第1話:【再会】
お待たせいたしました! いよいよ本編のスタートです。
プロローグから九年。十五歳になり、心身ともに(そして魔力も)逞しく成長したアルフレッド。
ついに正式な執事として、運命の配属先が言い渡されます。
十五歳の誕生日の朝、俺はかつてない緊張感の中にいた。
九年間に及ぶ地獄の執事修行——いや、父上たちの英才教育を終え、俺は今日、正式にアレン家の執事として任官される。
執事の配属先が決まるのは、執事長である父上、侍女長である母上、そして国王陛下と王妃様の四人による合議だという。
「……父上、そんなに不安そうな顔をしないでください」
「……いや、アル。お前は優秀だ。優秀なんだが……な。ああ、胃が痛い」
なぜか父上は、囚人のような顔で城の廊下を歩いている。
対照的に、母上はいつにも増してニコニコと上機嫌だ。
「楽しみねぇ、アル。貴方の『お仕事』、きっとやりがいがあるわよ?」
「は、はあ……」
母上の笑顔は、「何か(面白いこと)が起きる」前兆だ。怖すぎる。
城の応接間に通され、背筋を伸ばして待つこと数分。
扉が開き、国王陛下と王妃様がにこやかに姿を現した。
「誕生日おめでとう、アル。毎日修行の様子は聞いていたが、よく頑張ったな!」
「本当にね。真面目で誠実、その上これだけ腕が立つんですもの。……ふふ、あの子に任せるにはこれ以上の人材はいないわ」
王妃様が意味深に微笑む。
任せる? つまり、俺はどこかの王族の「専属」になるということか。
「……陛下、本当によろしいのですか?」
父上が最後のお願いとばかりに確認するが、王妃様が「もちろんですわ」と即答した。
「ではアルよ。明日より、お前を第一王女・リリアーヌの専属執事に任命する。しっかり支えてやってくれ」
「……っ、は、はい! かしこまりました! ……え!?」
反射的に返事をしてから、俺の思考がフリーズした。
お姫様の専属? あの、内気で人見知りなリリアーヌ様の?
しかも、九歳のあの事件以来、俺は療養と修行で一度も彼女に会っていない。六年ぶりの再会が、いきなり二十四時間密着の専属執事……!?
「任せたぞー」と足早に去っていく陛下と、それを追いかける不安げな父上。
王妃様は俺にウィンクを飛ばし、母上は「頑張ってね」とだけ残して、二人を追いかけていった。
……残されたのは、真っ白になった俺一人だ。
(……待て。女の子のお世話? しかもあのお姫様だぞ? 六年も会ってないのに、どんな顔して挨拶すればいいんだ……!)
混乱した俺は、無意識に胸元のペンダントを握りしめた。
六年間、毎年誕生日に送られてきた、彼女の写真入りの宝物。
執事として、プロとして振る舞おう。そう決意して深呼吸をした、その時だった。
——バァン!!
応接間の重厚な扉が、勢いよく蹴破られるような音を立てて開いた。
「アル!!」
そこに立っていたのは、ペンダントの写真よりも何百倍も美しい、一人の女性だった。
白く流れるような髪。宝石よりも透き通った蒼い瞳。スラリとした手足に、気品溢れる立ち居振る舞い。
その姿を目にした瞬間。
シンさんに封印されていた「前世の記憶」が、濁流のように脳内へ溢れ出した。
(……神田、詩織さん?)
間違いない。瓜二つだ。
前世の俺が密かに想いを寄せ、命を懸けて助けたあの女の子と。
(……そうか。俺がこの世界に生まれたのは、今度こそ、彼女を幸せにするためだったんだ。今度は命を失わずに、執事として、一生隣で守り抜くために!)
俺が記憶の奔流に打たれて固まっていると。
「アルぅぅぅーーーーー!!!!」
リリアーヌ様が、王族の礼儀も何もかもを放り投げ、涙を流しながら俺の胸に飛び込んできた。
「ぶふぉっ……!? り、リリアーヌ様!?」
「会いたかった!! ずっと、ずっと会いたかった! あの時はごめんなさい、私のせいで怪我をさせて、六年も離れ離れにして……ううっ、アルぅ……!」
胸の中で、子供のように声を上げて泣きじゃくるお姫様。
六年前よりずっと強くなったその抱擁に、俺は彼女の「重すぎる信頼」と「六年の渇望」を肌で感じた。
俺が記憶の奔流に打たれて固まっていると、彼女はさらに腕に力を込め、顔を真っ赤にして叫んだ。
「アル、大好き……! もう、絶対にどこにも行かせないから……っ!」
「大好き」という言葉。それは明らかに、ただの執事に向けられる信頼を超えた響きを孕んでいた。
俺の心臓は、前世と現世が混ざり合ったような爆音を奏でる。
(だ、大好き!? 今『大好き』って言ったか!? あああああ落ち着け俺! 彼女はまだ混乱しているだけだ、そうだ、きっとそうだ。落ち着け、俺はプロの執事だ……!)
俺は、込み上げる愛おしさを理性でねじ伏せ、優しく彼女の肩を支えて少しだけ距離を取った。
そして、涙を拭うためにスッと真っ白なハンカチを取り出し、執事の微笑みを浮かべる。
「……お言葉が過ぎます、リリアーヌ様。ですが、そのお言葉をいただけたこと、執事としてこれ以上の誉れはございません」
俺は彼女の前に跪き、その小さな手を取って、騎士のような所作で指先に誓いのキスを落とした。
「本日より、私は貴方様の執事です。もう二度と、リリアーヌ様を一人にはいたしません。この命に代えても、貴方様の執事としてお守りすることを誓いましょう」
「……あ……」
俺の「執事」としての完璧な拒絶、もとい誠実な誓いに、リリアーヌ様は顔を林檎のように真っ赤にして固まってしまった。
俺は執事だ。彼女が幸せなら、それでいい。
俺の完璧な執事生活(第二の推し活)は、こうして爆発的な再会と共に幕を開けた。
第1話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに、ついに再会しました!
……が、リリアーヌ様のタックル、凄まじかったですね(笑)。
六年間、彼女がどれほどの思いでアルフレッドを待っていたのかが伝わってきて、執筆しながらニヤニヤが止まりませんでした。
そして、ついに繋がった前世の記憶。
「執事として主(推し)を守る」と決意したアルフレッドですが、王女様の愛はすでに「信頼」という防波堤を決壊させているご様子。
「主従の線を守りたい執事」vs「その線を全力で踏み越えたい王女」の、甘すぎる攻防戦がここから始まります!
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