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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「イクシラ革命戦線」編
28/369

A級凍土イクシラ

あらすじ

境界の崩落から目覚めた道周は、イクシラの凍土に阻まれ道を失う。道周は運命を共にするリュージーンとある都市へ向かうが。

 深雪と針葉樹に囲まれた館でマリーが目覚める5時間前。

 雪原と岩肌に囲まれた猟師の小屋で道周は目を覚ました。


「やっと目を覚ましたか異世界人」

「……何だリュージーンか」

「何だとは何だ。滑落して気を失ったお前をここまで運んだのは俺様だぞ」

「そうだったか。山が崩落してからどれくらい時間が経った?」


 道周は身を起こすと、そこがベッドの上だと気が付いた。ふかふかの羽毛、とまではいかないが、木製のベッドに最低限の毛布と保温はばっちりしている。

 尋ねられたリュージーンは火が煌々と燃える暖炉の傍で長い首を大きく傾ける。


「外は雪模様だから細かな時間は分からないが、半日以上は経過している。今は明け方だな」

「そんなに寝てたのか……。って寒っ」


 寝起きの身体を冷たいすきま風が撫でる。身を震わせた道周は頭から毛布を被り、暖をとるリュージーンを睨み付けた。


「一体ここはどこなんだ?」

「イクシラの辺境だ。境界を越えたから魔王軍の追っ手はない、安心しろ」


 リュージーンは言葉を切って傍らに置いていたマグカップを持った。1人分の白湯を飲み干してホット息を吐いた。


「おい俺の分は?」

「ハァー、温まる。

 俺だって崩落に巻き込まれて気付けば一面の雪景色だ。エルドレイクまでの道のりなら分からんでもないが、それ以外の地理なんてさっぱりで」

「おい待てクソ蜥蜴」


 饒舌なリュージーンを道周が止めた。白湯がどうとかではなく、リュージーンが口にしたワードに気が留まったのだ。

 話を遮られたリュージーンは顔を曇らせたが、大人しく道周の質問に耳を貸す。


「誰が「クソ」だ」

「「蜥蜴」は否定しないんだな。

 いや、そんなことはどうでもいい。さっきリュージーンが言った「エルドレイク」って言うのは何だ? 初耳なんだが?」

「お前……、本当に何も知らないんだな」

「あ?」


 溜め息を吐いたリュージーンを道周が睨み付けた。

 リュージーンは渋々と言った顔で丁寧な解説を加える。


「いいか異世界人(ビギナー)。「エルドレイク」って言うのはイクシラ最大の都市の名前だ。エヴァー生まれエヴァー育ちの俺だって場所くらい把握している」

「首都と言うやつか。

 よし、行くぞリュージーン。今すぐにだ」


 それだけ言い放ち、道周は急ぎ毛布を脱ぎ捨て立ち上がる。猟師たちが置いていった保存食を盗み食いして、防寒着をかっさらう。


「もう少し日が昇るまで待とうぜ。外はきっと寒いぞ」


 暖炉にすり寄るリュージーンは後ろ髪を引かれまくっていた。

 道周がそんな甘えを許すはずもない。群青のブレスレットから「ヘブン&トゥエルブ」の制服を着込み、上からレザーの防寒着を羽織った。

 ぬくぬくと完全防寒を極め込んだ道周は、不承不承のリュージーンを鷲掴みにして雪原へと連れ出した。


「寒い! 寒すぎる! お前の上着一丁寄越せ!」

「黙れ爬虫類、冬眠してろ」

「リザードマンは冬眠しねぇんだよ! しねぇけど、寒いのはNGだ。だから上着寄越せ!」

「そんなに文句を垂れるなら眠らせてやろうか? 永眠じゃボケェ!」


 売り言葉に買い言葉、道周は魔剣を振り抜いてリュージーンといがみ合う。

 敵いようのない道周に、ここはリュージーンが引き下がった。今着ている毛皮を整え、深雪を踏み締めながらエルドレイクまでの案内をする。


「ところで異世界人」

「「道周」だ。俺の名前はミチチカ」

「……ところでミチチカ。仲間の心配はしてないのか? 特にあの金髪の人間(ヒューマン)、ありゃただの女だろ」

「大丈夫だ。マリーには頼れるソフィが付いてる。絶対に無事だ」

「あのおっかねぇエルフか……」


 リュージーンはソフィの顔を思い出して寒さとは別の身震いした。ソフィには剣で脅されたこと数回、最早トラウマになっている。


「今だから言うが、ソフィは「ハーフエルフ」らしいぞ」

「そうだったのか!? 半分が人間なら、もしかすると俺でも倒せ……ないな。うん無理」


 1人漫談を終えたリュージーンは唐突に手を打つ。


「俺はお前たち3人の話を聞いていて不思議だったんだが、探し人は"夜王"ではなく"白夜王"なんだよな」

「何だよ藪からスティックに。

 俺はそう聞いてるぞ。「白夜王がソフィの主で、俺たちの転生を察知した」そうだ」


 リュージーンの突然の問いかけに、道周は白い息を吐きながら返した。

 聞き慣れない慣用句にリュージーンは長首を捻りながらも、声音は低く不信げに重ねて問う。


「ソフィとか言うハーフエルフは信用できるのかよ。俺は不安になってきたぞ」

「親に見捨てられたリュージーンに言われたくはないよ。

 それより、"夜王"と"白夜王"はどう違うんだ?」

「……はぁ。本当に何も聞かされていないのか」


 呆れ返ったリュージーンは深い溜め息を漏らす。

 白い息はしばらくその場に留まり、澄んだ空気に消えていくときリュージーンが重い口を開く。


「いいかミチチカ。"白夜王"はすでに()()()()()

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