゃないか。そう思ったんです」


 後宮に来てから、侍女になってから、シャナラに出会ってから、自分がずっと何を願っていたのか。

 それがいま、ルルタの心の中にくっきりと浮かび上がっていた。


「私は家族からも宮廷のかたたちからも、『侍女にむいていない』『お前みたいな侍女は見たことがない』って言われました。凄い落ち込むけれど、でも、心のどこかで『仕方がない』って思っていたんです。侍女にも向き不向きがあるし……。でも自分がお仕えしたかただけには……シャナラさまだけには『ルルタが侍女で良かった』って思っていただきたかったんです。

 それで思ったんです。私がずっとなりたかった『侍女』はこういう侍女なんだって。あるじがどんなかたでどんなことを考えているか、何がお好きで何がお嫌いか、どんな時に寂しくなってどんな時に笑顔になられるか。全部知っているから、信頼していただける侍女、仲良くなれる侍女。そういう侍女になりたかったんです。お仕えしているかたが寂しい時は励まして、辛い時はそばにいて、嬉しい時は一緒に笑える。それが私の中の『侍女』なんです」


 ルルタは寝台の中から手を伸ばし、呆然としているシャナラの手をとった。


「シャナラさまがして下さったんです。私を、私がなりたいと思った『侍女』に」


 ルルタは自分の手の中にある、容貌に似合わない武骨で傷のあるシャナラの手を宝物のように握りしめる。


「シャナラさまから伺ったことは、私みたいな世間知らずの娘には想像もつかないようなことばかりです。きっとシャナラさまの辛さや大変さを少しも理解出来ていないと思います。それでも、何でもいいからシャナラさまの苦しみを軽くして差し上げたい。何か少しでも、私に出来ることをして差し上げたいんです」


 ルルタはシャナラの手を包んでいる手に力をこめた。


「シャナラさまが辛い時は私が何千杯でもパタ茶を作ります。ラガルドが来たら、私が噛みついて追い返します。シャナラさまが故郷に戻りたいなら……私が必ずお連れします」


 涙が揺れているシャナラの碧い瞳を真っ直ぐに見つめて、ルルタは言った。


「この先ずっとおそばにいます」


 何か言葉をかたどろうと、シャナラの唇が動く。だが言葉が音となるより早く、シャナラの瞳から涙が溢れだした。

 掌で両目を覆い涙を流し続けるシャナラを見ながら、ルルタは自分の頬にも熱いものが流れるのを感じていた。

 この言葉を伝えるために、どうしても伝えたいと思って自分はシャナラの下へ来たのだ。

 そう思いながら、ルルタは泣き崩れたシャナラの肩を抱き締めた。



 24.


 それから何年かたった後。

 二頭の馬に乗った人影が、東方に向かう途上にあった。

 お付きや護衛は後方に残して、二頭の馬は先へと進む。

 黒毛の若々しい駿馬には、腰に刀を、背に弓を背負った美しい若者が乗っている。手綱さばきはまったく危なげがなく、まるで馬と人がひとつの心でつながっているように見える。

 隣りには、小柄な栗毛の馬に乗った娘がいる。

 小柄な馬に乗った娘は、緑の短い丈の草の海がどこまでも広がる草原を見つめて、大きく目を見張っている。


「草原ってこんなに広いんですね」


 娘の茶色い髪は色とりどりの糸で作られた編み紐で結われ、風によってなびいている。

 馬上の若者はその姿を優しい眼差しで見つめたあと、遥か東に視線を転じた。


「生きている間に、もう一度この景色を見られるとは思わなかった……」


 若者は再び茶色の髪を持つ娘のほうへ碧い瞳を向けた。


「東方の地までもう少しだ。ルルタ、大丈夫か?」


 ルルタは笑って元気よく頷いた。


「私はシャナラさまの侍女ですから、これくらい何ともありません」

「そうだったな」


 ルルタの言葉にシャナラは微笑んだ。


「では、もう少し進むか。東を目指して」

「はい、お供します」


 どこまでも。


 ルルタがそう言うと、シャナラは手綱を引き馬首を上げる。

 二つの馬の影は、草原を吹き渡る風のように東に向かって駆け出した。



(終)



「冷たい妃と元気な侍女」を読んでいただいてありがとうございます。

 この話は、日々の仕事や人間関係、友情や恋愛という日常を生きている十代の普通の女の子の頑張りが、「社会的政治的(大局的)に出口がない状況」に風穴を開ける。

 そういう話が書きたい、と思って書きました。

 

 一度最後まで書いて、どうしても気に入らなくて半分くらい書き直したなど苦労が多かったですが、書き上げられて良かったです。

 少しでも「楽しかった」と思ってもらえたら、↓の★評価や感想をいただけたら大変喜びます。


 最後になりましたが、ルルタとシャナラ、二人の交流を最後まで見守っていただきありがとうございました。

                                苦虫うさる

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