81.詰みだ、豚野郎
「やるな……!」
ガルバスの隣にいるヤンが小さく呟いた。
「……ああ。さすがは天下の〈星芒騎士〉、といったところか」
黒装束の男、ロックフェルトも同意する。
その視線の先には、輝く武器を振るう白い鎧の騎士たち。
中心にいるのは一人薙槍を目にも止まらぬ速度で振り回すシュカだ。
「『プレート持ち』のアタシたちが掠んじまうなんてねぇ。特にあの槍の坊や、ありゃ間違いなく黄金等級クラスだ。しかもなかなかに男前じゃないか」
巨大な戦斧を肩に担いだベレッタも、いつの間にかガルバスの隣に来ている。
「おめえら、何をサボってんだ。敵はまだ残ってるじゃねえか!」
髭面の大男が同行した冒険者たちに一括する。
「そうは言ってもよ、ガルバス。もう時間の問題だと思うぜ?」
ヤンが顎でシュカを指した。
シュカの周囲には三人の〈星芒騎士〉。
そしてさらにその周りには八つの上位種の死骸が転がっている。
すでに立っている妖魔はオークロードを含めて三体のみだ。
オークロードを護衛していた十体の猪面鬼も、一族の中ではエリートだったのだろうが、四人の〈星芒騎士〉と四人の上級冒険者の敵ではなかった。
次々に物言わぬ肉塊と化していく。
特にシュカの活躍は凄まじく、一人ですでに四体を屠っていた。
「何言ってんだい。上位種なんて何匹いたって関係ないだろ。メインディッシュはこれからだよ」
そう言ってベレッタは妖艶に笑い、唇を舐めた。
「分かってるんならさっさと行くぞ。……星の騎士たちにその”メインディッシュ”を取られちまう前になあ!」
ガルバスはもう一度怒鳴ると、戦槌を握り直す。
「まあ、確かにもちっと活躍しねえと、報酬を弾んでもらうのも気が引けるしな」
「違いない」
ヤンとロックフェルトが頷いた。
「じゃあ、誰が貴族種にトドメを刺すか、競争と行こうじゃないか!」
言うが早いか、戦斧を振りかざしてベレッタが地を蹴る。
「乗ったぜ!」
「望むところだ」
「俺様が勝ったら、お前ら一か月は俺様に飯と酒を奢れよ」
三人の冒険者が黒髪の女戦士の後を追って駆け出す。
丁度その時、シュカの薙槍が最後の猪面鬼の心臓を貫いていた。
残るは豚面鬼将のみ。
こちらは〈星芒騎士〉四、『上位冒険者』四。
圧倒的な戦力差だ。
それでもなお、豚面鬼の貴族種も恐ろしく強力だった。
先日退治した小鬼将と同じように、暗い光を陽炎のように立ち上らせながら、驚異的な怪力で巨斧を振り回す。
それまでほぼ無傷だった騎士たち・冒険者たちも、大小さまざまな傷をその体に刻まれていく。
だが、豚面鬼の将の奮闘も数分が限界だった。
——ザンッ!!
シュカの輝く薙槍が、ついにオークロードの右腕を切り飛ばす。
豚面鬼はたまらず呻き声とともに片膝を着いた。
切断された腕とともに巨斧が宙を舞い、重厚な金属音を響かせて石畳の床に落ちる。
「詰みだ、豚野郎」
ブンッと槍を振って、シュカは肩で息をしながらも、その切っ先をピタリとオークロードの喉元に向ける。
「……ふう、やっぱあの坊やにはかなわないねぇ!」
肩で大きく息をしながら、ベレッタが呟いた。
——その時。
「待って!」
開け放たれた扉から、若い女の声が響く。
凛とした美しい声だが、強い焦りの音が混じっていた。




