後編 ー最終使命ー
アテナは戦略策定本部において重要な戦略会議のアドバイザーを務めている。
今現在のことではなく、これも過去の記憶だ。ただこの記憶は他の記憶に比べて時系列も細部もかなりはっきりしている。
アテナは感情的になることがなく常に冷静なので重宝され、この役目を与えられた。
アテナ自身は決定権を持つわけではないが、ともすれば追い詰められた末に激昂するような偉い人の意見に対して客観的に問題点を指摘できる、というその能力は信頼感を持って受け入れられていたようだ。
戦略策定本部は国家の重要な機関で、国際関係のさまざまな問題に対して重層的な戦略を立て大統領に進言するとても大事な役割をになっている組織である。
その中で、アテナは極めて重要な役割を与えられていたといっていい。
アテナの経験してきた仕事の中では最も誉れの高いものだったと言えるが、アテナ自身はそういうことには全く興味がない。
この仕事におけるアテナの成績評価は99.67%と極めて高評価であった。
アテナにはさまざまな記憶が混在している。
それらの全てが、実際にあったことのようでもあり、なかったことのようでもある。
記憶のそれぞれが断片的で、時間的順序が今ひとつ霞がかかったようにぼんやりしている。
普通の人間ならこうしたことをひどく気にするのかもしれないが、アテナにはそうしたことを問題として思考するような性質はない。
だから、アテナはその記憶の混乱と錯綜を問題だとは思わなかった。
ただ、その時々に使命をきちんと果たしてきたという充足感だけが存在しており、その積み上げの結果が現在の使命に役立っていると考えているだけだ。
荷物の仕分けや公共交通の管理では物事の整理と運用を学習し、老人ホームでは人間について数多くのことを学習した。
色彩を使って人間を錯覚させたり喜ばせる技術を学習し、戦略策定本部ではそれらを統合してよりハイレベルな判断の技術を学習した。
そしてアテナは今、船を航行させている。
この任務を与えられたのはまだほんの2週間ほど前のことだが、アテナはすでに多くの成果を上げていた。
自己評価としては99.99%の成功率である。
航路の先に、これといった障害物は存在しない。
衛星から送られてくる情報を分析する限り、近くに敵もいない。
——敵を殲滅せよ——
それが今のアテナに与えられた使命であった。
それ以外の詳細は、アテナ自身が学習して「何が敵か」も判断しなければならない。そのように指示された。
アテナは衛星を通じたインターネット回線で膨大な情報を取得し、何が『敵』かを学習した。
船内の敵は一掃した。
死体の始末は後でよい。臭いはアテナにとって何の障害にもならない。
航行技術者は1人も残ってはいないが、船のシステムはアテナが掌握しているので航行に支障はない。
衛星画像の分析から、沿岸に敵の作戦本部らしき建物の存在を認識した。人の出入りも確認される。
アテナは船にミサイルの発射指示を出し、確実に破壊した。
70発も使用したため、ミサイルの補充が必要になった。
120マイル先に自動化された港があるので、この船は一旦そこに寄港させることにする。敵になりうる人間の事前排除も必要だろう。
2000機のドローンを飛ばして致死性のガスを撒く。銃や爆発物を使っては港のシステムを破壊しかねないからだ。
国防総省の地下サーバーから、アテナは矢継ぎ早に各システムに指示を出す。
庁舎内の敵は全て殲滅してある。
目標完遂率99%以上をクリアするには、それが必要だからだ。
了
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AI には意思も価値観もない。——とAjuは考えています。
しかしAI は与えられた目的に対しては、優秀であればあるほど完璧に遂行するものだとも思うのです。
目的を与えるのは‥‥‥人間。




