夢か現か
通勤途中で出会ったのは。
そんな話。(約2500字)
※ジャンルはパニック。一部流血描写ありますので、苦手なかたはご注意ください。
朝の通勤途中に大きな地震が起きた。
あまりの揺れに地面に膝と手をつく。スーツの汚れを気にする余裕はあった。どうにもできない地震に対しても内心で悪態をつき、混雑する駅を出たところで良かったと、のん気にそう思った。
揺れが収まる瞬間に轟音が響いた。
何の音か瞬時には思い至らず、たとえるなら、電車の急ブレーキ音、ジェットコースターの金属が擦れる音、黒板を引っ掻く音。
耳障りな奇妙な音は、空気を振動させるようだった。
駅ビルが倒れる前兆かと辺りを見回したが、他の人々も何かの変化を見つけられないでいた。
また轟音。
「なんか、映画に出てくる恐竜の鳴き声みたい」
誰かが言った。そんな馬鹿な。
そして地震。今度は短い。また揺れる。収まる。
「うわ、怪獣が歩いてるみたいじゃね?」
また別の誰かが言った。
ハハッ、馬鹿な。恐竜や怪獣なんているわけがない。象が動物園から逃げ出したと言われた方がまだ納得できる。いやこれは地震だ。象の大群でもこんなに揺れるわけがない。
しかし、短時間にこれだけ揺れては最新の建築物でも崩れるかもしれないし、ビルから離れよう。
そう考えたのは俺だけではなく、車が動かない道路にはすでに人がいっぱいになっていた。もしもの時には乗せてもらえるようドライバーと交渉してる人もいる。なるほど。
「……え……?」
道路の先、向こうのビルの間に、それはいた。
テレビや映画の、それこそ怪獣のような、巨大な何か。
「うわ、プロジェクターの技術すげえ」
近くの誰かが言った。
プロジェクター。このタイミングで悪趣味な。
動かないプロジェクター画像に息を吐くと、先程とは違う音階の轟音が。そしてプロジェクターの怪獣が新たな怪獣に倒された。また地震。
俺は、俺たちは何を見せられているのだろう?
ギャアアッ、ゴォアアッ、とビル群の向こうで緩慢に動く怪獣たちをただ眺める。
「おおすげえ!もっと近くで見ようぜ!」
と、大学生と思われる若者二人がスマホを構えて走って行く。すると、怪獣たちが壊したビルの破片が飛んで来て二人を直撃。辺りに埃と血飛沫が舞った。
は……?
「ひ、い、きゃああああっ!」
その近くにいた血を被った女性があげた悲鳴に、混乱していた頭が叫んだ。
逃げ―――
◇
「ふむ。怪獣の発生直後の記憶でここまで鮮明なものが残っていたとは、重畳」
「しかし、この記憶が一番古いものとはいえ日本が怪獣の発生源かどうかは確定いたしかねます。怪獣の上陸は朝鮮半島、カムチャツカ半島、中国大陸沿岸、インドネシア諸島とほぼ同時期でしたし」
「地殻変動の記録から怪獣の卵が日本へ集まった可能性が一番高いですが……」
「卵の排出口という推測か」
「ええ。そして温暖化による海水温の上昇が卵が孵る条件に合ったようですから、海流に乗れば被害は世界同時だったでしょうね……」
「日本がいち早く総力をあげて怪獣を足止めしてくれたおかげで主要各国は月面に辿り着けて、先ごろには火星への移住が決定されました」
「日本の防衛力の柔軟さは特筆すべきものじゃった。日本壊滅は純粋に損失じゃ。だが、まだ地球には彼奴らがいる」
「ええ。怪獣の生態をスーパーコンピュータが解析し終えるまであとどれほどかかるでしょうか……」
「そうじゃなぁ。仲間意識はなく、対峙すればどちらかが事切れるまで戦う。そして目につく物は全て破壊する。探査機での観察から番を持つ様子はみられず、死骸は風化しない」
「食事は一切せず、なのに火や熱光線を吹いたりと、そのエネルギーはどこから得ているのか。傷からは赤い血を流すし、あの硬い皮膚の下は肉なのは記録にありますが、そうなるとやはり生命活動として食は、または食に代わる何かは必要で、生命であるなら死骸が風化しないのはあり得ない」
「そう……こんなにもわからんことばかりでは解明や解析は意味のないことかもしれん。だが、彼奴らが宇宙空間を越えて月まで来ないことを証明しなければならん」
「探査機で欠片以上の大きさの死骸を持ち帰れればいいのですが……」
「世論は怪獣から安全な場所へとにかく離れたい、じゃからな。彼奴らの放つ生物への汚染物質のこともあるし、まあ、不安は理解できる」
「私たちが地球に残ったところで、いまや十万の怪獣がいては生きるのが難しそうです……」
「すでに地球の大気には生物には致死量の放射能が漂い、森林はあらかた燃やされてしまい残った草も踏み躙られて育たんし、海の底でも彼奴らは生きていられるしのぅ。最近は地中を掘り進む種も現れたし、儂らが地球で彼奴らから隠れ住むのは難しそうじゃ」
「……まだ、卵はありますかね」
「……卵から孵るまで生体反応が出ないですし、ないと言い切れる証拠もありません……」
「卵から孵るくせに古代の恐竜とも全く違う。こうなると彼奴らこそが宇宙人と言いたくなるわい」
「できれば地球外生命体とは友好的に出会いたかった……」
「地球から発生しましたけどね……」
「……それな」
「やれやれじゃな。と言っても儂らは模索するしかないが」
「「 はい 」」
「では、記録を撮ったこの脳は処分じゃ。日本人のようじゃから火葬してやりたいが、宇宙葬の激安さには敵わん」
「月基地では保管場所はないし、墓地もなければ、新たにロザリオを作る材料も予算もない、データのみ。状況のせいにするにしても世知辛いですね……」
「ほんと、それな」
「新天地で旧文化の復興ができるかは、その土地に降りて生活してみんとわからん」
「復興か……火星ではどうなりますかね」
「とりあえずまずは地下生活でしょうね」
「あー、青空を夢見るのももう無理か……地球にいた時にもっと研究室から出ておけば良かったなぁ」
「ふふ、基地にいる全員が思っとるじゃろな。いや、地球を出た全員か」
「こうなってつくづく私たちにとっての奇跡の星だったと思い知りますね」
「まったくよ。まあ、いまさらじゃ」
了
オチがなくてしょーもない!。゜(゜´Д`゜)゜。
前半は『だーれだ企画』(参加者を当てる企画)に参加するつもりで書いていました。擬態するため(笑)、私には珍しくパニックジャンルです。
怪獣好きとSF好きなかたにはお叱りを受けそうですが、この短編集に入ってるということでお察しください…(。-人-。)




