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79.嗚咽の悪魔

「——この圧力!……まさかまた【怨嗟の悪魔】か!?」


 思わず片手で耳をふさぎながら、シュカはその異様な怪物に妙な既視感を抱いていた。


「ちがう、あれは【嗚咽】よ」


 ルシアが、それを見据えたまま訂正する。


「【嗚咽の悪魔】……って、どっちにしろ三大悪魔じゃねえかよ!」


 髭面の大男が叫ぶ。


小鬼将(ゴブリンロード)の時と似ている……!?」


「そうね。似ている。……でも、少し違うところもあるわ」


 シュカの呟きを拾って、ルシアは静かに答えた。


「でも大丈夫。アレも含めてここは全部私たちがやるわ。私が先にアレを斃せば、あの時と同じように、()()()()()がなくなった魂は霧散する……はず」


「あん?()()()?」


 ルシアの呟きに怪訝な顔をする髭面の冒険者だったが——


『うううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううう——っ!!』


 凍り付くような絶叫。


 ——次の瞬間、【悪魔】の髪が鋭利な針金のように硬質化し、爆発的に広がった。


「がっ!?」

「うあああ!!」

「ぐふっ!」

「ブヒャアアアアッ!」

「ゲヒャアッ!!」


 兵士たち、冒険者たち、そして豚面鬼(オーク)たちの悲鳴が重なる。

 人間も妖魔も関係なく【嗚咽の悪魔】の周囲にいた十数名の身体が、無数の髪に貫かれていた。


「や、やべえな……!一瞬で八人も殺られちまった……!」


 髭面の男の声は焦りで掠れている。


「……大丈夫、こっちは誰も死んでないわ。まだね」


 光が一閃し、鋼線を超える硬度を持つ【悪魔】の髪がはらはらと落ちる。


「あ、あれ?」


 髪に貫かれ絶命した妖魔たちがバタバタと床に崩れ落ちる中で、同様に攻撃を受けたはずの人間達は悉く膝を着いてはいるものの、致命傷を受けた者はいないようだった。


「……防御魔法か!にしてもあの一瞬であの数を同時に防いじまうとは、さすがは【黄昏の魔女】と言ったところだな……!本物の魔女の末裔って話もあながち嘘でもなさそうに思えてくらぁ」


 髭面の男がゴクリと喉を鳴らす。


「あまり得意じゃないから、致命傷を防ぐのが精いっぱいだったけどね」


 【悪魔】に赤い瞳を向けたまま、ルシアは続ける。


「シュカ、早く行って。とにかく、豚面鬼将(オークロード)は逃がさないで」


「了解」


 シュカは短く答えると、髭面の男を振り返った。


「ええと、アンタは……」


「ガルバス。これでも一応、白銀等級(シルバー)だ。騎士の旦那」


 戦槌で群がる豚面鬼(オーク)を追い散らしながら、髭面の大男——ガルバスは一瞬だけシュカに顔を向けニッと笑った。


「シュカだ。これから俺達は本隊と別行動で貴族種の討伐に向かう。ガルバス、アンタも力を貸してもらえるか?他にも腕の立つ冒険者を三、四人見繕ってもらえると助かるんだが」


「……おう、いいぜえ!そんなら、俺様を入れて四人で良いかい?今日は俺様以外にもプレート持ちがあと三人いるんだ。”貴族種”が相手となりゃあ、生半可な奴らを連れてくとこっちの被害も大きくなるからなあ!」


「ああ、バッチリだ。話が早くて助かる」


 シュカはガルバスに向かって頷くと、眼前の豚面鬼(オーク)を蹴り飛ばして突き刺さった薙槍(グレイヴ)を引き抜き抜いた。


「ヤン!ベレッタ!ロックフェルト!俺様についてこい!今から大将狩りだ!」


 ガルバスが声を張り上げる。格闘家風の軽装の男が、戦斧を担いだ露出の多い黒髪の女が、両の手に鋼鉄の鉤爪を装備した黒装束の男が、ガルバスの呼びかけに応じてこちらを振り返る。


「なんだい、ガルバス!その大将首ってのは、あの上位魔族(グレーターデーモン)より歯ごたえあるってのかい!?」


 ベレッタと呼ばれた浅黒い肌の女が、長い黒髪をかき上げて怒鳴る。


「馬鹿言えベレッタ!その悪魔(グリモア)はお前の手にゃ余る!魔女さんに譲りなあ!」


「なんだってぇ!」


 ベレッタは反論しようとガルバスを睨むが、


「ちっ。……気に入らないけど、確かにアレはアタシにはちょっと荷が重いかもね」


 【嗚咽の悪魔】とルシアへ視線を向け、小さく舌打ちすると、シュカとガルバスの下へ駆け出す。


「……仕方ないね、手伝ってやるよ。当然報酬ははずんでくれるんだろうねえ!」


「そいつはギルドか隊長さんに直接交渉してくれや」


 合流する女戦士にガルバスはニヤリと笑って答えた。


「じゃあ隊長、俺らは行きます」


 シュカはルシアの背に短く声を掛け、広間の奥の階段へ駆け出す。

 それに三名の〈星芒騎士〉と、ガルバス達冒険者四名が続く。


 ズガガガガガガアアアアアァァァンッ——!!!


 次の瞬間、耳を劈くような轟音と、目もくらむような雷光が大広間を支配した。


「!?」


 ルシアの右手から放たれた稲妻が、シュカたちから奥の階段までの間にいた豚面鬼たちを一気に焼き払っていた。

 黒焦げになった妖魔の死骸がプスプスと煙を上げながら転がっている。


「こいつぁ、たまげた!……道ができちまったよ」


 冒険者の一人、格闘家風の男——ヤンがヒュウと口笛を吹いた。


「いってらっしゃい。頼んだわよ」


 ルシアは振り返らずに、声だけでシュカたちを見送った。


 シュカたち別動隊は階段に向かい、ルシアが作った道を一直線に駆け抜けていく。

 仲間の焼け焦げた死骸を踏み越えて、豚面鬼たちが阻止せんと群がるが、その悉くを蹴散らして進む。


 ——【嗚咽の悪魔】は、動かない。


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