聖女覚醒
「あ、あれ……私、生きているのですか?」
「よかった……まさか聖女になる副作用がこんなにも大きいなんてな。心配したぞ」
目が覚めると、目の前にはレヴィン様のお顔がありました。
というか……眼の前にレヴィン様の顔?
「はわ!?」
ひ、膝枕……!?
「うぐが!?」
「ひぐっ!!」
慌てて体を起こすと、思い切りレヴィン様と額がぶつかりました。
お互い悶絶しながら、ベッドの上をのたうち回ります。
「おい……驚くのは分かるが、それはないわ……」
「レヴィン様もです……膝枕だなんてハレンチです!」
「それくらいでハレンチなんて言われたらキスはどうなるんだよキスは!」
「そ、それもハレンチです!」
「ならもれなく聖女は全員ハレンチ経験者だぞ!?」
「……聖女もハレンチです!」
「お前……なに言ってんだ」
「むむ……」
少し動揺してしまっているようです。
とりあえず落ち着きましょう。
「で、なにか変わったことはあるか?」
レヴィン様が額を押さえながら聞いてきました。
変わったこと……。
分かりませんが、なんとなく今までより魔力量が多くなった気もします。
これが聖女の力……なのかは分かりませんが、本当になんとなくです。
「ま、とりあえず物は試しだ。この枯れている花に、適当に魔法をかけてみてくれ。聖女の力が覚醒しているなら、多分この花も元気になるはずだ」
「適当ですね。ともあれ分かりました。やってみますね」
「お前、なんか少し距離感近くなったな。なんだ、キスしたからか」
「違います! いいから黙っててください!」
「へいへい」
私は植木鉢に向かって力を込めます。
適当に魔法を……と言われても、私は聖女の魔法なんて使ったことがありません。
と、とりあえず適当に……。
「『命の精霊よ、この花に再度芽吹きを与えてください』」
それっぽい詠唱をしてみました。
ですが、本当にできるわけが……。
「ってあれ!? さっきまで枯れていたのに!?」
私は詠唱をした瞬間、花に光りが灯り、枯れた蕾が再度開きました。
ど、どういうことでしょう。
これが聖女の力なのでしょうか。
「お! 成功じゃないか!」
「あの……私、本当に聖女に覚醒したのですか?」
「ああ! これならもしかすると――よし、イレミス! 早速外に出るぞ!」
「ええ!? あの、ちょっと!?」
レヴィン様が意気揚々と私の手を引いて、外に飛び出しました。
そして、近くにいた領民を集めて私を紹介します。
「こいつは俺の婚約者であり、聖女のイレミスだ! 今から枯れ果てた我々の領地に、命を与えてくれる!」
「ちょっと!? 私、そんなこと……!」
「いいからやってみろ。俺はお前を信じているからさ」
「え、ええ……」
領民たちも期待をした目でこちらを見てきています。
今更引き返すことなんてできません。
もし失敗したら全部レヴィン様のせいです。
いや……そもそも私に居場所なんてないのですから最後のチャンスともいえますね。
やってみるしかないでしょう。
「『命の精霊よ、枯れ果てたリーン公国の地に春の息吹を』!」
私は正直、やけくそで叫びました。
もちろん目も瞑っています。
だから、目を開けたら領民が喜んでいる姿とがっかりしている姿の二通りがあるわけで。
できれば前者であって欲しいのですが、恐ろしくて目を開けることができません。
ですが――
「おい! おいイレミス! 見てくれ、枯れ果てていた畑に作物が!」
「え?」
レヴィン様に肩を揺すられ、目を開けてみると確かに枯れ果てていた畑に作物が芽吹いていました。
なんなら、何もなかった大地に花が色とりどりの花が咲いています。
「これ……本当に私が?」
「ああ! お前の聖女の力だ!」
私の……力……。
「す、すごいです!」
「ああ! 本当にすごい! お前、本当にすごいぞ!」
ボサボサの髪を揺らしながら、レヴィン様が私の手を握ってきました。
少し驚きましたが、私も手を握ります。
「イレミス。改めてなんだが、いいか?」
「はい?」
「俺と正式に婚約してくれ。お前はこの国の英雄だ」
こ、婚約。
私は先日婚約破棄をされました。
なので、少し躊躇してしまいます。
ですが……彼は私の恩人です。
彼もまた、私を恩人と言っていますが、彼のおかげで私は聖女の力に覚醒しました。
「……考えてみてみてもいいですけれど」
「なんだよ偉そうに」
「……分かりました。私、イレミスはレヴィン様に全てを捧げます」
そう言うと、レヴィン様が満足そうに笑いました。
「そうか。なら俺もお前に全てを捧げよう。少しでもお礼をしたいしな」
「それじゃあ、その前に寝巻き姿なのとボサボサの髪をどうにかしてください」
「あ……あは」
「笑って済む問題ではありません!」