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四話 絶影とシャドウ


「おい……助けを求めたのはお前かよ?」


飛び散った血を鬱陶しそうに、拭いて、その青年は華鈴に問いかける。

パニックのあまり声が出なくなった華鈴は青年に対して、ふるふると頷くしかできなかった。


(この男の子が、エルモナさんが言っていた仲間の人なのかな……)


華鈴は自分が助かれば、もう何でもよかった。


「シオンその子なの……っていうか肩の傷がひどいし、血がめっちゃ飛んじでるじゃん?

もう少し丁寧にやれよなぁ!」


「はいはい……こいつが助けを求めてた奴だ。

同じ女子同士のよしみでモカ、早く連れていけ‼︎」


「はぁ……じゃあぁあとで、うちにお菓子奢ってね!」


「奢るか!!」


シオンの「ケチ!」とぼやきながら、マゼンタ色の髪のーーモカーーと呼ばれる女の子は、腰が抜けている華鈴の側に寄る。

シオンは剣を構えて、自身の鋭いオーラを尖らせながら、周りを見張っている。


「うわぁ……シオン派手にやったね……拭いておくね?

うちの能力で見渡しておいてラッキーだったわぁ〜

あんたを助けられたから……」


モカはマゼンタ色のショートヘアにキリッとした目が特徴的だった。

彼女は華鈴にハンカチを渡し、飛び散った鮮血を吹いていく。

髪色と同じマゼンタのオーラを漂わせていた。


(血を見て……何も感じないのかな?)


 華鈴から見て、彼女も同い年ぐらいだが、何か別の生き物のように感じて、不気味に感じた。


「立てる?」


「あっ……うん、立てる……じゃなくて立てます。

 助けてくれてありがとう、モカちゃんとシオンくんって名前で良いの?」


「うん、そだよー。うちはモカ・ツヴァイラ。こっちはシオン=スザン!」


 ギャル口調で、モカはゆる〜く答えながら、――ポンとシオンの肩に仲良さそうに手を置くが……


「馴れ馴れしく、触んなモカ!」


 シオンは不機嫌そうに、鋭いヤスリのようなオーラをさらに尖らせて、モカの手を振り払う。


「あぁん、なんか言ったぁ!?」


 モカはシオンの態度の悪さにむかつき顔を歪めるが、この状況を考えて、怒りを飲み込み、華鈴の方を向き、笑みを浮かべる。


「コホン……そっちの名前は?」


「椿……華鈴です。」


「カリンちゃんね、早速だけど、早くこの研究所から脱出するよ‼︎」


モカと名乗った女の子に華鈴は連れられて出口に案内してもらうことになった。

すると、緊急のブザーがまた鳴り響き、アナウンスもこう言った。


――後五分デ、コノ研究所ヲ爆破シマス。避難ヲ開始シテクダサイ――


この放送を聴いても尚、シオンは一人でさらに奥まで向かおうとしている。


「ダメ……シオンくん危ないよ‼︎」


「大丈夫だっつうの!!」


華鈴の心配を振り切り、シオンは奥へと行ってしまった。


「もう『爆発する』って言ってたじゃん、逃げないと!!」


「カリンちゃん……うちらやシオンを信じて、今はあなたの方が危ないよ?

 肩の傷もひどいし!!」


華鈴は鈴音、美鈴に続いて、もう誰かを失いたくない気持ちでいっぱいだった。

 モカに腕を引っ張られたときに、肩の痛みがさらにジーンと痛くなる。


「う……わかった。」


 こうして、華鈴はモカに連れられて、この研究所から脱出した。



――一方で、シオンはコクエンと戦っているエルモナのところまで辿り着いていた。

 そう彼が奥に進もうとしていた理由とは、エルモナを助けるためであった。


「エルモナ義姉さん!」


「シオンくん!」


「ち……援軍か、厄介だな。この戦いとその叱責はお預けだエルモナ・シュタイン!」


 コクエンは、研究所の自爆して、その残り時間も考えた上で撤退を決意した。


「あ……待て!!」


「シオン=スザンよ。また逃してしまったなぁ、お前の父の仇を!」


シオンにそう挑発の言葉を残して、コクエンは黒い煙に包まれていき、どこかへ姿を消してしまった。


「くっそがぁぁ!」


(また逃した……)


シオンは悔しそうに地団駄を踏む。


「シオン、ごめんね。

 お義姉ちゃん、情けないことにオルコードは近くにあったのに獲れなかった。」


「いや……しょうがねえよ、コクエンがすぐ近くにいたんだろ?

 あっ……そうだ、もうすぐこの研究所は爆発するんだった。」


「あっ、そうじゃん!!」


「だから、俺がおんぶするから掴まれって!」


(頼もしいなぁ、あなたの義弟くんは……)

 

エルモナは、シオンの勇敢さに感心していた。


「行くよ!」


「うん、じゃあ、粒子化をお願い。」


――この研究所から生きて帰るーー


 華鈴との約束を果たすために彼の好意にあやかることにした。



 爆発の危機が迫る研究所の外には多くの『絶影』の兵士たちが待機していた。


「皆さん少し離れましょう。

 この研究所は爆発します。」


「「了解です!!」」


 モカのこの指示から、周りの兵士たちは研究所から離れる。

 華鈴は近くでシオンやエルモナの帰りを待っていた。


「エルモナさん……シオン」


「カリンちゃん、もう少しだけ離れて、早くしないと爆風が!」


あっという間に五分も経っていたのか、研究所は木っ端微塵に爆発したのだ。


「うわぁぁ、うそだぁ、エルモナさん、シオンくん!!」


「ぐ……!」


 その爆風にモカと華鈴は吹き飛ばされる。

 華鈴は肩の痛みや火傷に悶えながら、地面にうずくまり泣いた。


「また、守れなかった……」


(もう誰も失いたくないのに……)


 華鈴は美鈴の最期を思い出して、胃の中の酸っぱい物が込み上げてくる。

 するとーーザザっと足音が華鈴の目の前に響く。


「モカちゃん……私はまだちゃんとお礼も言えてないのに、私はどうすれば?」


「モカじゃねぇ、シオンだ。」


「カリンちゃん、ありがとう待ってくれたんだね。」


 華鈴の前に立っていたのは、シオンと彼に支えられているエルモナがだった。

 二人とも爆風に巻き込まれて、軽いやけどや切り傷を負っていたが、無事だった。


「良かった……でもどうやって?」


「シオンの異能のおかげで助かったよ。

人よりも高速で移動できるからね。ありがとうね……」


「おぅ……」


「二人とも……無事で良かった。」


「ふふ……ありがとう」


「ね……カリンちゃん、うちに言った通りだったでしょ?」


 モカとエルモナは静かに、華鈴の前に駆け寄り、抱きしめる。

 そんなよそにシオンは、苦虫を噛み潰したように機嫌が悪そうだった。


「コクエンを逃がしちまった……くそが!」


(また逃した、『シャドウ』のやつらは駆除しきらないと……)


地面に拳を思い切り打ちつけて、シオンは本気で悔しがる。

 唇からは血が滲んでいた。


「それはそれとして、こいつはどうすんだよ。」


 シオンは華鈴に指を指し、話題を向ける。


「こいつじゃなくて、カリンちゃんね、みんなに事情を説明してくれない?」


「あ……私は椿華鈴です、ここに気づいたらいて……もう何が何だか、それにあなたたちは何者なんですか?」


「カリンちゃん……私たちは『絶影』っていう『シャドウ』を倒すために作られた特殊部隊。

 そしてその首領が、私たちが会ったあのーーコクエンーーっていう男なの……」


 エルモナが淡々と、丁寧に説明する。

 どうやら、エルモナ、シオンやモカたちの所属すると思われる組織『絶影』は何かの理由で、『シャドウ』が所有する研究所を襲撃した。


「えっ『絶影』……あとエルモナさんはなにをしてたんですか?

 それと、おいわさま……『オルコード』っていわれてる黒い箱みたいな物はなんなんですか?」


「私はーー絶影のスパイーーとして、あの研究所に潜入してたの……この拠点の情報を送って、絶影のみんなに来てもらって、オルコードの奪還を目的にしてたんだけど失敗しちゃったの!」


(研究室に厳重そうにおかれていたおいわさまのことかな……)


華鈴は自分が目を覚まして、見たあの光景を思い出して、合点がいった。


「そうだったんですか……

 私がいた場所にも同じ物があって、『オルコード』は『おいわさま』って呼ばれていましたよ?」


その言葉を聞いて華鈴以外の皆は、驚いたような表情を浮かべた。


「え……カリンちゃんがいる場所にはオルコードがおいわさまと呼ばれてあったの?

一体、全体に華鈴ちゃんは何者なのよ⁉︎」

 

 エルモナは驚きながら、華鈴の両肩を持ち、真剣な眼差しで見つめる。


「え〜と、私は地球で……ってあれ?」


「チキュウ……カ、カリンちゃん、どうしたの!?」


エルモナの発言に応えようとした華鈴であったが、これまでの疲労や肩の失血が重なったためか、視界がーーぐにゃりと歪み、その場に倒れ込んでしまった



――地下深くにある施設……


そこでコクエンたちは、玉座に向かってひざまずいていた。


「エルモナの裏切りはあり、研究所は爆発せざるを得なかったですが……

我ら『シャドウ』が、オルコードは回収しました。」


コクエンが率いている『シャドウ』と言われる組織。

リーダーのコクエンがガスマスクを着用した部下に目配せをする。

部下たちはーーコクリと頷き、何重もの舗装していたオルコードを玉座の前に置く。


「この通りです……」


コクエンの声を聞き、ある少女が『シャドウ』たちの前に現れる。


「ご苦労です……コクエンと『シャドウ』の皆様。」

 

研究所の自爆から逃れていたコクエンや彼の部下に労いの言葉をかける銀髪の少女。

前髪は完全に顔を覆い隠していた。

チラリと見えるその頬には蛇の刺青が象られていて、血のように片方の目は赤く染まっていた。


「『黒い君』よ……貴方の労いの言葉に感謝します。」


華鈴をこの世界に連れてきた『スーザン』と名乗っていた少女である。


「いえいえ……優秀なる部下に褒め言葉をかける。

 私の愛しのスーザンさま本人でもそうします。」


『黒い君』と言われる『スーザン』はそう言い、自分の頬を撫でて自画自賛する。


「コクエン。彼女……ツバキカリンを捕獲すればこの星は救われるんですね!」


「はい……必ずや!!

コクエン、および『シャドウ』の面々は、黒い君とこのツヴィーク星と星を生きる民のために命を捧げます。」


「なら……わかりました。

 新しく研究所は用意しておきますので、そこで研究に励んでください。」


「ありがとうございます。」


 ーーニヤリと赤い隻眼で笑みを浮かべるスーザンを見て、感謝の言葉を口に出すコクエンであったが、その表情は頭蓋をもした仮面をかぶっているために、わからないあが、眉ひとつ動いていない。

『黒い君』とコクエンの二人は『シャドウ』として、迫り来るこの星に訪れるであろう危機から救うために裏で暗躍を始めていた。








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