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二四将マルムーク

 真実の鏡から『真実』を聞き出した僕たち。

 誰しもが驚愕から逃れられなかった。

 誰しもが軽々しく冗談を吐いたりしなかった。

 ――いや、ひとりだけ例外がいたか。

 左手のイージスだけは「くよくよしないでよ、ウィル」と励ましてくれた。


「――ありがとう。でも、くよくよはしていないよ」


『神々の子でないとは分かったけど、気にしないでいいよ。お父さんはお父さんだよ』


「それは元からだよ。どんなことがあっても僕の父さんと母さんは彼らだ」


『じゃあ、なんでそんなに塞ぎ込んでるの?』


「それはアナスタシアがあまりにも塞ぎ込んでるから」


 アナスタシアのほうを見る。彼女分かりやすいくらいにしょんぼりしていた。

 なにか声を掛けたいが、そんな時間はない。

 僕たちは早足で馬をおいていた場所まで戻ると、馬に乗った。


「アナスタシア、落ち込まないでくれ。君がそんな顔をすると困る」


「……ですがウィル様」


 というアナスタシアを激励する。


「この話はここまで。ここからは国王陛下救出だけを念頭におこう」


 そういうとアナスタシアは納得したようだ。


「分かりましたわ。それでは急いで向かいましょう」


 僕は馬に鞭を入れ、先頭を走る。その後ろをルナマリアとアナスタシアがやってくる。

 僕たちは出発時の二倍のスピードで平原を駆け抜けると、そのまま王都に戻った。



 ――王都に到着する。

 すると宮殿が騒がしいことに気がつく。

 なにがあったのか、アナスタシアは尋ねる。ちょうど、部下がやってきたのだ。


「アナスタシア様、ご無事でしたか」


「わたくしとウィル様は無敵です。ところでこの騒ぎはなんなの? ハロウィンはまだまだ先でしょう」


「それがなのですが、姫様の住まう宮殿に賊が侵入したのです。おそらく、ゾディアック教徒かと」


「……賊」


 アナスタシアは驚かない。僕もであるが。これは想定された事態だった。

 ルナマリアは早速救援に向かおうと提案するが、それは却下する。


「なぜですか?」


 と問うルナマリアに答える。


「たぶん、これは陽動だから。あのゾディアック教徒は国王を暗殺するといった。姫様を襲ったのは囮だと思う」


 と言うとさらに兵士がやってきた。いや、城から出ようとする。

 なんでも大聖堂が魔物に襲撃されているという。


「これもゾディアック教団の手引きですわね」


「おそらくは。本命は国王陛下だ。だから宮殿の本殿に向かおう」

 僕がそう宣言すると、ルナマリアは部下を幾人か呼び出し、一緒に向かうように指示する。

 彼女のその采配は奏功する。

 本殿に近づくと、この国の騎士と思われる男たちが剣を抜きこちらに向かってくる。


「……ヴァーミリオン卿の手下ですわね」


「みたいだね。ゾディアック教徒を手引きしたのかな」


「おそらくは。ということは遠慮なくはらわたをぶちまけてよろしいですわね」


 と言うと彼女の部下たちは「おお!」と雄叫びを上げ、騎士に向かっていく。どうやら日頃から気に入らなかったようでこの戦いは望むところのようだ。


 士気という点からも、実力という点からも頼もしい連中だった。


 騎士が現れるたびにアナスタシアの部下が向かうが、やがてその数も減っていき、ゼロとなる。


 このまま国王陛下の寝所まで行ければなんの申し分もないのだが、敵はそこまで甘くないようだ。


 教団の魔術師と思わしき男がゴーレムを引き連れやってきていた。

 その姿を見てアナスタシアは吐息を漏らす。


「なんという無粋な魔術師でしょう」


 彼女はそう言うと続ける。


「わたくしはウィル様のことならばなんでも知っていますの。ウィル様が世界一素敵な男性であること。世界で一番優しい男性であることも」


 つまり――


 と言うと彼女は足下から木をたくさん生やし、それで即興のゴーレムを作る。邪教徒の魔術師に対抗するようだ。


「わたくしは知っているのです。ウィル様ならば王の『息子』として誇り高い行動をすると!!」


 アナスタシアはそう宣言すると、敵魔術師を引き受けることを宣言する。

 僕はその姿を目に焼き付けると言った。

 深くうなずくと彼女にこの場を託す。


「ありがとう、アナスタシア」


「お礼を言いたいのはわたくしです。陛下をよろしく頼みます」


 と言うと彼女は魔法を使って敵魔術師と戦い始めた。


 敵の魔術師もなかなかに強そうであった。樹の勇者であるアナスタシアと互角の戦いを見せている。


 僕のみたところ、ゴーレムは敵が上、戦闘力はアナスタシアが上、だろうか。一見互角であるが、僕はアナスタシアの勝利を確信していた。


 しかし、時間がないのも事実、僕は惜しむそぶりも見せずルナマリアとともに王の寝所へ向かった。


 本殿の奥。一際立派で一際豪壮な間。そこが王が伏せている場所であった。

 途中、警護のものや宮女と思われる死体を何人か見つけた。


 それだけでも敵、ゾディアック教団は許しがたかったが、それ以上に憎いのは手引きをしたヴァーミリオンである。


 彼は実の兄を、この国の王を躊躇なく売ったのだ。


「もしもアナスタシアさんならば王弟の顔を見次第、はらわたをぶちまけていたかもしれません」


「かもね。そういう意味では彼女がこの場にいないほうが僥倖だったけど……」


 ただそのことを完全に喜んでいいかは分からなかった。


 目の前にその王弟ヴァーミリオンを見ると、彼を切り伏せたい衝動に駆られる。しかし、人殺しは避けたかった。いくら相手が外道でも。


 そう思った僕は短剣ではなく、拳を見舞いするのだが、開幕一番に拳を顔にめり込ませたヴァーミリオンは痛みを見せることはなかった。


「ば、馬鹿な。ウィル様のパンチは熊も昏倒するのに……」


 それは真実であったが、僕は冷静であった。僕はすぐに目の前にいる人が。いや、「物」が人ならざるものだと気がついた。


 顔の形が変わるほどのパンチを受けても平然としているヴァーミリオン。

 彼の両目は真っ赤に光っていた。まるで魔物のように。

 否! 彼は魔物だった。その腹の底からまがまがしい声を発する。


「ほう、小僧、まさかこんなにも早く戻ってくるとはな」


 地獄の底から漏れ出るような低重音。まるで腹にライオンでも飼っているかのようである。

 いや、それは真実に近いのかもしれない。

 王弟はめきめきと身体を変形させると、その本性を現した。


「…………」


 あまりのおぞましさに、ルナマリアは絶句している。

 彼女の代わりに僕が考察を言葉にする。


「どうやら王弟は悪魔に魂を売ったようだ。――もう人間ではない」


 その考察を嬉しそうに受け入れる化け物。

「がっはっは! それは違うぞ、小僧。王弟が悪魔に魂を売ったのではない。俺が王弟の魂を奪ってやったのだ」


「つまりもうその醜悪な身体に王弟の心は残っていない、ということか」


「その通り、俺の名は古代の悪魔。ゾディアック様に仕える二四将のひとり、マルムーク。この脆弱な男の身体を借り、現世に蘇った」


「そして最初の任務が王様殺しか」


「そうだ。王の血を手に入れればゾディアック様復活が早まる。それにこの国は乱れるだろう。さすれば混乱が混乱を生む。混沌こそがゾディアック様を喜ばせる唯一の感情」


「そんな神様などいらない!」


 僕はそう言うと全力を込めて短剣を抜き放った。


 剣閃で相手を切り伏せる。手加減なし、古竜に立ち向かうつもりで抜いた。雄牛の首を吹き飛ばすつもりで剣閃を放った。


 剣神ローニンが伝授してくれた最強の剣閃。

 剣の神が数百年に一度の天才と褒めてくれた僕の剣閃。


 今までどのような強敵も切り伏せてきたその一撃、その一撃がこのマルムークという悪魔には効果がなかった。


 マルムークはそよ風でも受けるかのように僕の剣閃を右手で受けると、それを握りつぶし言った。


「ほお、これが剣の神仕込みの剣閃か。てっきり俺は子供の水鉄砲かと思ったぞ」


 ――はったり、ではないようだ。やつの手はわずかばかりも傷ついていなかった。


「……やるな。これが二四将か」


 魔術の神ヴァンダルからその存在だけは聞かされていたが、さすがは聖魔戦争で神々を苦しめたことだけはある。なかなかに強そうであった。

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