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26 アイギスの檻

ブックマーク、評価ありがとうございます(^^)



私は目をしぱたかせる。

さっきと弱点が変わっている。

そう、あの頭上の牡丹の花が弱点としてマーキングされているのだ。


(え? ええ? さっきは全然あそこになにもマークは出ていなかったのに? --親指姫の金の針が刺さっていた時は)


ハッと気がつく。


(もしかして…!)


まだ、"山鯨"はチャージ中だ。

私はくっと口元を引き結び、地面にターンターンと軽くジャンプを始めた。

私の人種は兎人。【跳躍】スキル無しでも同等のジャンプ力がある。この飛んだり跳ねたりしながらの体勢維持もロビン師匠とのチュートリアルで習得済みだ。そうでなければ、称号『教官のお墨付き』は頂けない。現実の私の運動能力では到底出来ない身体操作。だが、この電脳の世界では実現可能。この面白さが、VRなのだ。


(……よし! いくぞ!!)


私はグッと腰を下げて、自分の頭より高い位置にある"山鯨"に向かって駆け出し、助走の勢いそのままに上空に向かって--跳ねた。


(きゃあーーー! 思ったよりジャンプ高い!)


まるでトランポリンのように私の体は宙を舞う。

だが、集中、集中。滞空時間は長くない。そのまま私の体は"山鯨"の頭の上を目指して落下する。拳ではムリだ。かかと落としを選択し、私は右足を上げ、目標に向けて落ちていく。勿論あの言葉を早口言葉で叫ぶのは忘れない。


「あついビート! ふるえるハート!! オーエスオーエス!!!!」


そのまま体重ごと私のかかとが"山鯨"の牡丹の上に落ち、その花を散らした。



『山鯨は混乱している』



--狙っていた状態変化が起きた。





****






(やっぱりねー!)


混乱が入った途端、"山鯨"は魔法キャンセルし、物理攻撃しだした。

すると、弱点もまた変わる。


("山鯨"はこういう弱点や攻撃方法が混乱すると変わるモンスターなのね。物理攻撃なら何とか耐えられる…!)


素早さを生かして"山鯨"が前脚を上げたところを潜り込み、前脚の内側に正拳突きを叩き込むが、いかんせん、やはり攻撃力は弓に較べて低い。じりじりとHPを削るが そこはお互い様という感じで、"山鯨"との攻防はなかなか決着がつかない。

ヤツがまた魔法を繰り出そうとしたら復活している牡丹の花に攻撃をして混乱させて、互いに肉弾戦に持ち込む。これを繰り返す。


「おねーさまっ、がんばってくださいませー!」


時々飛んできる支援の歌や薬で回復も、出来るだけ親指姫にヘイトがいかないよう立ち回る。

集中、集中、と呪文のように思っていても、やはり脳は疲労するのだ。

何度目かの"山鯨"の魔法チャージ開始に、私は焦っていた。


(やば…。なんか、かかと落としが決まらない…! 器用値や精神値だけじゃ的中しないんだ。そーだよね、プレイヤースキル求められるゲームなんだし…。ぐぐ、チャージ中断しないと魔法発動しちゃう…!)


チャージの終了時間が迫っているのを感じて 私は勢い付けてジャンプしたが、落としたかかとで牡丹に当てられなかった。


(しまっ…!)


跳躍から落ちて、"山鯨"から距離を取ったが、"山鯨"の周囲の魔法陣が赤く光った。

--と、同時にメッセージが出た。


《【アイギスの檻】チャージ完了しました》



瞬間、"山鯨"の周囲が立方体状に透明な硝子に囲まれた。その硝子のふちの範囲は、ジローがさっきから飛んでいた空路そのままに描かれたもので、その内側が、ステルスアルマジロらしく、見えない壁を構築したのだ。

それが、七色に眩く輝く。

そしてその内側、やはり同様にチャージ完了した"山鯨"の発した魔法の火の玉が、私に向かって発射された。ひー!!

だが、その火の玉はジローの展開した硝子の壁にぶつかり、内側で爆散した。


「こ、これが【アイギスの檻】…!」


(てか、ジローは!? ジローは檻の中だよね!? 火の玉受けちゃった判定なのでは? ジローのHPは…)


私は思わずステータス確認をした。


「……"無敵"状態……?」


ふと見ると、檻の内側、上空にジローがいた。

そして、ステータスのジローの状態にカウントが出ている。これが刻々と減っていく。その下にいる"山鯨"はまたチャージ状態だ。ヘイトはまだ私にあるようだ。魔法陣の内側のヤツは私を睨みつけている。

檻の外の私は恐る恐る檻に近づき、ペタと触る。


(内側に入れない…? どうやって、攻撃をするのよ? てか、もしかして、【アイギスの檻】発動中は攻撃も出来ないのかし…)


考えていると、眼前に光のような物体が猛スピードで迫り、私の前に展開していた檻の透明な壁にぶつかり跳ね返った。驚いた私は悲鳴をあげて、その場に尻餅をついてしまう。


「ひゃあ!! い、今のなに!?」

「おねーさま、ご覧になって!」


よじよじと私の肩に登ってきた親指姫が指し示す。

その伸ばした小さい右手の先を見上げると、【アイギスの檻】の中でなにか光の玉が縦横無尽に跳ねている。いや。


(跳弾…? 壁にぶつかって弾かれて…。……あ!)


その弾丸が、中央でチャージ中の"山鯨"にぶつかり、確実にHPを削っていた。

"山鯨"のHPゲージが刻々と減っていく。しかも、結構な数値で減少している。私ではとうてい出せない数値だ。


「あれって…」

「おねーさま。ジロー様ですわ!」


親指姫が頬を紅潮させ言い切る。

"山鯨"がブモオオオオと大きく唸り倒れこんだ。さすがに、ズドォンとこちらにも振動が及ぶ。

そして、"山鯨"のHPゲージが砕けるエフェクト。

同時に、ジローのカウントが止まりカウンターが消えた。

私たちの侵入を拒んでいた【アイギスの檻】が消え、空中を猛スピードで跳ね回っていた弾丸の光の玉から光が消え、手足を隠した両手で包める程度の大きさの、ステルスアルマジロのジローがいた。


「ジロー…!」


名前を呼ぶと、ジローはくるんと頭を出し、何事もなかったように空中をふよふよ泳いでくる。

無敵状態は解消されていた。

ホっとして、ジローを抱きとめ、私は息をついた。

ジローは変わらず私にその愛くるしいつぶらな瞳を向けてくる。


「良かった~。終わった~! つーか、やっぱジローさんはチートだよ…!」


さすが、私のMP50も使う荒技だ!

私は安心しきって、その場にへたり込む。

親指姫も、お見事ですわ、とジローを誉めそやす。


私は緊張が解けたせいか気がつかなかった。

"山鯨"の討伐アナウンスがまだ流れていないことを。



このイベントは、まだ終わらない。


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