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欠片の傷跡  作者: 大己貴 椿(オオシキ・ツバキ)
7/7

理由


  *


「何て事だ、まだ十五歳だぞ、十五歳。全く」


 死者五名重軽傷者十三名、その他騒ぎに巻き込まれ怪我した者多数。


 事件は世間を駆け巡った。マスコミはこぞって事件を書き立てた。社会、教育、混沌、少年法、議論は巻き起こり、生い立ちやら異常性やらある事無い事喚き散らした。ワイドショーからニュースまで飽きもせずに繰り返す。


 只その名は“少年A”とだけ記されていた。


「甲斐陽介、十五歳、間違い無いな」


「ああ」


 陽介は椅子に背をもたげ包帯を巻かれた手を背凭れの後の方でぶらぶらさせる。


「何であんな事した、言ってみろ」


「何でって、そんなのよりおっさん煙草くれよ」


「ふざけるな、お前何したか判っとるのか」


「銃をちょっとバァーンってな、ヒャヒャ」


 陽介は左手をかざし人差し指を立て銃を撃つ振りをする。


「お前、警察を舐めるなよ」


「ああ、そうだったねえ」


 陽介はケケッと下品に笑う。


「鉄格子もでけえライトもカツ丼も無えから警察ってすっかり忘れてたぜ」


「心配するな、これ以上ふざけるといつでも思い出させてやるからな」


 警官は陽介の胸ぐら掴んでグッと睨む。陽介は怯む事無くガラス玉の瞳で警官を下から睨み上げる。


「俺ぁどうなっても平気なんだぜ。それより俺に手ぇ出して大丈夫なんかよ、おっさん」


 警官は睨み付けたまま手を放し陽介がドサと椅子に落ちる。


「クソガキが」


 陽介はニヤリと笑い唾を吐く。それが警官の顔に掛かる。警官の顔が見る見る赤らみ怒鳴り散らす。


「貴様、ぶっ殺してやろうか」


「だからさあおっさん、俺ぁ殺されようが刑務所に入ろうが平気だって言ってるじゃねえか。頭悪ぃなあ」


「何だと。」


「いやあ、刑務所じゃあ無くて少年院だったぜ」


「……こいつ、全部計算ずくだな」


 陽介は肩を竦め両手を軽く広げ大袈裟にジェスチャーをする。


「アンタ本当に馬鹿だなあ、んなの計算ずくで出来る訳無えぜ」


 それから陽介は壁だけの部屋をぐるり見渡し警官を見、とうとうと語る。


「ゲームかテレビの影響か、親の所為だの学校がどうの、もう一人の自分が自分の中で暴れるんだなんてさあ、泣きながら言うと納得かよ。その気になりゃあなあ、言い訳なんて山盛り言えるぜ。少年だから、なんてさあどうせ通りゃしねえんだよ。人生本気でリセット出来るなんて思ってる奴ぁ若いのに一人も居ねえぜ」


「それだけ解って何でお前は……」


「面白かったろ、死人が五人怪我人十三人、きっと歴史に残るぜ。理由なんて無えぜ、自分でもよく判らねえ、只ちょっと退屈してたんだ。何だったら精神鑑定でもするかい、気違いの振りすりゃあ無罪なんてさ、弁護士もよく考えたもんだぜ」


 陽介はニヤニヤと息吸いながら笑う。


「退屈、……それだけで……」


「俺ぁ大人の望むガキをちゃんとしてやるぜ」


「甲斐陽介、君は只のガキじゃない。お前は只の人殺しだ」


「有り難う、オマワリサン」


 静かな薄暗い部屋に二人の息飲む音がする。


「なあおっさん煙草やっぱ駄目か」


 警官は、後にも先にもこれが最後だ、と言いながらくしゃくしゃのセブンスターを一本陽介に差し出す。陽介は目を細め深く息を吸い込む。ふうっと息を吐く。香ばしい匂いと紫煙がゆっくりとしかし確実に部屋に満ちる。


「不味い煙草吸ってんなあ、おっさん」


 陽介は警官に顔を向け、軽薄にそして嬉しそうに笑う。


「何て腐った目だ」


 警官が口惜しそうに吐き捨てる。調書を書く速記のカリカリと言う鉛筆の音だけが静かに部屋に響く。


  *


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― 新着の感想 ―
[一言] 不謹慎かもしれませんが、情景がリアルに浮かびあがってきて、面白かったです。 このあとこの子供たちがボクサーになる未来だったのかな? と思いました……。
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