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白百合終末論  作者: 沢ワ
1章:プロローグ
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2.綾瀬百合の異常

 二話目から失礼します、初めましての方のほうが多いでしょうね。

 初めまして、これからよろしくお願いします。

 それは漢字テストで居残った次の日のことだ。

 色素がない百合にとって体育は生命の危機だ。

 肌に紫外線をあてつづけると皮膚がんになる。ただでさえ病弱なのだから、これ以上持病を増やす必要もない。

 そして、百合にとって直射日光はかなり危険だ。

 まだ五月だというのに夏のような天候。冷夏とはなんだったのだろう、25度のじめじめした空気は百合の意識を即座に刈り取っといたのだった。

「無理しないで下さいと言ったでしょうに。死んでしまいますよ?」

 かかりつけの病院でお説教されていた。

 ちなみに百合は無理をしていない。普通に運動していたら

こうなったのだ。ただ、アリエス医師が言いたいのはそういうことではなく、

「最近まで意識不明だったのに、あまり運動しない方がいいです」

 百合は先月丸一ヶ月インフルエンザが原因で生死の境をさ迷っていたのだ。そんな絶望的状況を打破したアリエス医師の腕にも驚きだ。

「取り敢えず、体育の時間は教室で勉強していなさい。読書がいいですよ、本なら貸します」

 アリエスは読書が趣味。ライトノベルやBL小説を読んだりしていると思えば有名な作家の作品を読んでいたりする。

 今日取り出した本はバトルラブコメ作品だ。ライトノベル大好きな百合にとっては好みドストライクだったが、今は読んでいる本があるので遠慮しておく。

 アリエスも髪は白い。生まれつき、と言うより過剰なストレスで白髪になった感じ。それでも白人なので色素は薄い。日光のおそろしさがわかるのだろう。

「ああ、そういえば今年はアレルギーを調べてませんでしたね」

「今日ですか?」

 そう言ってアリエスは採血用の注射器や消毒用ガーゼを取り出す。百合にとって採血や点滴、注射なんかは日常的なものなのでそこまで怖くない。

 ゴム紐で静脈が見やすいように二の腕を縛る。結構きつく縛っているので意外と痛い。

 そして、針が肌に沈む。痛みで涙目になる。血が少しこぼれ、

 針が溶けた。

「は?」

 アリエスが声を上げる。床に落ちた百合の血液がジュウ、と煙を上げる。

 まるで銅板に()()の薬品を垂らしたみたいに。

 赤黒い液体は、白い煙を上げながら金属製の針を溶かしていく。

「あ、アリエス先生?」

「……これは驚いた」

 そう言うと彼女はポケットに手を入れる。取り出したの

は、透明な針を持つ注射器だった。

「アレルギー検査は、なしです」

「へ……?」

「桜さんを呼んでください。仕事とか関係なしに」

 そう言うと正常な手順で採血を行った。赤黒い血液は何も溶かさずおとなしく容器に入っている。百合の頭はこんがらがったままだった。

 そして、アリエスの上ずった声から、今起こったこと只事ではないことがはっきりとわかった。



 綾瀬桜は感情も表情もほとんど揺れ動かない女性だ。

 自分の妹が亡くなったとき以来感情が死んだようになっている。

 そんな彼女は『やるときはやる』性格だが、妹の娘である百合に対してはとてつもなく心配症である。

 百合の『産みの親』である綾瀬蘭は、生まれつき病弱で出産後に衰弱死してしまったのだ。百合も同じく病弱だ。妹思いだった桜は連絡を受けその娘も失うのでは、と心配になり職員会議中に抜け出してきたのだ。

 しかし、病院について指定された部屋に入った桜が見たのは足をぶらぶらして眠そうにしている百合だった。

「単刀直入に言います。百合さんは、やはりというか、能力者です」

「そうか」

 心配して損をした、と言った感じで答える桜。一方百合は、というと

「なんでそんなあっさりしてるのお母さん!? 捕まっちゃうんだよ!?」

そう言った。実際一般認識では『ミュータントは悪いもの』だ。善悪問わず収容所に入れられるというのもあってこんなふうに明かされ、母親はそこまで気にしていないのはおかし

いと思ったのだ。

「今まで秘密にしてきたが私もアリエスも能力者だしな」

「なんで今言うの!?」

 コーヒーを飲みながらのんきに言う桜。アリエスもアリエスで欠伸をしながらわけのわからない白い毛玉みたいな生物たちにカルテを運ばせている。

 その生き物は大きな複眼のある蜂の羽が生えた妖精みたいだ。大きさは5cmくらい。百合はそれが可愛いと思った。

「百合さんは人間にない臓器を持っている可能性があります。ミュータントは先天性のものですから、きっと生まれつきあったのでしょう。こういった肉体変質系能力は遺伝性でおそらく蘭さんにもこれと同じ能力があったでしょう」

 アリエスはカルテをめくる。呆気にとられる百合を少し見たあと、アリエスはこういった。

「血液中にインフルエンザウイルスなどの病原体54種類、今まで処方した薬の成分すべて、スズメバチやテングタケなど生物由来の毒89種類、未知のウイルスや菌類の胞子が数えきれないほど。10mlの血液を散布するだけでバイオテロが起こせるでしょうね」

 鳥肌が立った。ただしそれだけでは終わらなかった。

「百合さん、今月に入ってくしゃみや咳、蕁麻疹(じんましん)はでましたか?」

「でて、ませんけど」

 いつもなら毎日のように咳が出て、マスクは欠かせない。百合は2ヵ月に一度は喉から出血するほど咳が激しくなり病院に行く。

 今月はたったの一度も出ていない。いや忘れているだけかもしれないが、忘れるほど少ない咳なんて今までなかった。

「今までの病弱さは、未熟な『臓器』……毒嚢(どくのう)とでも呼びましょうか、未熟な毒嚢が蓄積した毒素によるものでしょう。百合さんはあのインフルエンザの重症化がきっかけで毒嚢が成熟し死ななかった」

「つまり、能力のせいで危なかったと?」

「そうですね」

 体の中の得体のしれない臓器。百合はへそのあたりをじっと見つめ、考えた。

『収容所に行けば人を傷つけずに済む』。

「収容所に行けば迷惑がかからない、なんて思っているんだろう、百合」

 顔に書いてあるぞ、と桜が百合の肩をつかむ。

「私を一人にするな」

「だ、大丈夫、そんなことしないから…………」

 しばらくしてから、アリエスがこんなことを言った。

「能力の名前を決めたり、私と特訓するのもいいでしょう」

「なんでですか?」

 正直わからない。百合としてはそんな能力はないものとして扱いたいのに。

 そんな心も顔に書いてあるのか、アリエスはこんなふうに答える。まるで用意していたかのような回答だった。

「名前をつければ愛着がわきます。特訓は能力が勝手に人を傷つけるのを防ぐのにはとっても重要です」

「じゃあ、おねがいします、先生」

 名前は説明から決めた。

 『バイオハザード』。

 生物兵器そのものであるこの能力とどう向き合っていくか、考えものである。

能力なんかが出てきたらここで解説しちゃいますね。

【バイオハザード】

所有者:綾瀬百合

区分:肉体変質 肉体強化

概要:

綾瀬百合に突如発現した能力。毒を溜め込み生成する臓器を作る。生物としては逸脱していてフグやハブとかがもつ毒はもちろん自然に存在しない科学薬品、生物かは微妙だがウイルスすら作れる(はず)。

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