30.ずっと一緒に
色とりどりの花が咲き乱れる見事な庭園。その一区画には、まるでつぎはぎされたような場違いな畑があった。畑には、野菜が元気に育っている。
ここは王都から少し離れたジェルドの屋敷。きれいに整備された屋敷は、たくさんの使用人が働いている様子が窓から見える。ソラはそれを温かい眼差しで見つめ、畑作業を再開した。
(この野菜、収穫できそう! 畑も順調だな)
「ソラ――――――――!!」
「でん、か…うわっ!!」
ジェルドが全力で走ってきたかと思うと、いきなり飛びついてくる。
「もう、城なんて行きたくない。シリウスのやつ、いくらなんでも人使いが荒すぎるだろ」
「たまになんですから、いいじゃないですか」
宮廷魔術官長――大魔官の座に着いてから、何だかんだとジェルドの活躍は目覚ましかった。もともとジェルドは生活を魔法で便利にすることに長けていたため、それが国民に還元されることで、一気に皆の暮らしぶりが豊かになった。また、魔術官職の待遇を改善し、門戸を広げたことで、今までにはない人気の仕事になっていた。
ジェルドはというと、少しも嬉しそうではなく、在宅ワークに切り替え押し通しているのは、便利な魔法があるからこその荒業。今日のようにどうしても城へ出かけなければいけない仕事があるときは、こうしてしばらく文句を言い続けるのが恒例となっている。ジェルドにとっての天職なのではとソラは思うのだが。
「それにしても、シリウス陛下の治世になって、恐ろしいほどの改革が行われていますね。しかも、どれも成功しているか、軌道にのりそうなものばかり。シリウス陛下って……すごい人なんだって分かりました」
「言動はあれだけど、先見の明が異様にあって、人を動かすのが悪魔レベルで長けているからな。……何の取柄もない、愚か者……なんて、あの人もほんとに、何にも見えていなかったんだな」
「……」
ジェルドは父親であるローダン前王を思い出しているのだろうか。
そして、ソラはというと、相変わらず騎士団で働いている。団長トルバルドには、聖騎士団でも作ってそちらに所属しろと言われたが、聖騎士なる存在はソラ一人なのだから、作りようがない。聖騎士の称号はソラが思っているよりもずっとすごいものらしく、たまにシリウス王の警備なども任されたり、式典など重要な会に参加することがあった。(ジェルドには猛反対されるが)だが、それでもどうしても必要な場合のみで、基本は今まで通り馴染みの騎士団で過ごし、屋敷で生活する毎日だ。
「そうだ! 来週は王都の花祭りが行われるんですよ。殿下、一緒に、行きませんか」
「行く。命を懸けてでも行く。その約束、死んだとしても決して忘れない」
「……気軽に誘ったんですけど、殿下にかかると途端に命の誓約に……」
ソラは、去年の今頃、屋敷の前で立っていてこの話題を話したことを思い出す。あの時は、一方的にソラが話しかけるだけで、ジェルドには顔を会わせてもらうこともできなかった。それが今では、絶対離さないと言わんばかりのくっつきぶり。ここまで、長かったような、あっという間なような……いろいろあったことをソラは思い返していた。
「ところで……『殿下』呼びは禁止したはずだけど? いつになったら直せるの」
「う……ジェルド様。慣れないもので、ついうっかり」
「今度間違ったら、屋敷に閉じ込めて一日中離さないからね」
(それ、今の状況とそんなに変わりないような……)
「……わかりました、ジェルド様」
ソラが話すと、ジェルドは嬉しそうに頷いた。
「ところで、花祭りでは、絶対に買いたい物がある」
「え、屋台のお昼ごはんですか? 大食い大会参加券ですか?」
「ソラじゃあるまいし。ほら、これだ!」
どこに隠し持っていたのか、でーんと効果音が出そうな雰囲気で、ジェルドが人形らしきものを取り出す。
「『聖騎士ソラフィギュア~花祭りver.~』だ!!」
「……いろいろ聞いても?」
「構わない」
「まず、この私を模したであろう小さな人形は、一体どこで手に入れたのです?」
「ロイス達が是非にというので、開発費と研究の助成をしている。今までも、数多くの商品の開発を手掛けてきた」
ロイス達、というからには、以前ソラを「女神」と囃し立てた元ジェルドの使用人たちが関わっているようだ。いくらなんでも、盲目的な信仰心が度が過ぎている。ソラは身震いした。
「……わかりました。では、この人形の着ている、やたら布面積が少ない衣装はなんですか? これでは、私がいつもこのような格好をしていると誤解されかねません」
「いいことに気付いたな。ロイスと盛り上がって開発したはいいものの、少々刺激が強すぎて、俺自身もソラを独り占めしたい気持ちと、ソラの良さを大勢の人間に広めたい気持ちで、葛藤が起きている」
(なんか……堂々と言うことかな、それ——)
「そこで、独り占めを優先させることにした。したがって、祭りの日にはすぐにロイスの店へ直行し、すべての『聖騎士ソラフィギュア~花祭りver.~』を買い占めることにした訳だ」
「くだらないことはおやめください!!なんという論法ですか、それ」
「くだらないとはなんだ! 今年、これが流行る!ランキングで、『聖騎士ソラ』グッズが9位にランクインしているくらい、ホットな話題なんだからな! 売れ行きもいいんだからな!」
「……同僚たちがやたら面白がって買ったグッズとやらを私にも見せてきて、恥ずかしい思いをしていたんです。その影響でしょう。っていうか、9位ってすごいのか微妙なのかわからない順位ですし」
ソラが『聖騎士』として公の場に出ることもそれなりにあったから、姉の『聖女グッズ』が売られるのと同じような現象が起きても、そういうものなのだろうとそれなりに受け入れていた。しかし、その出所が身近な人間だったとは。ソラは眩暈を覚えた。
「……そういえば、なぜか団長の机にも『聖騎士ぬいぐるみ』が置かれていたような……姪っ子にもらったとかで」
「……あいつ、やはり追放しておくべきか」
「おやめ下さい。というか、そんな権限ジェルド様にありませんよね。自分から売り出しておいて、何なんですか」
「あいつだけは、だめだ。あとで文句を言いに行くとして……あと、ロイス達もソラのことを女神として崇拝しているから、販売された商品については特別会員価格で大量買いしていると聞いたぞ。俺だけじゃなくて良かったな」
「ランキング不正操作じゃないですか……ていうかほんと、お願いだからやめさせてください……」
ソラはがっくりとうなだれた。
「花祭りには、『聖騎士の銅像』のお披露目もするから見に来て、ってシリウス陛下にも誘われていたんですよ。……まさか、ジェルド様が関与しているなんてことはありませんよね?」
「……。大丈夫だ、十分検討し、ソラの可愛さを存分に表現した傑作に仕上げたから」
「はあ、どうも」
力なく答えたソラは、その場を離れ屋敷から出ようとする。
「おい、どこ行く?」
「……たしか、銅像は街の広場にすでに設置してあり、お披露目までは布を被せてあるはず。確認して、状況によっては破壊してきます」
「何てことを! 絶対に、阻止してやるからな」
しばらく、国を揺るがすほどの力をもった二人の、しょうもない戦いが繰り広げられ、使用人が決死の覚悟で止めることに成功した時には、すっかり時間が経っていた。
◇ ◇ ◇
すぐに訪れた花祭りは、ソラにとって忘れられない、思い出に残る一日となった。開店一番にソラグッズを買い占めるジェルドを引き気味に見守ったり、大食い大会で死闘を繰り広げる様子を引き気味に見守られたり、街の広場で気負わないダンスをしたり、初めての経験がたくさんだった。
しぶしぶ参加した除幕式でソラが見たのは、仲良く寄り添うジェルドとソラの銅像だった。あまりにも仲睦まじそうな銅像の二人の様子に、怒る気力もすっかり失われたのだった。
「な、あれで俺達の仲を、国中に見せつけられただろ?」
ジェルドは自慢げな笑顔をソラに向けた。祭りの余韻もそのままに、屋敷までの帰路を歩いている途中だ。すっかり暗くなり、月明かりがぼんやりと辺りを照らしていた。街からは、賑やかな音楽が聞こえてくる。
「いや、別に見せつけなくても…それに、結婚しているわけでもないのに、あの銅像はどうかと思いますよ」
「もうすぐ、夫婦になれる、だろ」
自然とつながれていたジェルドの手に、力がこもる。急に立ち止まり、真剣な顔で見つめてくるジェルドに、ソラの心臓はどきりと跳ねた。その目は、どこまでも真っ直ぐ、ソラの心の中まで見通すようだった。
「ソラと一緒になれる……夢…じゃないよな。嬉しい……」
「ここまできたら、覚悟を決めました! ジェルド様、死ぬまで、ご一緒します」
「はっ、死んだら離れられると思ったのか? 未来永劫、魂の行きつく先まで、ずっと一緒だ」
ジェルドらしい返答だな、そう思い、ソラは笑った。
「ジェルド様、私も大好きです! ずっと、ずっと一緒にいましょう!」
それからの二人はというと、決して『平穏に暮らしました』とは言えない波乱万丈な生活を送った。それでも、いつでもお互いを想い、慈しみ、時にぶつかり、なんだかんだと最高に幸せな人生が続いていくだろう。隣には、死んでも離れられないほど愛する相手がいるのだから。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!
ヤンデレキャラは初めての挑戦で、ちょっと世間一般からずれちゃったかもしれませんが、非常に楽しく書ききることができました。
作者の励みになりますので、最後に評価をしていただけると嬉しいです!
また、お会いしましょう!!




