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ホーソーン◦マナーSide 番外編 野薔薇のトライフルとリディア社交界デビューに向けて

ホーソーン・マナーSide


普段はリーケと玉ねぎやハーブの香りや焼いたチキンの香り立ち込めるキッチンで、女性たちの声が賑やかにしていた。


「違うわ、ブリジット。林檎は重ねるのではなく、並べるのよ」


ホロウェイ夫人は腕を捲り上げて、熱心にブリジットと夫人に教えていた。夫人とは、グレイの隠れ家を切り盛りする、王子殿下の元乳母の夫人だ。上品なドレスに白いリネンのエプロンをし、薄く切った林檎を教えられたように指先でそっと回していく。


「そう!そうですよ。さすが夫人、飲み込みがお早いですわ」


まるで薔薇が開くように黄金色の生地の上に林檎が広がる。


「これは、昔、英仏海峡沿いの街で見たことがあるのよ。フランス宮廷風のタルト・オ・ポムに近いと思いますのよ」


「あら、夫人、私は英仏海峡沿いで生まれ育ったのですよ」


「まぁ、あなた、ホーソーン男爵家でフランス宮廷風のタルト・オ・ポムを作って差し上げていたのよ」


「うわっ、ホロウェイ夫人、さすがですわ」

「何を言っているの、ブリジット。あなたも手を動かしなさい」


バターたっぷりの生地に林檎が薔薇状に配置され、杏ジャムの艶が煌めくそのデザートは、シナモン、レモン皮、砂糖で味付けするものだ。


「まぁ、綺麗」


ブリジットが頬を上気させて、うっとりとした声を上げた。宝石のように艶めく林檎が実に美味しそうだ。


今日は、月一恒例となったの夫人とホーソーン・マナーの女性たちのレシピ交換会なのだ。


3人の女性陣はキッチンでこうして貴重で楽しい時間を過ごすことをとても楽しみにしていた。この後は、皆でおしゃべりをするお茶の時間だ。


「王家でよく召し上がるという噂の……」と言いながら、夫人がブリジットとホロウェイ夫人に教えたのは、野薔薇のトライフルだった。


なんでも、子供の頃からグレイの大好物とのことだ。


銀の匙でゆっくりとクリームを広げ、何層にもスポンジとクリームを重ねるこのデザートは、ガラス細工の器の中で実に華やかな輝きを呈していた。苺とマカロン、砂糖をたっぷりと贅沢に使う。ホーソーン・マナーの復興が決定的となり、こうしたデザートをお祝いの席に出せるようになったということでもある。


シェリー酒、木苺ジャム、カスタード、泡だてたクリーム、砂糖づけ果実、マカロン、ビスケット、所狭しとキッチンに並べられた材料を使って、層状に重ねられたデザートは、幾つもの人生を重ねるように彩られていた。


「素敵……」


ブリジットとホロウェイ夫人が両手を胸の前で組み合わせ、乙女のように目を輝かせた。


その時だ。

リディアがキッチンが駆け込んできた。


「大変だわ!」

「どうしたの、リディア?」

「今、ちょうどアップルタルトと野薔薇のトライフルができたのよ」


「5月の王妃主催春季舞踏会の招待状が届いたの!」


リディアは震える手で、その高級ヴェラム紙を広げて見せた。


封蝋に王家の紋章があった。


「えぇ!?」

「なんてことでしょう、デビュタントドレスをすぐに作らなければ……」


「王妃様の主催する舞踏会に、私が参加するということになるのかしら?」


「そうですよ、リディアお嬢様……おぉ……どうしましょう……」


「私、ダンスはそんなに得意じゃないの……」


「大丈夫ですわよ、リディアさん、私は乳母になる前は結構、できましたわ。あなたに教えられますわ」

「夫人!本当ですか?」


「……あぁ、旦那様に今すぐにお伝えしなければ……」


「あぁ、ジャック!ちょうどいい所にきたわ。大変なことが起きましたのよ」


「どうしたんだい、ブリジットもホロウェイ夫人も、グレイのところの夫人も、リディアお嬢様もみんなすごい顔になっている……デザートが失敗したのかい?」


「5月の王妃様が主催される春季舞踏会の招待状が届いたのよ」


「うわっ!?なんだって!?こりゃ大変だ……」


「あぁ、私、まだ心の準備ができていないわ。この前、キャロライン様に言われたの。そろそろロンドン社交界にデビューしましょうって。でも、まさか王妃様主催の舞踏会でのデビューだと思わないから……」


「なんだ、なんだ?みんなすごい顔しているぞ?いやぁ、うまそうな匂いだ。今日は特別なものが2つもあらぁ。今からお茶にするんだろ?」


「ギデオンさん、大変なことが起きまして」

「リディアお嬢様が、王妃様主催の舞踏会にご招待されたのです」


「いやぁ、大丈夫だ。俺たちにはベルローズ夫人がいる!お茶が済んだら、ジャック、すぐにブライトンまで送っていきな。何せプリンセス・キャロラインの花嫁衣装を手がけたご高名なベルローズ夫人のことだ。あんたをちゃーんと、立派なデビュタントに仕立てあげてくれるぜ」


「奥様が生きていらしたら……えっえっ……」

「ブリジット、泣かない泣かない。泣くのはリディアお嬢ちゃんをちゃんとデビュタントに仕立てあげて送り出してからだ」


「そ、そ、そうですね。感動のあまりつい。ギデオンさんのおしゃる通りです」


「で、もう、お茶の時間でいいよな?俺たち腹減っているんだ。ミラーさんたちもみんなお茶に呼ばれるのを待ってるぜ」


「あぁ!そうでした!私としたことが。ブリジット、すぐにお茶の支度をしましょう。デザートは完璧ですから」


「はい、ホロウェイさん」

「私も手伝いますよ」

「お父様ぁ!5月の王妃様主催の……」


バタバタをキッチンを飛び出すリディアの足音が聞こえ、ホーソーン・マナーのキッチンはてんてこ舞いの人々で溢れ返った。


ミラーさん初め、ドクター・ペンローズも、大工頭のトラビスも、村人たちもみんな大喜びだった。


リディアの王妃主題舞踏会への招待状が届いたことは、子供の頃から知っているリディアお嬢ちゃんがロンドン社交界デビューするという興奮を持って、村中で大歓迎された。


「私、ダンスが上手く踊れないから」

 

震え上がるリディアに口々に皆が「大丈夫、大丈夫」と背中を押した日だった。



番外編 完




お読みいただきまして本当にありがとうございます。

感謝申し上げます。


稚拙な物語にお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。一旦、完了です!



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