68 レイド
「ヘイト稼ぎすぎだ、アリアドネ!」
「そこは頼むよ、諸君。私はMP戻るまで後ろにいる。タランテラ、アラクネ、前へ出て盾になって」
彼女と同様にロココな、けれどドレスの豪奢な少女二人は黒騎士と同様に前に出て手に持つ武器で戦闘に参加する。そしてアリアドネと呼ばれたプレーヤーは後ろ、つまり私たちの近くまで下がり一息入れていた。
アリアドネへ向かっていたミノタウロスのヘイトはすでに前線の黒騎士たちに移っている。
私は眼前に出ている『レイドへ参加しますか?』のメッセージに「はい」と返し、メリッサちゃんにいつものバフをお願いする。もちろん、近くにいるアリアドネさんにも。
メリッサちゃんはMPポーションを彼女に振りかけた。
「これはどうもありがとう。ご親切に」
メリッサちゃんは いいえ、と言って赤毛ちゃんの手を引いてこちらにピュッと戻ってきている。
そして、メリッサちゃんと赤毛ちゃんは そ~、と私の影から彼女を覗き見ている。まるで興味あるけれど怖くて近づけない、と言った様子だ。
私は何となく感じていることを口にする。
「……あの、剣士の子と弓士の子、1/3ドールですか?」
「そうだよ。1/3は【変化】しているとだいたい中学生くらいのサイズになるんだ。1/12は本当に小さいんだね」
「そ、そうですね~…」
(…開幕、魔法で一般プレーヤーを追い立てたあのアリアドネさんか…! ぞ、存外まともそうじゃん…)
――などど、緊張の面持ちで私は失礼なことを考えていた。だって、私の中の有名プレーヤーと言えば紅はるか、もとい紅薔薇さんなので。
「あれ、そういえば赤毛の子のマスターは…、あれれ、どこ?」
いつの間にか近くにいなくなった2人組を私は慌てて探す。
「彼らなら近接での戦闘に参加中。きみはどうするの?」
少し前を見渡すと、黒騎士に交じって剣でミノタウロスに踊りかかって返り討ちにされている2人を見つける。
ミノタウロスは長い腕で斧を横なぎにして複数攻撃してくるようだ。
黒騎士の一人が前線から声をかける。
「後衛の弓士らは矢を放て! ただし【魔弾の射手】持ちは6射目で止めておけよ!」
(【魔弾の射手】…? ああ、弓の高ポイントスキルか。未取得だから説明文、よく読んでいないんだよね)
私も接近戦はさすがにLvが低くて防御に不安が残る。チラとメリッサちゃんたちを見て彼女らの方にジローを残そうと決断。
「ジロさんはこの子たちの盾になって。で、メリッサちゃん達とミミッキーに【ステルスリング】かけて。メリッサちゃんたちは隙見て前衛の人たち回復してね。回復したらすぐ後衛に戻ること! ミミッキーは前衛で戦闘。攻撃受けそうになったらすぐ逃げること。ヒットアンドウェイだよ」
正直ジローとミミッキーのステータスは表示されないので、ジローはともかくLv10のミミッキーには不安が残る。けれど見たところミノタウロスはすばやさが低いようで、私よりすばやく、しかもヘイストのバフの入ったミミッキーならミノタウロスの攻撃を躱すのなら何とかなりそうだ。
「わ、わたくしもいいのですか…?」
赤毛ちゃんが口を開く。
「もち! 一緒にお薬配布してきてね。メリッサちゃんとジロさんはこの子守ってね」
私はインベントリの中から回復薬を2つ彼女に渡す。両手にしっかりつかんで嬉しさをにじませているその姿に胸がキュッとなった。
メリッサちゃんには赤毛ちゃんが手持ち無沙汰にならないよう指示を出す。
お任せあれ、と胸をドンとたたく彼女は頼もしい。
よく考えたら、メリッサちゃんすごいよね。ドゥジエムの人形の家からこのサイズで単身海渡って山鯨のいるプルミエ奥地の花園まで旅して来たんだもんね。
あそこ、今思えば当時の最前線では?
ホント、腹の太い子や。頼りにしてるよ、ほんとに。
さて、ラジャと片手を上げるジローは早速ステルスリングで二人の姿を消す。
へえ、という感嘆の声がアリアドネから聞こえた。
私は軽く彼女に頭を下げ、弓士たちの傍に寄った。
そこで他の弓使い同様、射撃を始める。騎士たちが近くでヘイト保ってくれるので気持ちよくバシュバシュ撃てた。
(おお、いいぞ、HP結構削れてるぅ。お! ミミッキーえらい【噛みつき】で毒入れたじゃん! あ、メリッサちゃんたちは無理しないでよ~。ジローが盾展開してる。あの辺りにいるのか、近づきすぎじゃない? おかーさん、心配だよ~。ま、いいか。いざとなった"悪戯シェイカー"で私と位置交換しよっと)
味方の位置交換ができる"悪戯シェイカー"は複数出たのでクロだけでなく私も持っているのだ。
くくく、キッチンデビルはマジ美味しかったのう。
とか考えつつ さらに撃つ。
すると、おい、と弓士の一人に注意を受ける。
「6射で止めろよ。【魔弾の射手】のリスク知らんのか」
知らんがな、とは返せないので素直に言う。
「そのスキル持っていないんで。ヘイトこっちに来そうですか?」
「え!? 持っていないのにその速さで射るの!? 命中率半端ないよね?」
お隣さんが驚きの声をあげた。
あれ、まあ、私ちょっといい感じですかね? くふふふ。褒められちゃったかね?
「まあ、持っていないならいいか…。続けてくれ」
そう言って弓使い全体を見てくれていた人は別のプレーヤーにも確認を取り、レイド自体は前列の黒騎士たちのヘイト管理が功を奏し、定期的にアリアドネが大きな攻撃魔法を撃ち、他のアタッカーも彼女が休んだ時には細々とだがHPを削り、着々とモンスターのHPを減らして行って、あとわずかとなった。
(なんか、レイドって安全な戦闘なんだな~)
――などと長閑な感想を持った私だったが、周りはそうではなかったらしい。
なぜか皆、緊張の面持ちでいる。
そして一人がぼそりと呟いた。
「……そろそろ、だな」
それはその呟く声にかぶさるように聞こえた。
アリアドネの声だった。
「タランテラ! 7射目!」
彼女は最後方で立ち上がり、弓士のドールに命じた。弓士の子が一瞬躊躇したが、彼女は弓を引きしぼる。
すると指揮を執っていた黒騎士姿の一人が大声を張り上げた。
「絶対やると思ったぜ! ラストアタック解禁だ! 全員、ヘイト気にせず総攻撃しろ! じゃないと【魔弾の射手】に射抜かれるぞ!」
「てめえ、アリアドネ! だからお前とレイド組むの嫌なんだよ!」
「ははは、楽しくやろうよ、諸君! お遊びだろう!」
先まで統制が取れていた彼らが我先にとアタックを始めた。
タランテラと呼ばれた彼女が引き絞った弓の弦を放つとその矢はスっと消え、ハテナと首を傾げる私の視界の外――私の背後に現れた。
「おねーさま! 後ろですわ!」
メリッサちゃんの必死の声が聞こえた。




