表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄明怪異目録  作者: 立花 みかん
第二章
20/20

第十六話『大切なもの』Ⅱ

「鏡子、体に異常は……」


 貴人が膝をつき、鏡子の肩を抱いて顔をみている。鏡子は僅かに顔をそらして平気だ、と伝えているようだ。


「なぜあのようなことを……?」


「人魚の肉……だから、食べればいいと思いました。正解、でしたね」


 鏡子はまるで勝ち誇るように笑うと、ゆっくりと貴人の手を祓う。そうしてまた白い花を探す。目にかかる髪を祓う左の視界に、赤い羽根が舞っていた。


「……あちらですわね」


「鏡子……」


 貴人の声も空しく、鏡子は進んでいく。赤い羽根は落ちては水に溶けて、あたかも幻想の罠だとわかる。でも、行かなければ。

 一刻でも早く、この事態を納めなければならない。

 腹に飲み下した是は、何か悪さをするだろうか。お腹をさするも、今はどうしようもない。……鏡子はわかる。きっと大丈夫だと。安倍晴明の生まれ変わりと言われ続けるこの魂は――……本当の本当にその時じゃないと、きっと、死なないだろうから。


「 おねえちゃん……見て、鳥さんが死んでるよ 」


 本当に、死んでいる。

 幼子が指さす少し遠い向こうに、大きな赤い孔雀が死んでいる。


「 ねえさま……死にたくない…… 」


 幼子は、鳥の死骸の近くで泣いていた。

 わけがわからない。この怪異は鏡子に何を見せたいのだろう?


「朱雀……朱雀……」


 鏡子は声をかけながら、恐れずに近づいていく。目の前で足を止めて、幼子が泣くのを傍目に鳥に手を伸ばした。








 ずっと、認めたくなかった景色がある。

 此処に居ることが理解できなくて、私はただただ帰りたかった。

 故郷の空に飛ぶ、大きな赤い鳥。それはたまに言葉を喋って私と遊んでくれたんだ。

 誰も理解できない、私だけのお友達。そういうお友達が、私の周りには生まれた頃からたくさんいた。

 その中でもこの鳥は一層お喋りで、小さい私を何度も何度も気にかけていた。

 ――そんな過去を、首切り落とす。

 鳥の首を掴んで、持ち上げて、力を籠める。

 泣く幼子の声は絶えず、鏡子はただただ右の手で捻じ切ろうと首を絞める。

 終わりというものは、唐突なのだ、いつもいつも!

 だから繰り返す。視界をぼかして、その痛みをぼかしている。






「……花が……」


 鏡子が我に返ると、右手に掴む鳥からこぼれた血が、足元の白い花を濡らしていた。

 そのまま鳥は肉塊と化し水面に落ちていく。辛うじて鏡子の手のひらに残る肉塊を、鏡子は見つめていた。背後の二人も見つめている、きっと舌鼓む……彼女の背中を。そうとも、鏡子はそのまま掌に舌を這わせた。

 嚥下するリズムに合わせて、道が開かれていく。

 嗚呼、――美味しい。から、進もう。探そう。次の肉を。

 小鳥が飛んできて、鏡子の肩に止まった。火の粉を纏う鳥は、小さく鳴いて鏡子に己が存在を示す。

 鏡子は小さく鳥を撫でると、次の花を探して足を動かした。その瞳はどこか虚ろで――プロフェッサーと貴人は顔を見合わせ、すぐに鏡子を追いかける。二人の幼子も、手をつないで鏡子の傍を歩いていた。

 そのように彷徨う水面の上に、従者と一人は言葉なく付いていく。プロフェッサーは何か言いたげに貴人を見ていたけれど、その感情の掴めない瞳が返されただけで彼らの中に意思の疎通は無かった。怪異はそれでいいのかと思ったが、それが彼らなのだろうと留まることを選択する。

 鏡子は探している。ふらふらと、まるで見えない何かに導かれるように。


「 安部さん、大丈夫やろか。練習にこんで、もう本番まで日数がない 」


 鏡子はその声に、足を止めた。


「 一緒に練習て言うたのに。来てくれへんね 」


 鏡子の視線の向こうに、罪悪感が形をして立っていた。


「 やっぱりわたしとの練習は、嫌やったんかいな…… 」


 ちがう、と言おうとして指が唇が動かなかった。

 花は姿を変える。


「 鏡子、なぜ父を殺したんだ 」


 目を見開く。鋭い憎悪が、こちらを見ている。


「 鏡子、蘆屋の血は存在は、そんなに――。鏡子、なぜ、なぜ! 」


 プロフェッサーが鏡子を見る。鏡子の凍った顔は、温度を変えていく。


「 姉さま、いつもお帰りをお待ちしております。心配です、姉さま。だって姉さまは――弱いから…… 」


 鏡子は、一歩ずつ歩き出した。貴人が真後ろに続く。


「 姉さまはこの鈴佳、を……見捨てたり、しませんよね? 」


 鏡子の手が、花の首に掛かろうとしている。この妹の形をした怪異を殺さなければならない。首を片手で掴み、同じようにねじり殺さねばならない。そうしないといけない。それだけは許せない、許せない、許せない――!!

 ぎりぎりと閉まる指は、およそ人の力ではない。後ろの貴人による加護を受けて、鏡子の体を媒介とした式神の行使だ。花が嘲笑う。本当にそれでいいのか、いいのだ折ろう、折れ、折れ、折れ!

 屈辱に唆された感情が燃えている。舞い上がる鳥が鳴くその一線に、――雷が落ちた。

 その垂直の落雷は、鏡子と花に一線を引く。思わず貴人が鏡子を抱き上げ後ろに飛び退いた――その眼前に、賀茂次晴が立っていた。満身創痍の体を奮い立たせ、歪に笑う花から鏡子を守る巨木のような力強さで立っていた。


「鈴佳殿より知らせを受け参上いたしましたが――やはり妹君、姉の有り体をわかっていたか! ……何をしている鏡子ッ!! みすみす怪異の懐に飛び込むなど、虫にでもなったか!?」


「……え、っえ、次晴!?」


「来る。貴人ッ、鏡子殿をお守りせよ!!」


「言われなくとも」


 真上に影が差す――。

 それは吸盤より直下に重力を加速させて縛り付け、この海中に砕き落とす神の一手。神には神が対抗しなければならない。怪異の花は、はらりと散った。

 次晴は炎を纏いその場を抜け出し、鏡子は貴人に引っ張られてその一撃を辛うじて避けた。辺りに打ちあがる水しぶきで虹が出来ている。それを見上げていると唐突に咳が込み上げて、息を肺が求めた。たまらず貴人に縋りつく形で息をして、鏡子は自らの首をさする。もしかして、鏡子が首を絞めていたんじゃなくて……全ては、逆――?


クトゥルフ神話TRPGの公開できたー!! やったー!! 人生の一つの目標たっせーい!

あ、あと……紅い蝶ずっとやってましたずみませええええん!!!!

もうもろ影響されているっていうか無理でしょ無理無理だってバイブルだもん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ