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28.幸せそうでよかった

 ここ最近の王家を揺るがすような大事件で、結局ティアナの凱旋パレードは中止となった。ティアナ曰く、面倒だし無駄にお金もかかるのでちょうど良かったとのこと。


 城の中がある程度落ち着いてきたところで、姉のティアナが辺境伯領に帰る日程が決まった。王都が大変な事になっている今、ティアナの力は必要なのではとソラは思ったが、シリウスとティアナの意見は、『聖女の力は辺境の守りを固めることにこそ注力すべき』だと一致していたため、強く反対しなかった。


 ソラは、ジェルドのことを気にかけつつも、ティアナが帰るまでの護衛部隊として一緒に辺境伯領まで付いて行くことを希望した。散々迷惑をかけたのだから、ティアナには少しでも力になってから別れたい。


 聖女とその護衛部隊は最小限の人数で、静かに帰路に着いたが、街道には噂を聞きつけた大勢の人々が別れを惜しみ、詰めかけていた。ティアナも笑顔で応えてゆっくりと進み、現在はやっと王都を離れ静かな街道を進んでいるところだ。


「それはそうとて……」

 馬に乗ったソラは、半ば諦め気味に、後ろに向かって話しかけた。


「……殿下はお城でお待ちになってもよかったのでは?」

「い・や・だ。ここ数か月、こっちがどんな思いで過ごしてきたと思ってるんだ。もう既にソラ欠乏症で禁断症状が出てる」

「……それは、大変ですね」

 確かに、式典依頼ドタバタしていて、ジェルドと一緒にのんびり生活していた時が、かなり前のように感じた。それにしたって、昨日からほとんどずっと磁石のようにぴったりとくっついて離れないのだから、旅の準備だって一苦労だった。というか、今だってわざわざ一緒の馬に乗り、ずっと後ろから羽交い絞め状態にされている。


「……って、殿下! どこ触ってんですか!?」

「ソラを補給中だから、邪魔しないで」

「あっ! ちょっ! 耳に甘噛みしようとするのやめてください! 馬に乗ってるんだから、危ないでしょ!」


「……あのー、いちゃいちゃしたいなら、人目につかないところでやってくれないかしら?」

 馬車の窓からジト目で話しかけてくるティアナ。ソラはとたんに真っ赤になって俯いた。


「えっ、いや、そんなつもりじゃ……」

「こっちだって、余計な人間など一切いない、ソラと二人きりの空間に引きこもりたい」

「殿下は無理してついてきた側なんですから、余計なこと言わないでください!」

「俺は真実と本音しか言っていない」

「(こいつには話すだけ無駄ね)……ソラも大変なら、無理して付いてこなくてもよかったのよ。私だって自分の身くらい守れるんだし」


 そこでソラは、とても悲しそうな顔でティアナを見つめた。

「……私はティアナとの別れが寂しくて……最後まで見送りたいと思ったんだ……迷惑だったかな?」

「!! ソラが良いならそれでいいのよ! ソラ()ねっ」

「そうだ、ソラは正義。ソラこそ全て」

 しゅんとうなだれるソラを見て、全力で持ち上げるティアナとジェルド。二人の認識は「ソラ可愛い」で一致していた。

 

 ジェルドにも立派な馬車が用意されていて、一応ついて来てはいたのだが、結局使われることはほとんどなかった。辺境伯領までの長い道中では、ソラは今まで見たことのないような景色に感動したり、ティアナと一緒に穴場の温泉に入ったり、寝床に忍び込もうとしてきたジェルドを追い返したりと、なんだかんだ忙しくも楽しい日々を送った。


 そしていよいよ到着すると——。


「思ったより……いや、思った以上に『辺境』だね」


 ソラの笑顔も引きつる。本当に人が住んでいるのかと思うほど岩山がそびえ、深い霧が立ち込めていた。どうやら少し先には切り立った崖があるようで、風の音か何か生き物の声か分からない、不気味な音が響いてくる。


「ティアナ……本当にここに戻るの? 私も一緒に残ろうか?」


「!! だめだ! じゃあ俺もソラと一緒にここに住む」


 ソラに詰め寄るジェルドを押しのけると、ティアナはにっこり笑ってソラの手をとった。


「私も最初に来たときはね、こんな場所に追いやられた!って思って最初は腹立たしかったんだけど……国の守備の要なのよ、ここは。私の聖女の力も存分に発揮できるし、暮らしてみると案外快適なの。ソラはソラで、やるべきことを全うするのがいいと思うわ」


 ソラはだまってティアナを抱きしめた。しばらくそのままでいると、なにかが羽ばたく音が近付いてきた。霧でよく見えないが、かなりの数だろう。

 

 ばさり!と見たことのない翼の生えた獣が降り立つと、そこには人が乗っていた。青緑色の珍しい髪色、金の瞳の、すらりとした男性。王都では見かけない異国風の服装。その男性は、獣から飛び降りると、ティアナのもとに猛ダッシュで近付いてくる。

「アシェル様、お久しぶりですわ」


「ティアナ……何しに帰ってきた!!」


 開口一番の怒号。

(この人が辺境伯様か……。 ティアナ、歓迎されてない……?)

「アシェル様程度のお力では、この地は守り切れないと王家も判断しましてね。仕方なしに、戻ってまいりましたの」

「はっ! お前などはなから戦力外だ! せいぜい王都でぬくぬく暮らしてろ」

「ふっ、私がいない間に、また『霧』が濃くなったようで。あなたが助けを請うているなら、力を貸してあげても、よろしくてよ」

「だ、だれがお前などの力を借りるものか! 国が闇に覆われる方がマシだな!!」


「いえいえ、アシェル様、それはちょっと……」


 周りに降り立っていた部下らしき人達が、弱弱しくツッコミを入れている。ソラはその様子にピンときた。


(これ……二人は本当は仲が良いやつだ……! 周りの人たちの何とも言えない生暖かい目……見覚えがあるし)


「ティアナ、幸せそうでよかった!」

「え!? ソラ……この状況のどこを見ての感想!?」

「誰だ、お前は。……なっ、ティアナに似ているけど何か、違う……?」

 そこでやっとソラは辺境伯に紹介されることとなり、辺境伯領にジェルド共々数日滞在して帰ることになった。

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