閉ざされた報告・夜の交代
石壁の詰所では、夜明け前から小さなざわめきが続いていた。北辺で翼ある巨獣が目撃され、教会はそれを竜と断定する。討伐命令は調査を待たずに下る。 見張りの新兵が小さな音を報告した。笑う者を制し、アレン自身が確かめに行く。危険でなくても、報告した勇気まで無駄にはしなかった。 古い記録ほど肝心な頁が抜かれており、アレンは命令の裏に隠された焦りを感じ取る。
部下のローディは命令を待ったが、アレンは先に村人の話を聞かせた。地図に描かれない畦道や井戸の位置は、そこに暮らす者の方が正確に知っている。
小さな異変を報告した新兵が、臆病と笑われた。アレンは笑った者ではなく異変の場所を見た。そこには敵の痕跡があり、新兵の一言が隊の損害を防いだ。
夜番の交代時刻を過ぎても戻らない一組がいた。アレンは叱責の文面を作る前に捜索隊を出す。二人は崩れた納屋から老人を助けており、遅れの理由は報告書へそのまま残された。
任務が終わると、司祭は人々の前で聖光教の加護を称えた。アレンは壇上へ上がらず、負傷者の名と不足した薬の数を確認する。称賛より、次の任務で同じ傷を出さないことを選んだ。
夜の帳面には、勝利の二文字より多くの反省が並んだ。それでも最後の頁に全員帰還と記せた時だけ、アレンは短く息を吐いた。
見届けた者は英雄譚を口にしなかった。水が戻った、薬が届いた、今夜は家族が眠れる。ただそれだけの報告が重なり、アレンへの警戒をゆっくり信頼へ変えていった。
その場で答えを出せなかった問いも、消したことにはしなかった。保留と記して次の会議へ渡す。分からないものを分からないまま残せることも、互いを欺かずに暮らすための力だった。
(本文実測:695字)




