願い事は、声に出して。 〜Project Meteor〜
Our fate is like a rolling stone,
on a hill made in heaven.
...これは、アナタ方の次の時代にあるかもしれない物語の話。
***
無機質な光に包まれている個室。物々しい機械類が忙しなく点滅している。
「本当に、よくもまぁ、御上がここまで予算を出してくれたものですね」
スーツを着た男が呟く。まるで呆れを隠していない。いかにも事務職と言った出で立ちである。
「..."神輿は派手な方がいい"と、そう提案したら無尽蔵にくれましたよ」
隣で黙々とモニターを操作する男。こちらはいかにも研究者というような白衣姿に眼鏡をかけている。首から下げるネームプレートに『研究主任』とある。
2人とも初老の陰が少し見え隠れする外見である。
「にしても、たかが移動手段にディスクまで、ねぇ...神輿が重すぎて、潰れなきゃいいけど」
「...それだけ御上は"迅速且つ、内密に"済ませたいってことでしょう?」
「...世界を救うと銘打っておきながらねぇ」
ニヤニヤと、舐めているキャンディで舌で転がしわざと音を立てるスーツの男。胸ポケットに鈍く光る『inspector』の文字。
モニターが切り替わる。
そこには"Comet"と大きく表記された、箒のような装置の映像が映っている。
柄のように細いフレームに、小さな座席、その後ろに百合の花のような大きな機構が搭載されている。どうやら移動手段として作られたものらしい。
他にも反重力機構の試験導入やら、汚染懸念やら、いろいろ物騒な用語が記されている。
「それにしても"星屑計画"、ですか...国際予算を使用してまさか、"魔法少女"を造ろうなんて、ねぇ?」
意地悪そうに肩を竦ませる"監査官"。
「...魔法少女って呼び方、止めてください」
ため息気味に返す主任。
「それを進めてるのは、私なんですから」
主任は少しズレた眼鏡をかけ直す。
「ははは、それが仕事なんで。改めて、お互い嫌になる仕事ですねぇ」
監査官はたるんだスーツを着直し、軽口を叩く。
そして再び、2人の眺めるモニターは切り替わる。
そこには4人の少女が映っている。それぞれ、コメットに腰掛けて、何か話しているようだ。コメットは少女を載せた上で、完全に浮遊している。重力を無視しているかのように。
暫くして、4人の少女の話し合いが終わったらしい。一斉に移動を開始し、モニター外に出る。
モニターの画面が切り替わり、最後尾の少女の視覚と全く同じ映像が映し出される。
「おぉ、第二事例の調子は良さそう」
興味深そうに前のめりになる監査官。
「...この程度で喜んでいたら先が思いやられますよ。これから初めての任務なんです」
逆に背もたれに深くもたれかかる主任。言葉とは裏腹に少しの安堵を感じられる。
モニターには軽やかに進む少女たちの姿...後方から青い星のような粒をばら撒く。まるで空を美しく飛ぶ蝶のように。
報告書に目を移す監査官。
第一事例の項目に、
『再現性、見込みナシ。各事例の活動時間維持には、50m圏内に第一事例を配置する必要あり』
と書かれている。
「...んー何度、報告書に目を通しても、ねぇ」
報告書を指で叩きながら、
「理解はするが、納得はしないというか。未だに再現できてないんですよね?」
また舌でキャンディを鳴らす。
「ソレに関しては...科学者としては、失格ですかね。再現性がないなんて、ただのオカルトでしかない。しかし、まぁ...事案が起きてしまった以上、アレに対処できるのは彼女らしか居ないのも、また事実」
「オカルトにはオカルトを。ってことですかぁ」
天井を見上げ手を伸ばす監査官。
舐めていたキャンディを噛み砕く。
「そうですね。彼女たちに関しても、例の事案に関しても大方、予想はついていますが...まだ立証するだけの情報と時間が足りていない」
主任が手元の端末を横目で見る。
「予想ってぇ、主任の娘さんの与太話ですか?幾らなんでも親馬鹿が過ぎますよ。あれじゃあ、まだ仮説どころか、予想の段階ですらない。ただの思いつきでしょ?」
監査官は手をヒラヒラと振り茶化す。
「...手厳しいですね」
それに少しだけ眉をひそめる主任。
「娘さんに対してなら、主任の方が酷いのでは?」
「愛娘ですよ?手塩にかけたくなるものです」
ほんの少しだけだが、主任の声のトーンが落ちる。
その時、モニターの映像が大きく変わる。
シャボン玉が至る所に舞い、まるで絵本の中に飛び込んだかのような映像だ。
その中心には、"ナニカ"がいる。
というより『在る』。
まるで、マネキン人形やデッサン人形のような意匠を思わせる"ナニカ"。
その全体像は異様そのもの、であった。
頭が一つなのに対して身体が5つあり、頭を起点とし放射状に5つの身体がある。
その5つの身体が互いに隣り合った身体と手を繋いでいるという構図。
要は趣味の悪い"五芒星"に成っているという訳だ。サイズ感的には5メートル弱と言ったところか。
『我等ハ、高次元ノ殺戮』
それが、こんなことを呟きながら、民間人を轢き殺している。呟いているというよりそう聞こえる。まるで車輪のように転がり廻って。その度に、祝福するかのような音が流れるのが余計に悪趣味である。
ある程度、轢き殺すと、その亡骸に倒れ込み血や肉を啜り、跡形もなくしてしまう。
そう、このナニカに対応する為に、彼女たちはここに駆けつけたのだ。
黄色のツインテールの少女が飛び出す。
「お願いは!煌めいて!」
ツインテールの少女は快活に叫ぶ。
すると、シャボン玉のような光が手の中から溢れ出る。その光が筋となり、筋がそのまま、刀身の形となって、彼女の手に留まる。正に"光の剣"と言ったところ。
「おぉ、第三事例も本番で成功ですね」
今日、一番気分が上がっているようだ。
「第三事例が一番、安定性は高いですから」
さも当然のように主任が返す。
そうして、少女が"何か"に斬り掛かる。明確なダメージがある様だ。その際にも、シャボン玉が舞う。
その瞬間、第三事例コチラにウィンクする。明らかに、モニターの向こう側に向けたものである。
「ははは!余裕だ!やはり、使えるものは使えってか!」
今日一番、大きな反応を見せるスーツの男。実にわざとらしい。
「...えぇ。効くのであれば、縋るしかないですよ」
眼鏡を外し、指で眉間を絞る主任。
「未解明だろうが、何だろうが。それぐらい我々は追い詰められていますから」
その戦闘を後方から残り3人の少女達が見守る形になる。
モニターで全体が確認できるよう、一番後方に視覚情報の共有が可能な、黒の長髪で青い目の少女、第二事例が居る。
暫く戦闘を眺めている第二事例に対して、
「...ごめんなさい。私のせいで」
「私の前でそんな話しない方がいいですよ。第一事例。それより、第三事例の煌めきを見ててください」
「...そうね」
どうやら第二事例は、聴覚の情報もこのモニター越しに共有ができるらしい。
「今のは、御上さん方には報告しないでおきますね」
不敵に笑うスーツの男。
「流石、監査官まで出世する方は気遣いが違います」
「えぇ。お陰様で未だに生身の眼に、脳ですから」
自分の頭をコンコンと叩く。
「あぁ、眼に関してはレーシックはしていました。老眼には勝てませんな!」
そして、笑って返す。そこには役職としてではなく、ただ単に一人の個人としての顔だった。
そして、即座に監査官の顔に戻る。
「さてと。問題は、第四事例ですけど...彼女、できますかね?」
「できないのであれば、やらないで欲しいところです。彼女に関しては」
モニターを見つめる主任。その眼は、この時代にそぐわない度付きの老眼鏡をかけていた。




