非日常2
昨日今日で怪我人が復帰する訳もなく、会社はいつも以上に静かだった。
男は今日こそ企画を完成させるべく、パソコンに向かっていた。
だが、午前中に作った企画は部長にバッサリ切られた。
「あほか。こんなありきたりな企画のどこに魅力があるんだ。お前入社何年だ。それ位分かるだろ」
落ち込む男に、部長は追加攻撃をしかける。
「今日中に出来ないと、この企画は他の奴に考えさせることにする」
「えっ!でも、この企画は私に一任って言っていたはずでは……」
「しかし、昨日の事故であらゆる部署で人が不足しているんだ。今は効率重視なんだよ。いつまでも良い案が出ないなら、他に頼るのが筋だろ」
男は何も言い返せず、ただ俯くだけだった。
昼、社食で食べながら男は独り言つ。
「はぁ……。せっかく任されたのになあ……。たく、誰だよ事故なんて起こした奴……」
勿論、愚痴っても案は出るはずもない。
今日中に良い案なんて無理だよ……。
箸を動かす男には諦めのオーラが漂っていた。
退社時間が迫ってきた。これまでに午前を合わせて計3回企画を出したが、全て一蹴されている。
「ヤバイ、もう案が出ない……」
思考が口から漏れているのは、焦り故か。
「せっかく一任されたのに……!もう、とにかく許可してくれよっ……」
男は悪あがきとばかりに、午前の企画を部分的に直しただけで提出しにいった。
「…………この企画は……」
部長に提出した後で、男は後悔した。妥協を許さない部長がボツになったのを軽く修正しただけで認めてくれるはずが無い。男は次に来る叱責に構えた。
「こういう案だ!こういう案を待っていたんだ!」
予想に反し、部長は絶賛している。男は唖然として、部長の称賛を聞いていた。
「やれば出来るな!任せて正解だったよ!では、早速明日からこの企画を頼むよ!」
男が入社してから今まででこれほど上機嫌な部長は見たことがなかった。男は訳が分からないまま、ただ頷いていた。
ほとんどボツになった企画と変わらないはずなのに……。
自分の席へ戻ってからも、まだ採用されたという実感がない。
まるで、自分の願いを叶えてもらったような……。考え過ぎか。
男は結果オーライだと割り切ることにした。
「おい、珍しいな。部長がべた褒めじゃないか」
隣で作業中の同僚が話しかけてきた。
「正直、まさかだよ」
「何言ってんだよ。ついに実力が認められてきたんじゃないか?こりゃ、昇進だな」
「早いっての」
「俺も負けないように、T社との契約をこぎつけないとなあ……」
「契約……」
何故か、男の頭の中にはさっきの『契約』の二文字がこびりついて消えなかった。




