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79 魔女との邂逅

ブックマーク、評価ありがとうございます(^^)

確かに、モチベにつながりますね!


ヨハンナさんが目を(みは)る。


「ま…、まさか、媒体にアデリーヌおば様の体を使ったの、パラケルススおじ様! --それは外法よ、神はお許しにならないわ。錬金術師やドールマスターは疑似とはいえ生命を操る仕事。他の職業より節度やモラルを守らなければならないのに!」


女が声を上げて笑った。


「素敵な善人さん! 人形を作る男が、人間を人形に変えて何が悪いの…? おかげで私は有能な錬金術師という言いなりになる人形を手に入れられたわ!」

「あなたがパラケルススおじ様をそそのかしたのね…?」


ヨハンナさんの眉が潜まる。


女の笑い声がおさまった。そうして その口調も改まる。


「清らかなる人間は私が嫌い。私も清らかなるお前たちが嫌い。さて、この娘をどうすべきか…」


私は小さな体でヨハンナさんの前に立ち両手を広げて女に向き合った。

変わらず女は上半身が見えない。


「この娘、ドールマスターでありながら いやに自身で魔法を使いこなすと思えば、そうか、そうか。第1ドールが【変化】すらおぼつかぬのか。哀れだこと。ドール種を愛玩物か隣人とでもお思いか。(いな)(いな)。彼らは使い勝手の良い武具であり楯! 主人のために散らす命よ。それを理解していないなら、この娘は他の人形の家の主人より腕が落ちるも道理。未熟なドールマスターはドールにも不幸。ここで父親と供に死ぬ方が――」

「よせ! 他の人形の家の主は記憶を消して放逐したのだろう? ヨハンナの命は助けてくれ!」


女の冷酷な言葉を遮ったのはパラケルススだった。

女は喉を鳴らして笑っている。


「愛しい妻を人格のない人形に堕とした男にも人情があるのか」


(殺す? この人、NPC(住人)を復活出来ないように完全に殺せるの? そういえば、さっき呪いって言っていた。てか、まだヨハンナさんのお父さんの体はそこにあるけど、し、死んじゃったの…? NPC(住人)も死んだらモンスターのように光になって消えると思っていた。イベントだから残っているだけ?)


「お、お父様は復活してくださるわ…。天国門前から戻って来てくださる…!」


お父さんの体をかき抱きながら、ヨハンナさんが震えながら口にした。


「呪いがかかっていると言っただろう。魔法は効かぬ。世界の理からも外されている。天国門の前にすら行けぬ。このまま光の粒子になって、消えるのみ」

「そ、そんな…」


ヨハンナさんが唇を震わせる。

するとヨハンナさんの腕の中のお父さんがキラキラと光に変わった。

辺りを汚していた血糊はそのままに。


「あ…、ああ…」


私が呆然としているヨハンナさんに駆け寄ろうとすると、その腕を掴まれて持ち上げられた。


「役立たずの第1ドール。お前はこちらだ」


1/6の小さな体を女に鷲掴みにされ、私はそのまま女に連れられ2階に運ばれた。2階の奥、昼間に聞いた、――魔女が私室にしていた部屋だ。


女の後ろをパラケルススが追い、それを見てヨハンナさんも よろよろと立ち上がり階段を上ってくる。

私は女の手から逃れようとあがくが女の握力が強く、びくともしない。意外にこの女は物理もいけるのかもしれない。

そして彼女はあの魔女の呪いのかかっている扉の前へ来た。


「ここは…、亡くなったお母様の使っていた部屋…」


ヨハンナさんが力なく呟く。


「パラケルススが随分前から用意しておったのだ。この錬金術で作られた魔法の扉を。私がいずれこの人形の家を奪うためにね。お前の父親には嗅ぎ付けられてしまったが」

「……それでお父様を刺したの……」

「ああ。本来の私の主義ではないが、パラケルススが小心なせいで手にかけさせてもらったぞ。お前の父親のドール種は売り飛ばさせてもらったよ。優秀なドール種は金になる」


ヨハンナさんは彼女の肩に腰かけている1/6の黒衣のドール種を見て言った。


「あ、あなたはドールマスターではないの…?」


そして女の足元だけ照らされていたライティングが女の肢体をゆっくりと上へ移動する。

女の扇情的な胸元から白い首、細い顎と、真っ赤な唇を照らした。

そしてその唇が弧を描く。



「これは称号"ダブルワーク"のおかげだ。サブジョブが持てる。――私の本来のジョブは"魔女"だよ」



言うと彼女は呪いの扉を開き、私を扉の向こうに放り投げた。ヨハンナさんの悲鳴が響いたが、最後はバンと扉が勢いよく閉められ――。




イベントはそこで終了した。

ベッドに横たわる私自身の目が開き、人形の、ヨハンナさんの第1ドールの見ていた過去の夢から覚めた。


そして、アナウンスが聞こえた。


『秘匿ジョブ"人形の夢と目覚め"に関わるアイテム、"過去見の欠片"を手に入れました』






(なんだか、胸に来るものがあったなあ…)


私はイベントの余韻に浸りながら、手に入れたアイテムを見てため息をついた。

目覚めた室内はカーテンは落ち着いた色合いに戻っていたし、あの子供部屋の名残はどこにもない。

ベッドの隣にはサイドテーブルがあるだけ。


「おはようございます、おねーさま!」

「おはようございます、マスター」

「キュ!」

「チュ!」


インベントリからペットたちが わらわらと出てきて私は思わず笑顔になる。


「おはよー、皆」


言いながら私はタオルをサイドテーブルにあった水差しの水で濡らし、固く絞ってペットたちの顔を順番に拭いていく。

いや、インベントリに入れば汚れは自動で落ちるから必要ないんだけど、この子たち、私の真似をしたがるので。特にメリッサちゃんが。

そんなメリッサちゃんが新しいアイテムを目ざとく見つける。


「そこにあるものは何でしょうか、おねーさま?」

「これ? "過去見の欠片"だって。綺麗だよね」


"過去見の欠片"は角が金色に縁取りされた3cm四方くらいの立方体だ。中はクリスタルのようで、キラキラと光を反射していた。

メリッサちゃんはそれをじっと見つめた後に言った。


「…おねーさま、これはドールマスターヨハンナにお見せした方がいいですわ」


(――え? あ、ヒントか!)


よく考えればこのドゥジエムの人形の家の、特にヨハンナさん関わりのイベントで入手したアイテムだ。見せた方がいいとドール種が言うなら見せるべき! と私は朝早く、ヨハンナさんに面会を希望した。

朝は自室でそれぞれ朝食を摂った。メイド姿のドール種がワゴンに人数分の朝食を持ってきてくれて、広いバルコニーにテーブルを用意してもらっての優雅な朝食だ。メリッサちゃんとフランソワ君は【変化】で人間サイズになり、慣れないナイフとフォークに四苦八苦していた。


(ドールサイズのカトラリー買おうかな~)


結局二人はフォークだけで目玉焼きとベーコンを食べていた。

いつもペットたちのごはんは皆のサイズが小さいままでクッキーとかお菓子で済ませることが多いので、おかーさんちょっと反省。

ステータスアップ料理を作る頻度が多くなって、【料理】のレベルも上がっている。

二人にはドール用カトラリーで慣れてもらうか、人間サイズで色々な食べ物を食べてもらった方がいいかもしれないな。


――そんなことを考えながら、私はヨハンナさんに会うため彼女の私室に来た。

彼女の部屋は1階で、白い大きなフランス窓から庭に出られるようになっていた。

ヨハンナさんはベッドの上で上半身だけ起き上がっていた。顔色は昨日よりはよくなっている。フィリップさんが彼女を気遣い、同席していた。


「おはようございます。朝早くにすみません」


いいえ、とヨハンナさんが笑顔で首を横に振る。


「夕べはよく眠れました?」

「はい。すごく不思議な…夢を見ました。過去の、夢です」

「過去の夢?」


ヨハンナさんがいぶかしげに聞き返した。

私は"過去見の欠片"を手のひらに乗せて彼女に差し出す。

すると"過去見の欠片"が虹色に輝き、ヨハンナさんの胸元に消えていく。

フィリップさんがヨハンナ! と彼女の名前を呼ぶ。


(ひえーーー! まさか、呪いアイテム!?)


私が慌てていると、ヨハンナさんが一粒の涙をパタリとこぼした。


「……魔法を……」

「ヨハンナ、大丈夫なのか!?」


フィリップさんがヨハンナさんの手を取り心配げにみる。

ヨハンナさんが大丈夫、と首を振り、呟いた。


「魔法を思い出したの…。回復魔法と火炎魔法だわ…。あの夜、お父様が殺され、あの子を奪われた夜、私が使った魔法…」


私は あ、と気が付く。

確かに、あのイベントの中で彼女が使った魔法だ。


「あの子が…残していてくれたんだわ…。私の第1ドール…。あの子のスキルの効果よ…。あの子のたったひとつのスキル――【過去見】が…私に魔法を思い出させてくれた…!」


ヨハンナさんが手で顔を覆い、くずおれる。フィリップさんがそれを支え、そんな二人を私は鼻をすすりながら見ていた。


(うんうん、よくやった、よくやった夕べの私! それ見たことか、魔女め! 役立たずなんかじゃない、役立たずなんかじゃなかったでしょ!)


私は夕べの人形の夢に出てきた魔女を思わず罵倒です。

いや、だって、夕べ、私その第1ドールだったワケで。感情移入するでしょ、普通。

うう、そうか、ヨハンナさんの第1ドールが持つ、ひとつしかないスキルって【過去見】だったのね! なるほど、なるほど。


……知識不足なので今イチどういう能力かわかっていないけど。あとで調べよう~っと。



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