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76.ミレイユとモニカ

 そこで少し言葉を切ってから、少し遠い目をしていたモニカはもう一度アリスに正面から視線を向けた。


「……と言っても、これは雲をつかむようなお話なのだけれどね。まだ手掛かりすら、ほとんど見つけられていないのだから。初対面のあなたにこんな話をしたのも、実のところ少しでも情報を得られれば、という打算もあるの」


 そう言ってまた肩を竦めて見せた。


「そうでしたか……すみません、少しでもお役に立てればと思ったのですが……生憎、『呪い』には詳しくなくて」


 アリスはあまりに悲運なセイレーンに、何の力にもなってやれないことを心底残念に思った。


「そう?あなたにも、()()()()を感じた気がしたのだけれど……」


「?」


「ごめんなさい。いいの、忘れて……それに今は何も知らなくても、あなたたちみたいな実力者なら、いずれどこかで貴重な情報を耳にすることもあるかもしれないでしょ?今はそう言う協力者を少しずつ増やしていくのも大事だと思ってるの。もちろん、その時は御礼をたっぷりするからね」


「……分かりました。何か情報がつかめたら、すぐにお伝えします。軍事機密でない限りは……ですが。礼などはいりません。私も、少しでもお力になりたいですから」


 アリスは嘘偽りなく、本心からそう答えた。


「ありがとう、心強いわ。ちなみにこの話は他の人には内緒でお願いね。あなたのお仲間までならいいけれど」


 そう言ってモニカは微笑んでから、


「……本当はね、あの子くらいの能力(ちから)があれば、自分一人が生きながられるだけなら、翼を丸ごと失うことはなかったのよ。でもミレイユって、ああ見えてホントはとても優しい子だから。なんだかんだ言いながら傷ついた人を見捨てられなくて——いたっ!」


「?」


 話の途中で突然、先のとがった耳を抑えて小さな悲鳴を上げるモニカにアリスは首を傾げる。

 だが、青髪の美女は「大丈夫、何でもないの」と笑って答えたので、アリスはふと湧いた疑問を口にした。


「……もしかしてミレイユさんはみなさんが引き受ける『代償』を少しでも抑えるために、あえて不良っぽくしてるんですか?」


 「呪いの『代償』は彼女の”大切な者”を傷つける」とドワーフの大魔導は言っていた。

 もしかしたら”大切な人”に当たらないようにするために、敢えて仲間たちに不機嫌そうな態度を取っているのだろうか?


 ——『()()()()()なんてことがそもそも可能なものなのか、アリスには分からないが。


 だが、それを聞いモニカは笑って首を振った。


「うーん、それはちょっと違うかしら。私たちのパーティに入る前から、あの子はあんな感じよ」


「あ、そうですか……」


「食料調達のためにやむを得ず人里に下りたときなんかは、いやらしい目で見てくる男の人はとりあえず片っ端から半殺しにしたって言ってたわ」


「……」


「そう言えば私たちがあの子に最初に会った時、ガンドルも危うく死ぬところだったわ」


「も、もう大丈夫です、良く分かりました......」


 なんとなくいたたまれなくなったアリスだったが、それでも疑問は残る。


「でもじゃあ、普段のあのイメージは……?」


 ギャップがありすぎる、まるで二重人格のようなあれは何なのだろう。


「ああ、それはね。普段猫かぶってるのは、ちょっと理由があって——っと」


「!」


 ——キィンッ!


 甲高い音。

 モニカの顔の真横、空中に直径三十センチほどの円形の光の板が出現。そこに何かが衝突した音だ。


「もう。さすがに勝手に言わないってば」


 何事もなかったかのように、モニカは苦笑する。


(——魔法の(シールド)?……『呪言』か!)


 アリスが貴賓席に目をやると、ドワーフの手を取りこちらを直視する、セイレーンの姿。


 “的”を絞りに絞った呪いの言霊を、あそこから放ったと言うことだろう。


 威力が豆鉄砲程度だとしても、あの距離からここまで到達するのは、アリスの知る攻撃魔法の定義で言えば『超長距離魔法』——一般に『戦闘魔法』ではなく『戦争魔法』に分類されるレベルだ。


 ——にも関わらず、繋いだ手を介してその『代償』となる呪いを引き受けたはずの大魔導士が、鼻の下を伸ばして喜んでいるように見えるのは、遠すぎるゆえの目の錯覚だと思いたい。


 それでいて、場内に響き渡る彼の長いウンチクは、相変わらずまだ続いている。器用なドワーフだ。

 観客にしてみれば、何故解説中にガンドルがセイレーンの美女と手を繋いでいるのか、不思議で仕方ないはずだが。


「ごめんね、アリス君?これ以上は言っちゃダメみたい。あの子はああ見えて恥ずかしがり屋なの——おっと。——代わりに別の質問になら答えるわ」


 事も無げに三発目の呪弾を二回目のシールドで防ぎながら、モニカは微笑んだ。


「別の……」


 先ほどの答えがどうにも気になるが、どういう訳か、彼らの会話は聖者たちにすべて聞こえているようだ。その疑問を口にすれば、今度は間違いなく自分にも呪いの言霊が飛んでくるのは目に見えているので、アリスは話題を変えることにする。


 アリスにはもうひとつ、モニカに聞きたいことがあった。


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