第10話
「おじゃましまーす」
外人にしては割と日の国風に、リンの部屋へ入って来た三人。
実際に会ってみると、リンよりかなり長身の女性達だ。190㎝近くあるのではないだろうか。三人揃ってリンを見つめてきて、リンは少し圧を感じた。いくら背が高いからとは言え、この圧力にリンは少し違和感を感じた。それで、少し構えて三人を見たことに気付いたようなリーダー風の女性が、にっこりと、
「お話を聞いてくださる気になって、とてもうれしく思います。私の事はラランと呼んでね」
「はあ」
妙な名だと思いながら、曖昧に笑い返すリンに、他の二人も、
「私はナナンよ」
この人も変な名。
「あたし、イインって言うのヨロシク」
イインと聞いてかなり、変な感じがして来たリンである。しかし三人はそんなリンの様子は気にせず、ラランは、
「先日は、西京に怪物が現れて、凄いショックだったでしょうね。川岸リンさん。リンさんと呼んで良いですか」
「はぁ」
「私達、あの時ショックで倒れ、病院に搬送された人を、一人ずつ訪ねて、ストレスの軽減に努めています。リンさんは西京タワーで倒れられたのですよね。怪物と防衛隊の一戦を見てしまった人は他の場所で怪物に遭遇した人に比べ、精神的なダメージがかなり顕著です。そこで私たちはリンさんの今の気持ちをお聞きして、どのように過ごせばショックの軽減が出来るか皆で一緒に考えて、前向きになれる事を見つけたら、他の方にも提案させていただきます。他の方の役に立つと言う事も自身の為になるんです。では、あの日の事、お辛いかもしれませんが、言葉に出来る事だけでもお話してみましょう」
リンは困った。ショックな事に遭遇はしたのだが、今の自分は一輝に裏切られた事の方がショックである。
「はぁ・・・」
ため息をついて、困惑するリン。
「どしたの、何かほかにも、嫌な事あったの」
イインと言う人、やけに鋭いと驚くリン。びくっとしてしまった。
「嫌な事があったんだったら、それも話してみたらどう」
ナナンが、提案した。ラランは、
「そうよね、他の嫌な事は、オフレコってことで、記録なしで聞いておきますよ。私達、ボランティアで、女性の悩みもUSBBで何時も聞いているんですよ。今回は怪物との遭遇のショックを癒すお仕事で伺ったんですけど、同時にいつものお仕事をしたって、良いはずですから」
そう言われて、リンはずっとくよくよしているよりも、彼女たちに一輝の事を、話してしまおうと思った。この気持ちのもやもやを吐き出してしまえば、少しは気持ちの整理が出来るのではないかと思った。
「実は、あたし、恋人だと思い込んでいた人がいて、その人はあたしのことなんて何とも思っていなかったんです」
「まあ、裏切られちゃったの。どんな風に」
リンの話に身を乗り出すイイン。勢いが出てリンは幼い頃からの一輝との事や、USBBについて行くことが出来なかった時の気持ち、ずっと引きずっていた後悔の様な気持ち、そして怪物に遭遇する前に一輝が来た時の顛末やら、翌日の妙な体調やら、何もかもしゃべってしまった。そうしたら何だかせいせいしてきた。と言うのも、話を聞いてくれた三人が、リン以上に憤慨してくれたり、それに、あの朝の奇妙な体調を聞いて、ラランは、
「それは、たまたまリンの体調が変だっただけで、怪物と目が合ったとかも気のせいだと思う。そして、その一輝と言う奴がどういうつもりだったかと言うと、そいつはUSBBで法律違反の実験をしている研究所の一味だから、リンから実験材料を搾取したんだと思う。子供の頃に付き合っていた子にそんな事をして、酷い奴。でもリンから搾取した細胞?かなんかは今回の怪物とは関係ないわ。考えてみてよ。前の日に搾取されて、次の日にあんなでかい怪物とどんな関係性が出来るのよ。リンのは次の実験の材料の筈。リンは酷い目に合って想像が暴走しているね。病院で医者に相談すべきだわ。気持ちを静める治療をしてもらった方が良いね。今の話はしなくて良いのよ。怪物が怖かったって言う事で、私達が報告しておく。治療対象よ、あなたは仕事先の会社には公傷で休暇を取れるから、心配しないでゆっくり治療してね。国立病院に紹介しておきます。病院には急がなくても、外出する気になった時で良いのよ。何時でも行こうと思った時に、診察に行けば良いの。公傷だって届けておきますからね」
「ありがとう、本当に・・・」
今まで知らなかった人に、誰よりも気遣ってもらい、リンは涙があふれた。実家には変な話で言い辛くて、誰も頼れなかったので、適切なアドバイスが有難かった。
「良いのよ。仕事なんだけど、仕事ですからとは言わないわ。あたし達、リンが酷い目に合ってほんとに一輝の事を怒っているのよ。USBBの警察に捕まえてもらうからね。捕まえたら、あたし達の誰かがリンに報告する。それを楽しみに待っていてね、元気出してね」
「はい、ありがとう。何だか病院に行くことが出来そう」
「良かった。きっと一輝は捕まえると約束するよ」
イインは約束してくれた。何だかせいせいするリンである。
「ハイ、お願いします」
元気の出たリンに安心した三人は、リンの部屋を後にし、
「リンにはああ言っておいたけど、実際の所どう思う」
ラランが他の二人を見回す。
「魔力で急激な成長とか促せるかしら」
「あのでかさじゃあね。どうかな」
と話しながら帰ろうとして、エレベーター前に立つと、すぐ横の部屋のドアが開いて、
「あんたら川岸さんの部屋に行っていたね」
と言いながら老人が出て来た。年は取っているがかくしゃくとした男性である。
「そですけど、私達USBBのボランティアで被害者を癒す会の者です」
イインは不思議に思って、無難に答えてみる。
「警察じゃないのか」
がっかりしているようなので、
ラランは、
「警察とも連携しております」
と言ってみると、
「そうかい、じゃあ、言っておこうかな。数カ月前から時々、あの川岸さんの部屋に夜中に何度も男が来ていたが、どうも会いに来たと言うより、忍び込んでいる様で気になっていたんだ。わしの部屋はエレベーターの隣だからチーンと言う音で目が覚めて、気が付いたんだ。いつも同じ男が、自分でカギを開けて入って行くんだよ。リンちゃん可愛いから彼氏だろうと思ったけど、それにしては、翌日会っても、リンちゃんは機嫌が良さそうでも無いから変だと思って、どうしたものかと思ってね」
ナナンが、すかさず一輝の写真を見せて警察風に、
「この男ではないですか」
と聞くと、
「そうそう、こいつだ」
「貴重な情報ありがとうございます」
と、日の国風に頭を下げた三人である。
「なんだ、警察だったんじゃないか?まあ、警察に言えてよかったよ」
老人は安心したように部屋に戻った。
三龍は、これであの怪物はリンのDNAで作られていたと分かり、がっかりするのだった。
「でもどうして前の日は、寝込みを襲わないで、リンに会いに来たのかな」
イインが不思議がる。
「もしかしたら、実験が完成して、怪物を作るために夜中に忍び込むのでは、目的には間に合わなかったのかも」
「あの日に作りたかったって、どうして?」
「人間が造った怪物が出てきたら、真太達が動き出すと思ったとか」
ナナンが推理する。
「大人の龍神と戦わすつもりじゃなかったのね、真太が戦ったら、きっと大騒ぎになるね」
イイン、納得する。
真太達が怪獣と戦いだしたら、西京は混沌としそうだ。きっと真太は人間界に出て来てしまって、怪獣映画状態だろう。防衛隊はどちらにも大砲を撃ちかねない。
イインは呟く、
「あいにく、真太はUSBBに行っていたね。奴ら、きっとUSBBに真太が頼る伝手があるとは、知らなかったんだろうね。日の国に居るものと思ったね」
「そういう事で、アボに報告しておこうか」
ラランに言われて、同意するイインとナナン。
「真太、家に戻っているかな。あたしと真太、お似合いだと思わない?」
イインは言うが、ナナンとラランも似たようなことを思っていたので、同意しなかった。
三龍はイヅのお相手候補ではなかったのか。イヅは気にしないだろうが。




