↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

倒れたドミノは、戻らない。〜Domino effect〜

目的地に近づく前に、第三事例《シャドウ》は消耗、いや摩耗していた。



「はぁ、はぁ、はぁ、」



主任に言われた通りの呼吸ができない。



「や、休みましょうよ?」


「馬鹿言わないで!」



第三事例《シャドウ》が、切羽詰まった声で第四事例《スリット》の言葉を遮る。



「あの話が本当なら、次、狙われるのは、私たちの研究所よ?主任も、みんなも、死んじゃう!せっかくできた家族なのに!また独りになりたいの!?タダイマも言えなくなるんだよ!?」


「ご、ごめんなさい...」



こんなに第三事例《シャドウ》が第四事例《スリット》に強く当たることもない。



(マズイわね)



供給する第一事例《ルカ》からは、誰がどの程度消耗しているか、ある程度解る。と言うより、視える。第一事例《ルカ》の視野は、煌くラメのように視える。その煌めきの量で、あとどれだけ戦えるかが、解るという訳だ。


更に煌めきの動きを"観る"ことで、その保持者の精神状態も大体わかる。このラメの動きはどうやら、精神状態に反応して動くようだ。


第二事例《レコーダー》のように普段から起伏のない精神では、煌めきが揺れることはない。


今、第三事例《シャドウ》の精神はかなりマズイ。煌めきが乱雑に散らばっており、まともに能力が使えるとも思えない。



「第三事例《シャドウ》、止まって。煌めきが切れる」


「え?」



第一事例《ルカ》が第三事例《シャドウ》を引き留める。第三事例《シャドウ》は、普段からは考えられない気迫に圧倒されている。



「主任からも、そう指示が来ています」



第二事例《レコーダー》も、すかさず停止に入る。



「貴女、ここに来るまでにもう三体は倒した上で、私達を守る為に煌めいて(ハイライト)を周囲に展開し続けるなんて、演習でもやったことがない。相当、摩耗してる」


「そ、そんな...」



モニター越しだが、異変に気がつく主任。一瞬見ただけでは分からない程度だが、少しヤツれているような、違和感。



(僅かだが、老け込んだように見える...短期間で激しく魔法を使うと、ウイルスだけでなく肉体的にも消耗があるのか?)



左手人差し指の第二関節を噛む、主任の癖が出る。いつもは「娘に悪影響」と妻に注意される為、しないようにしているが、してしまう。



「...どうにか、回復したみたいね」


「あ、ありがとう」


「顔色も回復したみたい」



第三事例《シャドウ》を第一事例《ルカ》が抱きしめながら、背中を叩く。第三事例《シャドウ》も落ち着きを取り戻したようで、呼吸が安定してきた。



『ゴゴ、バァアアーーーンン!!』



その時、雷鳴と共に人型のナニカが現れた。これまでの事案《インシデント》で見てきたナニカ達とは、まるで違うプレッシャーの質量でまったく動けなくなる。


その間に、ナニカは第一事例《ルカ》と第三事例《シャドウ》に右人差し指を向ける。



『一撃《ヒッサツ》、天罰《エレクトリックエクスキューション》』



ナニカが人差し指から、雷撃を放つ。



『ババババヂヂッン!!!』



第三事例《シャドウ》は、電撃が放たれる直前に、第一事例《ルカ》を突き飛ばした。

故に第一事例《ルカ》は電撃を受けずに済んだ。

しかし、第三事例《シャドウ》の方は、完全に心臓を貫かれていた。



「ル、ルカ...い、いた、い」



第三事例《シャドウ》が力を振り絞り、喋ろうとする。

しかし、それは叶わない。言う前に、赤いシャボン玉のように膨らみ、破裂した...


そしてナニカは、すぐに別の目標《ターゲット》を定める。その目標《ターゲット》は第四事例《スリット》であった。



「あ、ぁあぁ!あ"ぁ!」


「第四事例《スリット》!落ち着いて!」


「あ!あっあぁ、、お願いは(シグナルコール)ッ!煌めいて(ハイライト)!」



第一事例《ルカ》に指摘され、第四事例《スリット》は、自身の本来の能力ではなく、第三事例《シャドウ》から習った魔法を展開した。

彼女の本来の能力は、こんな精神状態では扱えない。


それに合わせるように、



「お願いは(シグナルコール)、動かないで(ポーズ)!」



第二事例《レコーダー》の"動かないで(ポーズ)"は、視野に入れた対象に負荷をかける能力である。

要は、対象が行動を起こすに必要なエネルギーの増加を強要し、行動不能にするというもの。

第二事例《レコーダー》の周りを煌めきが取り囲む。この状況でも、彼女の煌めきの動きは乱れていない。



『ヒ、ヒ、ヒッサ、、ツ、、、』


(まだ止まらない、でも!)


「第四事例《スリット》!今なら、行ける!」


「わ、わかってます!」


第一事例《ルカ》からの喝に第四事例《スリット》が一呼吸置く、



「お願いは(シグナルコール)、選ばせて(ダブル)!」



そう唱えた途端に、第四事例《スリット》の輪郭が二重《ブレ》た。

その二重《ブレ》はどんどん広がり、ついには、第四事例《スリット》が2人になる。2人になった分、それぞれの存在感が半分に薄まったようにも思える。動きも、心做しかカクついて見える。



「第二事例《レコーダー》、大丈夫ですか!?」


「ッッッン"!」



モニター越しに見ている主任にも、第二事例《レコーダー》の限界が伝わる...

彼女の能力は彼女の知覚を送信するものである。なので、彼女が今、体験している事が受信先のモニターにも表示されるのだ。

行動を阻害する際、対象が行動を取る為に使ったエネルギーは、行動が阻害される為、使用されない。では、そのエネルギーはどこに行くか?


第二事例《レコーダー》の眼球を始めとする身体である。

あまりのエネルギーに第二事例《レコーダー》の身体が限界を迎え始めていた...



(また、"お前"か...!)



第二事例《レコーダー》には、赤いシミが視界を覆っているように見えていた。赤いシミは妙に人の顔のような位置に色ムラがある。そしてその色ムラは唇のように開き、



団結せよ...我々は、予め死を宣告された同志。恐れるな死を。死に抗うな。我々が抗うべきは、我々を括る軛である。団結せよ...我々は、予め死を宣告された同志。恐れるな死を。死に抗うな。我々が抗うべきは、我々を括る軛である。団結せよ...我々は、予め死を宣告された同志。恐れるな死を。死に抗うな。我々が抗うべきは、我々を括る軛である ...



と訴え続ける。この光景は、第二事例《レコーダー》と、モニター越しに見た主任しか知らない。


第二事例《レコーダー》の目の周りの肉が少しずつ焼け、ゆっくりと崩壊を始めていた。血の涙を流しても、彼女は動かないで(ポーズ)を解除しない。



「わ、私が!私が!みんなを!お願い!これで、終わって!!」



第四事例《スリット》がナニカの元にまで近づき、光の剣をナニカに突き立てる。



「え、、、?」



刺さらなかった。




「あ"ぁ"ッ!!」



第二事例《レコーダー》のラメの流れが、一気に崩れる。

そして眼球が、赤いシャボン玉のように破裂した。あまりの熱量で限界に達したようだ。

モニターには、『Sound Only』の文字が点滅するのみ。



「あ、あぁ、あ"あ"!!」


「第四事例《スリット》!早く!選択して(ニゲテ)!!」



パニックを起こした第四事例《スリット》にはもう、選ばせて(ダブル)は使えない。



『天罰《エレクトリックエクスキューション》』



「あ、あ、ぁああ...どうして、」



第一事例《ルカ》の心は限界に達した。



自分が感染なんて、発症なんてしなければ...

そもそも、なんでこんな目に遭うの?私たちが何をした?地球を汚したのは、私達に、私に選択肢を与えなかったのは...



「誰か、助けて...」



心...脳というのは、分泌系に深く影響を与える。分泌系が変われば肉体が変わる。そしてその変化は、その肉体を苗床とするウイルスにまで及び活性化。第一事例《ルカ》の身体を材料とし、増殖を加速させる。

その感染力は極値に至り、第一事例《ルカ》の身体を蝕み続け、爪が剥がれ、歯は抜け落ち、視界は砕ける。血は焼けるように熱く、皮膚が爛れ、骨が裂ける...



「私は、私は、ただ、帰る場所が...ただいまって...」



コメットに倒れかかる第一事例《ルカ》。しかし、身体の方が負けてしまう。

コメットはそれまでに強固に設計されており、それほど彼女の身体は崩壊していた。



あまりの速度で増殖したウイルスは、やがて限界を迎え、



「パーティ...楽しかったな......」



互いを弾け出す。



"第一事象《ルカ》は完成"した。



"No signal"


脳のサイボーグ化を進めることを拒んだ主任が彼女の為に、用意した携帯端末にそう表示される。



この後、宙《ソラ》では全ての人工衛星が制御を失ない、互いに衝突する。

そして、地球の重力に引かれ、砕け散り、"流星群"として夜空を彩った。



この嫌になる生ぬるさが肌をなぞる感覚、

夜が開けるのはまだ先の様だ。



***



α.

β.

γ.

δ.

ε.

ζ.

η.

θ.

ι.

κ.

[ERROR_ERROR_ERROR_]

μ.

ν.

ξ.

ο.

π.

ρ.

σ.

τ.

υ.

φ.

χ.

ψ.

ω...


Our fate is like a rolling stone,

on a hill made in heaven.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。