第9話
瞬間移動で翼の家に行き、そこからはイヅと二人で龍神界の上空を飛んで帰った真太。
いつものように2階の窓から入ろうと近づくと、家の中から聞きなれない龍神らしき高音の声がする。それに混じってパパのご機嫌な声も。
「どういう事」
イヅに聞くと、
「知らない龍神が三人も来ているよ。僕、パパんとこに帰ろうかな」
「急に遠慮するなよ、とにかく家に入ろう。まさか泊まりじゃ無いだろ。知らない奴らは、基本的にパパは泊めないから」
「ふん、どんな知らない奴か実際に見てみろよ」
イヅは何故かふてくされて言うが、真太はイヅをつれて窓から飛び込んでみると、2階には龍神用の応接室?が出来上がっている・・・何時、誰が、用意したのか応接室仕様のソファとテーブルで寛ぐ若くて見たことの無いお嬢さん龍が3龍、人型で居た。
「誰っ」
思わず叫ぶ真太、つくづく自分の不作法さが悲しい。
「あーら、いうわねえ」
「うふふ、でもかわいいっ、しんた」
「いづもかわいいっ、おねえさんがかわいがってあげるから、ないらにいらっしゃいよ。いづちゃーん」
「遠慮したいです。僕、今からアマズンに帰ります。失礼します。アボさんお世話になりました」
「いやいや、イヅ。イダパパはもう少しこっちに居て欲しいそうだよ。で、この三龍のお嬢さんの中から、気の合う方を見つけて欲しいと言っているんだ。イヅはイダパパと大人どうしの関係になるんだってね。だからイダパパと対等になる様に、お相手を選んでほしいし、戻るならお相手と一緒に戻って欲しいんだそうだよ」
イヅは真っ青になった。真太は笑いたい所を必死で我慢し、
「すごいや、イヅ。親公認の彼女選びか」
と感心してやった。すると、その内の1人が、
「あーら、うらやましがっちゃって。しんた、かわいい。あたしとつきあわない?」
真太も同じ顔色になった。
「僕は間に合っています。まだ大丈夫ですからっ」
「あーら、ないらでは、しんたみたいなたいかくのこは、みんな、かのじょがいるのよ。でも、おとこのこがすくないから、あたしたち、あぶれてしまっているの、いいこだからつきあってね。ないらがわで、みずあそびをしましょうよ。ないらでは、みずあそびをしておとこのこは、かのじょをえらぶの。きっと、きのあいそうなかのじょが、できちゃうのよ。あたしたちのほかにも、おんなのこはいっぱいいるのよ。さあさあ、ないらにいくのよ」
「行っきっま、せんからぁッ」
真太はつられて変な発音になりながら、それでも必死でお断りした。
「まぁ、しょうがないわねぇ。そうそう、あんたたちは、ぱぱにおはなしがあったでしょう」
急にマジな話題を振って来る。真太はさっさとパパに要件を言って、ずらかろうと思う。
「そうでした。パパ、西京で調べた結果、あの怪物は人間のDNAと同じでどうして怪物になったかは知らないけど、父親はUSBBの例の研究所に居る岡重一輝で、母親は・・・イヅが捜索したんだった。イヅの報告、どうぞ」
「えー、今から言うの。あのう、川岸リンと言う人で、子供の頃隣に住んでいたのが岡重一輝、岡重がUSBBの大学に行く時に、別れたんですけど、最近また会って、どうやら騙されてあの怪物作成に利用された感じです。気の毒ですが、今ショックで引きこもり状態です。利用されたと察した様で、気の毒な感じ。見つけたけど、僕は接触しなかったです。僕が話をするのは能力的に無理な感じなので。えーと、住所書いときますから」
「イヅ、報告終わったのか、じゃあ僕らはちょっとロバートたちに会ってきますから、パパ、後はよろしく、この件は僕らには無理な感じなので、解決は大人の龍神に任せますから」
「そうかい、止めるのか。彼らの始末をするとか言っていた、いつぞやの勢いは無くなったのか」
何時になく、アボの不機嫌な言い方にもめげず、真太は、
「無くなりましたねえ、僕たち、まだ大人ではありませんからね、では」
「まぁ、かぎりなくおとなにちかいのうりょくなのに。じかくないのね。だれがあなたたちのじしんをけしてしまったのかしら」
真太は、『それはあんたら。年上、強面的お姉さんが消したんですよ』と内心思いながら、イヅを連れて逃げ出す。
真太とイヅの逃げだした窓を睨みながら、美女の三人の龍神は、がっかりして、
「じゃあ、あたしたちは帰る。振られちゃったし。アボさん、パパと呼んでみたかったわ」
「せっかく若い子風なかんじで話したのに。ちっとも親しみを感じてなかったよね。失敗したね」
「100の歳の差は、愛が無ければ埋められないね。始めは愛が無いから、お見合いで会って気が合うって、不可能じゃない。でもアボさん、あたしは言っておくけど、歳の差は一番少なくて、45なの」
「まぁまぁお嬢さん方、早々と悲観しないでくれ。あいつら、急に話を仕掛けたから戸惑っているが、彼女が欲しくなる日は近いはずだからね。それはそうと、今日はリンって子の世話をするんだろう」
「そうなの、ナイラ様が、この子の事をおかわいそうと、同情されていて、あたしたちに、何とかして元気になるように癒してといわれたの。人間相手は初めてだけど、皆でがんばるの。ね、みんな」
「ええ、頑張るわ」
「がんばる、がんばる、アボさん、じゃあね、またくるかも」
「ああ、健闘を祈るよ、今日は朴念仁どもで不愉快な思いをさせて、悪かったね」
「ぜーんぜん、会えてらっきー」
真太は怖いとか言っていたが、話せば可愛い龍神界では若い方の女性達だ。真太やイヅとは年が一~二百離れているが、アボ・香奈夫婦、大統領とレディ・ナイラの歳の差に比べれば同年代と言って良いようなものである・・・とアボは思ったが、どうやら真太らの意見は違うようである。
「もう、ぷんぷんだわ、あの子たちきっ年増女と、思ったね」
「おもてる、おもてる」
「あんたら、言葉が変よ。人間の言葉が下手ね」
「うーるさい、りんのとこいくよ、しんけんにいやすよ。まじのしごと、がんばる」
若い三人のお嬢さん龍、お仕事用のきっちりスーツになり、川岸リンの居るマンションのルーム前からアクセスしてみる。
何もする気がしないリンは今朝、目覚めて一旦会社に行く用意をし始めてはみたが、いつもの様に外に出る気がしなくなり、ベッドに寝転がっていた。あの日からである。リンの会社は運良く、怪物が移動していた辺りからはそれており、無事だった。喜んで会社に通うべきだと思った。しかし気持ちが付いて行かない。
もうすぐお昼時、何か食べた方が良いかなとリンは考えたが、そのまま動き出せず次に気付くと14時過ぎになった。ぼんやりしていると部屋のチャイムが鳴った。動きたくは無かったが、無意識に立ち上がっていた。
「はい、どなた」
画面には背の高い外国の三人の女の人がいる。
「コンニチハー、あたくし達、USBBから来ました。ボランティア団体のナイラ-第3財団東アジア地区担当の・・・」
急に他の人に変わり、
「あたし、ラランでーす」
さっきの人が出て来て、
「ナナンでーす、よ・ろ・し・くっね」
「あたしはイインよー。ねえ、あたし達とお話しない」
三人ともエキゾチックな顔立ちの美人だ。それになんだか怪しげな組織名な気がして、リンは、
「いいえ、結構です」
と言うと、
「んもう、あの子達と同じよ。あたし達のどこが気に入らないのかしら」
小声で言っているが、このマイクは感度が良いようだ。リンは聞こえているが、彼女らに指摘はせず、何を話しているか興味があって聞き耳を立てた。
「めいくがけばいとかね」
「これでも、ボランティアしそうな人風にしたよ。あたしテレビで見たんだから」
「これじゃあ、おかしげに、なにされたかききだせないよ。ききださないとなかまとおもわれそう。きっとね」
「そうよね、もうすぐDNAしらべに来るはず。逮捕されるね」
かなりの早口で相談している。外国の人にしては、日の国の言葉が堪能である。真太やイヅとは異なる印象を持ったリン。そして、話の内容を聞いて、はっとする。
彼女らの内の1人が、またリンに向って、にっこりと、
「私たちはぁ、国際ボランティア連盟に加入していてぇ、国際的犯罪の被害者の救済と、心のケアを無償で行っておりますぅ。USBB大統領夫人をトップに活動するボランティア団体でぇ、決してぇ怪しいものではございまー」
彼女らのこそこそ話で、会わなければと思ったリンは、何やら解説の途中でドアを開けた。
「あーら、では失礼しまーす」